逃亡劇の真実
前回までのあらすじ
天体の策略によりシエラに招かれたディオス、ファズマ、ミクの3人は散り散りとなってしまう。
紆余曲折の末にディオスとミクはモルテと合流。一方でファズマはアスクレピオスに連れられて合流へと動き出す。
そして、モルテの口から出た首謀者の名前。
だが、その名前は皆が予想したものではなかった。
「アドナキエルじゃねぇ!?」
「はい。首謀者はアドナキエルではありません。複製のアムブリエルです」
アスクレピオスからの衝撃的告白にファズマは驚愕のあまり叫んでしまう。
当然だ。今まで天体のことに調べ、アドナキエルがどういった立場であったか知った上で天体反乱の元凶と考えていたのだ。
だが、アスクレピオスは違うと断言した。
「待てよおい!アドナキエルは天体を纏めているんだろ?」
「纏めているから首謀者であるというわけではありません」
天体は数が少なく、加えてそうした組織は指導者といった台頭する者が主導する場合が多い。だが、今回はその例ではない。
末端とまではいかないが組織に所属する1人が全体を巻き込んだ形である。
「そもそも、アドナキエルは反乱には反対でいました」
「はぁ!?」
「しかし、課せられた役割から表向きは賛同の意を示して動向を伺っていたのです。そうでなければアドナキエルがファズマ達を逃がす為に動かない」
認識の相互のズレにファズマが信じられないと言葉を漏らす。
「冗談だろ?それにその言い方、俺達がシエラに招くことを決めていた様に聞こえるが?」
「予想が出来ていましたから。そして、その案を呈したのがアムブリエル。人質として使うと仰っていましたが、生憎こちらの想定の範囲内で対処可能でした」
つまり、モルテ、アドナキエル、アスクレピオスの3人の掌で踊らされていたと言うことだ。
「そもそも逃がすってことは最初に会った時か?それなら、何で俺は殺される目に遭った?」
「アドナキエルでも全てを防げるわけではありません。そうでなければファズマ達をシエラには招かない。これでもかなり時間を稼いだ方です。モルティアナ様がわざと捕らえられてすぐに出たのだから」
アスクレピオスにそう言われてその通りだと納得せざるを得ない。
「だが、折れたってことには理由があるのか?」
「抑えきれなくなったからです。反乱に加担する天体。特にバルビエルの反発が強く認めざるを得なくなった」
「またそいつか……」
招かざるを得なくなった原因にファズマは顔を歪めた。
なにしろ、殺気を隠すことなくぶつけて殺しにかかって殺されかけたのだ。殺されかけたファズマからすればいい気はしない。むしろ一発痛い目に遭わせたいくらいだ。
「故に私も動いたのです。アドナキエルは直接3人を纏めて守るには時期尚早と考え、わざとバラバラにしたのです」
「何!?」
「モルティアナ様の推察もありましたから上手くいきました」
まさか、自分達の逃亡劇もモルテとアドナキエルの掌で踊らされていた事実にファズマは驚愕する。
「待て!つまり、俺が殺されるのも想定済みだったのか!?」
「そうです。バルビエルではなく他の天体でも殺される可能性がありましたから」
そう言われて何故か頭に上った血が一気に引いて落ち着く。
「……あり得たな」
敵はバルビエルだけではない。アドナキエルを除けば11人いるのだ。その11人が纏めて襲いかかってくることもあったのだ。いや、反対と悟られない様に動くアムブリエルも数に入る可能性があったのだから結局は12人になる。
それに気付くとバルビエル1人に襲われて殺されかけたのはまだ運がよく、更にアスクレピオスに助けられたのは幸運であったのだ。
「アドナキエルは天体の目を散らして動きにくくし、3人が逃げ切れる様にしたのです。その為に私にファズマを預け、ミクには森の母と呼ばれる力でシエラの住人や幻獣を味方に付けて無闇に手を出させない様にし、ディオスには全く手出しが出来ない場所に隔離することとなった。同時に四大天族には天体が更に動きにくくしてもらう為に更なる対立姿勢を誘発したのです」
それがディオスとファズマの喪失を皮切りにしたものとアスクレピオスは言う。
