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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
4章 葬儀屋である理由
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アシュミストのスラム街

 スラム街。それは極貧層が集まる場所。

 どの時代にも栄える場所には極貧層が生まれ一ヶ所に集まりスラム街を形成して生活をしている。

 アシュミストもそれは変わらない。いや、それ以上に酷い環境であった。そう、少し前までは。


 ディオスは初めて訪れたスラム街を興味深そうに見渡した。

「あんまり見ねえ方がいいぞ。荒れてる奴は喧嘩を吹っかけてくる」

「あ、うん」

 先頭を歩くファズマに見回していたことを注意され、ディオスはぎこちなく頷くと自身が抱いていたスラム街のイメージを浮かべた。

(何だか考えていたイメージと違うな)

 一般的に思い浮かべていたスラム街のイメージは荒れ果て、荒くれ者が集う場所と考えていた。

 それに、元財閥の出であるディオスは幼いころからスラム街の住人は財閥とは違う世界にいる者、近づいてはならないと聞かされてきたからなおさら荒れ果てたイメージを持っていた。

 それなのにここのスラム街は全く荒れ果てた様には感じられない。

 普通の建物には作りが劣るが存在しており住人も荒くれ者ではなく住宅街に住み人と同じように穏やかに感じた。

「見たい気持ちは分からなくもねえ。こうなったのは最近だからな」

「最近?」

 昔のスラム街がどういった街であったのか分からないが昔を知るファズマからしてみればかなりの違いらしい。

「昔はもっと酷かったからな。スリや強奪は日常茶飯事。喧嘩吹っかけては有り金を奪う。観光客なんかがいい獲物だ。んなことやってる奴は一部だってのにスラム住人ってだけで職はなかなか就けねえし、就けても賃金は低い。食い物がなければ我慢もするし寒ければ歯を噛みしめて堪える。絶望だらけだ。外の奴らは何不自由なく生きているのに俺らはこんなにも不自由している。見えねえ壁ってもんにイラついてあの手この手で生活をしていた」

 スラム街なのに暗黒街に近いものである。

 そんなことをさらっと言ってしまったファズマにディオスは自身がいた世界との違いに言葉を失ってしまった。

「周りは信用するな。気が許せる奴しか信用は出来ない。相手を信じさせて奪え。周りが敵だと思え。スラム住人だからって協力なんてもんは一欠けらもない。治安なんて言葉はもっとだ。蹴り落とす世界がアシュミストのスラム街だった」

 過去のスラム街がとても言葉に出来るようなものではないと感じたディオスだがファズマは何事もなく言ってしまった。

「今のスラム街がこうなったのは店長が呼びかけたからだ」

「店長が?」

 スラム街の現状が温厚になったのは店長が理由と聞かされてディオスは首を傾げた。

「スラム街の治安が悪いのはアシュミストの統治が悪いからって統治議会に叫んでたんだ。その上、首都ランバンで実行していた学業推進や雇用形態をアシュミストでも採用しろ、見直せって。議会委員かって初めて聞いた議会と議会委員って言葉で突っ込んだなあれは。まあ、最初は蹴られたんだがな」

 しかも喧嘩腰だったと付け加えるファズマ。

「色々とあったが五年前に力ずくで統治議会に全部承諾させてスラム街を変える足掛かりを作った」

「ちょっと待って!もしかして、店長は改正に手を出してた?」

 ディオスから改正と聞いてファズマは当時のことを思い出した。

「ああ、確か結果的に統治方針まで変えることになったつってたな」

 それを聞いてディオスはモルテが議会にアシュミスト統治方針改正に手を出していたとは思っておらず大きな驚きを浮かべていたが気持ちがいいものではなかった。


 アシュミスト統治方針改正は五年前のアシュミスト住人に大きな衝撃をもたらした改正法である。

 貴族という地位が廃止され市民と平等になってから100年が経とうとしていたが、アシュミストはシュミランでも一、二位を争うほどに元貴族である財閥の権力が強かった。

 アシュミストは財閥路線が強く公共施設やサービスに多大な金額をかし一部優遇者が得をする財閥優遇統治であった。

 その為に五大都市の一つで観光業を生業にしているにもかかわらず住人の生活水準は低く労働者の数が少なかった。加えて学問や医療といった様々なサービスがなくそれらは全て自己負担であった。

