それぞれの道
ファズマの過去を知ったディオスはふと、ある疑問が思い浮かんだ。
「あれ?それじゃどうして今は一緒じゃないんだ?」
話からファズマ達がモルテに恩を感じていることはわかった。しかし、今はファズマだけがモルテが営んでいる葬儀屋に勤めている。それは何故なのであろうか。
「一緒にいることが最も恩を返すことでもないからだ。つか、ディオスも似たようなもんだろ」
言葉の意味もそうだが自身も似たようなと言われディオスは首を傾げる。
「と言うのは建前で、本当は全員店に勤めることが出来ねかったんだ」
「え!?」
それは一体どういうことかとディオスは驚いて立ち止まって言ったファズマを見た。
「住み込みだろ。部屋がたんねかったかんだ」
「理由がそれ!?」
予想外の理由にディオスが叫んだ。
事情を知るファズマもさすがにこれには力なくうなだれた。
「これでもしばらくは倉庫で全員寝泊まりしてたんだぞ」
「倉庫に……」
倉庫と聞いて葬儀屋フネーラの倉庫を思い出す。
はっきり言って葬儀屋フネーラの倉庫はものであふれかえっている。唯一、仕事場につながる床周辺と屋根へと上るためのスペースが空いているだけでとても人が寝れるようなスペースはない。
「言いたいことは分かる。昔は物がなく寝れたんだ。だがな、修理や葬儀道具の材料で先代店長が収納していた時よりも増えて居にくくなったんだ。しかも部屋がせめぇから全員横になって寝れねえ」
予想外の展開に納得せざるを得ない。それよりも修理とは何なのか聞きたいが部屋の広さには納得する。現在、ディオスとファズマが寝泊まりしている部屋はベット二つと小さなクローゼットのみ。部屋の面積が殆ど埋められていてとても子供が五人寝るには出来ない。
「それで相談したんだ。寝泊まり出来る部屋は二つ。内一つは店長が使っていて出来ない。そもそもそこは除外していた。で、誰が店に残るかって話をして俺だけ残ることになったんだ」
そう言うとファズマはため息を着いた。
「あの時は反対したんだ。だがな、あいつらが俺の方が店長と長くいたから何とか理由を付けて店に置こうとしたんだ。終いには葬儀屋になるのをあきらめるだ。よけいに胸くそわりぃだろ」
それは当時のファズマからしてみれば非常に後味が悪いものであった。また仲間とは別々に、しかも優々と店に居座ることになるのを望んではいなかった。
「俺はあいつらをまたスラム街に戻したくなかったから言い争いだ。で、店長が呆れた表情で仲裁。事情を話したらあいつらの話を聞き入れたんだ」
「止めなかったの!?」
「止めねかったんだ」
モルテがヒース達の要望を聞き入れたのにディオスは驚いた。当時はまだ子供であった彼らを再び手放したのである。
モルテはヒース達の要望に自立が出来るまで最低限の援助と何かあった時は頼る様にと言ったが、止めてくれると思っていたファズマには裏切られた印象を与えた。
「店長に言ったんだ。何で止めねかったんだと。そうしたら店長屁理屈みてえに『ここにいることが全てではない。離れるからやれることがある』って言ったんだ」
「離れるからやれること」
ファズマが言ったモルテのセリフをディオスは呟いた。
呟いて気が付いた。それは、今の自分の状況、家族と離れて家族に仕送りをする為に働いていることである。
「あいつら、はなから俺に店を任せて自分達にしかできねえことがねえかと考えていたんだ。それがスラム街の環境改善だ」
「スラム街の……」
ファズマの言葉にディオスは周りを見回した。建物はあり住人の表情は穏やか。喧嘩や暴力を振るっているような者は周辺にはいない。
「今の統治議会の後ろ盾もあるがあいつらはスラム街にあえて居座ることにして現状をよくしようと決めたんだ」
それは子供としてはとてつもなく大きな決断である。誰も手を付けることがなかった問題。それに真正面から見て取り組もうとしたのである。
それはモルテと出合ったから。モルテがあきらめかけていた彼らの心を変えたのである。人は変わることが出来る。だからヒース達はスラム街の環境改善に取り組もうと決めたのである。
「だがな、俺はまた置いて行かれると思ったんだ。置いて行かれるしまた一人になるとどうしようもねかった。まだ渋っていた俺に店長が俺に言ったんだ。死神の弟子になれって」
ファズマはここでモルテから死神の存在を聞いたのかとディオスは思った。
「初めは驚いたぜ。死神なんてこえー存在だから頭のネジがいかれてんじゃねえかって。だがな、死神の存在意義ってもんを聞いて見せられて信じざるをえねえって思った」
怖いと一言で片づけたがあれは一言で言いきれるようなものではない。あれは警察に捕まった時以上の恐怖がある。そんなことと正面から向き合うモルテに尋ねたのだ。
「何で俺を弟子にするのか聞いたんだ。そうしたらな、『お前にしか出来ないことだ』と言われたんだ」
「それで弟子になった」
「ああ」
あの時は何故かうれしく感じてしまった。ヒース達が出ていくと言って反発していた
のに恩人であるモルテから必要と言われたのだ。
「必要とされることがどんでだけうれしいことか初めて感じたんだ。だから俺は死神の弟子として店にいるんだ」
やるべきことを見つけたファズマ。その表情は誇りにあふれていた。