だが、何とも回りくどいやり方に加えて目的の為に利用されたファズマはいい気持ちがしない。
だが、そんな気持ちとは裏腹にアドナキエルに助けられていたという事実に釈然としない。
「そこまで上手くいくものなのか?」
「可能性は大きかったですし、それを可能にさせる条件全てがありました。アドナキエルが少し手を加えただけで後は何もしていません」
どうやら上手すぎる逃亡劇序盤は問題らしい問題がなかった様だ。
それでも、殺されかけた事実は消えないとファズマは顔をしかめた。
「とは言え、予想通りにならなかったものもあります」
「……まさか、ディオスか?」
「はい。保護してくださる予定の天族が殺され、それを利用されて捕まってしまったのです」
それは逃亡と言う安全なレールを敷いていたアドナキエルにとって誤算であったはずだ。
「ん?待てよ、それは予想出来たんじゃねえのか?」
今までの話からアドナキエルが予想出来なかったのはおかしいと訴える。
「はい。予想は出来ていました」
ファズマの訴えをアスクレピオスは認めた。
「しかし、誤算を気付かせないのがアムブリエルです」
そして、未然に防げなかったと言う。
「それが結果としてミクと四大天族の襲撃に繋がりました。ここまではやく事態が動くのは、私を含めモルティアナ様、アドナキエルも予想外であったでしょう」
アスクレピオスが言う予想外は良い方向か悪い方向かはいまいち掴めない。
だが、ファズマはこれを良い方向と捉えて話を続ける。
「釈然としねえが、店長とお前達のお陰で助かったということは分かった」
素直にお礼を言えればいいのだが、話し初めてから話しの論点はずっとずれている。
「話を戻すが、そもそも何でアムブリエルが首謀者と言った?」
この話しにおける最大の謎にファズマは再び追及する。
その言葉にアスクレピオスは一度目を閉じると、まるで諦めた様に言う。
「今の天体が12名と言うことは話しましたね?」
「ああ。お前を入れれば13だが、お前は残り12人を監視する立場にあるんだろ?だから今の天体の数には入っていねえ」
今更その話を振り替えされても困るとファズマは訴えるが、アスクレピオスはそれは重要なことであると目で訴える。
「私が監視する天体の数は11人。そして、私を含め今の天体を構成しているのは、3人です」
「はぁ?」
更に訳が分からないとファズマは声を上げた。
◆
「待って下さい!」
部屋から出ようとするモルテをセラフィナが慌てて止めた。
「店長!何勝手に出ようとしているんですか!」
「首謀者の名前を言っただろ?」
「モルティアナ様、何故アドナキエルではなくアムブリエルなのですか?」
「その理由を教えてください!」
セラフィナに続いてディオスも待ったを掛けて理由追求を求める。
それを受けてモルテは仕方がないと足を止めて振り返る。
「今の天体は12人であるのは知っているな?」
確認の為に聞くと違うと言う意見はない。アスクレピオスの立ち位置は四大天族が周知している為に数には入れておらず、そもそもアスクレピオスの存在を知らない一部は指摘する言葉がない。
「だが違う。今の天体は今も昔も2人だ。監視者を入れると3人だがな」
「えっ……?」
これに真っ先に反応したのがセラフィナ、フレイア、ダグザの四大天族の3人。
「師匠、天体って12人じゃないの?」
「そうですね。それに、監視者がいるなど初めて聞きました」
ミクとヴァビルカ前教皇もどういうことかと質問と疑問を口にする。
「実は天体は監視者を入れて13人だが、本当は3人の組織か?訳がわからんぞ」
数が統一しないことでハイエントが頭を抱える。
「そもそも、何でそんなに数が変わるのですか?いや、数だけじゃないですけど……」
ディオスもこれには困った表情を浮かべた。
全員がモルテは何を言っているのかと理解出来ない。何かの謎かけかとも思ってしまうが、残念ながらこれは謎かけと楽しむものでなければふざけたものでもない。
しかし、モルテはその謎の答えを言う。
「残り10人は全てアムブリエルの分体だ」