 そういった中で改正された統治法は住人の生活を一変させ豊かにさせた。

 特定の年齢以下は学問が自由に学べるようになり、医療は負担額げ減ることとなった。そして雇用については一定の金額以上を賃金と定め、事細かに記載が要求、分類がなされた上で出身街問わず適用、閲覧が可能となった。

 他にもサービスは実施され、その数は当時の首都ランバンで実施されていた数を上回っていた。

 一方でこの改正で損をすることとなったのが財閥である。

 財閥優遇が一変、市民優遇となったことでアシュミストにおける財閥権力が衰退し、数々の財閥が取り潰されることとなった。


 アシュミスト統治方針改正と聞いたディオスは小さなため息をついた。

(あの頃は大変だったはず)

 まだ財閥にいた頃、その改正案が採決され執行された時、周りがとても忙しかったのをディオスは覚えていた。

 父親であるグランディオは財閥がつぶれないように長く家を空け、知り合いの財閥も似たような状況で屋敷の外から一歩も出ることが出来なかった。そういった中でいくつもの財閥がつぶれて街の発言力を失っていくのを子供ながらに感じていた。

 アシュミスト統治方針改正は財閥の受入れが好意的ではなかったが一般住人からは好意的に受け入れられていた。特にスラム街の住人からは後々感謝すらされている。

「改正する必要があったんだ。だからスラム街も劇的に変わったんだ。職に就くことが出来て収入が増え、警察が見回りに来るようになって治安は安定。その上、統治議会からはここの改善として支援が出された」

「支援?」

 統治議会が支援と聞いてディオスは周りの様子を見まわした。

「そうだ。今の統治議会は力を入れてスラム街を改善させているからな。店長は貧困層ってのはなくなるものじゃねえと言ってるがそれでも最小限に抑え、支援し続けていくことが重要だっつてたんだ」

 改正を足掛かりとした理由。それは救済であった。

 決してなくなることではない問題に目を瞑り何もせずにいることがアシュミストにとってどれだけ悪影響を及ぼすのかアシュミスト住人は理解をさせられたのである。

「店長って行動力があるんだ」

 もしかしたらモルテはかなりのお節介、それとも人道主義者ヒューマニストではないかと考える。それほどまでにモルテが起こした行動はあまりにも大きすぎていた。

 財閥の出であまり好意的ではなかったディオスであったが改正の目的を聞かされて考えを改めた。

(あまり褒められたことじゃねえつってたがな)

 ディオスの呟きを聞いたファズマはあまりいい表情を浮かべてはいなかった。

 モルテの側にいて裏側を知っているだけに褒められないと言ったモルテの気持ちを知っている。改正案が受け入れられる前に起きた事件。その事件を利用して住人と嫌いな警察を味方に付けて当時の統治議会議長及び議会委員何名かを統治議会から追放し改正させたのが真相である。

「まあ、だからと言って人が変わるかって言うのは別だがな」

 そう言うとファズマはディオスに近づこうとしていた一人の男の手を握ると強く握り上げた。

「いていていていて!何しやがる!」

「スリしよってしやがる奴に言われたくねえ!」

 そのまま男を突き飛ばし睨み付けた。

 ファズマに睨まれた男は恨めしそうにファズマを見るとその場から走り去った。

「ああいう馬鹿がまだいるから気を付けろ」

 一瞬の出来事に茫然としていたディオスにファズマは言った。

 どうやらまだスラム街の治安が良くなるのは先らしい。

政治の話し嫌だ~……

穴だらけの方針に嫌気と限界に泣ける…

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