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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
4章 葬儀屋である理由
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古巣へ

 店の扉に「本日臨時休業」と書かれた張り紙がきちんと貼られたのを目にしたディオスはファズマが運転する車の中にいた。

「それで、どういうことか説明してほしいんだけど」

「説明って言われてもどこから説明するかだな。分かんねえことを言ってくれ」

 言えと言われてディオスは最初から気になっていることを尋ねた。

「リナシータが潰れるってどういう意味なんだ?」

「それか。それはさすがに死神の存在意義ってもんを知らねえと話になんねえな。それに口で説明するよりも直接見た方が早いだろう」

「つまり、まだ言えないってこと?」

 また重要なことを隠されるのかと感じたディオスは表情をこわばらせた。

「確かに潰れる要因については言えねえが全く教えねえとは言ってねえ。葬儀業にはな、死神の存在が必要なんだ」

「死神が必要?」

 葬儀業に何故死神が必要なのか分からない。

「殆どの葬儀業ってのは、死神が経営しているんだ」

「殆ど!?」

 葬儀業が死神が経営していると聞かわれたディオスは驚いて思い出した。

 言われてみれば葬儀屋フネーラを営むモルテ、ドライアー葬儀店を営むガイウス、チャフスキー葬儀商を営むレオナルド。思い出せばこの三人は死神である。

「大体は店の責任者が死神なんだが、リナシータのグノシーは死神じゃねえ」

 一方で葬儀屋リナシータのグノシーは死神ではないと言い切った。

「どうして死神じゃないって言い分かるの?」

 断言したファズマにディオスは凝視した。

「まず目を隠していねえ」

「は?」

「まあ、あまり人前に出ることがねえなら必要ねえからあまり期待できる見分けじゃないがな」

 目を隠さなければ死神ではないとはどういうことか分からないディオスは目を丸くした。

「もう一つは死神の間で連絡がねえことだ。殆ど葬儀業を営んでいるのが死神だからな。分裂や新しく店を構えるってなると死神の間で連絡が交わされる。それがねえんだよ」

「それは連絡がなかっただけじゃ?」

「まだあるぜ」

 ファズマはディオスにニヤリと笑った。

「店長がくそ野郎に喧嘩吹っかけたことだ」

「喧嘩って……あれ!」

 ファズマが指した喧嘩とはモルテがグノシーに警告を発したあれである。

「警告したのに冗談っつったんだ。死神のこと知らねえから取れる態度だ。あれじゃ俺らからしてみれば死神じゃねえっつてんだ」

 どうやら死神間では一般人とは違う常識というものがあるのだとディオスは考えた。

「つまり、グノシーさんは死神じゃないから店が潰れるってこと?」

「そうだ」

 分かったことをまとめて呟いた言葉にファズマが肯定したのを聞いたディオスはどうして死神がいないと潰れるのか聞こうとしてやめた。

 恐らくだが今聞いても答えは出ない。それこそ最初の見た方が早いに戻されてしまうと思ったからだ。

「分からないところはまたあとで聞く。多分見た方が早いと思うから」

「そうしてくれるとありがたいな。あれは聞いたっても最初から信じられるもんじゃねえから」

 ディオスから今の質問に対する答えを後回しにすると聞いたファズマは車のハンドルを切った。

「ところで、ファズマは死神なのか?」

「俺は死神じゃねえよ。弟子。死神の弟子だ」

「弟子!?」

 自分で質問したはずなのにファズマの口から死神の弟子と聞かされてディオスは驚いた。

「そんな驚くことじゃねえぞ。ミクも死神の弟子だし、葬儀業を営んでいる人も殆どは死神の弟子だぞ」

「は、働いている人が死神の弟子!?」

 ファズマの言葉にディオスだがちょと待てと自分に言い聞かせる。葬儀業で働く人が死神の弟子であるということは、いずれ自分も弟子となるのではと考える。

「ああ、店長はディオスの意思に任せるって言ってたから無理やり弟子にするつもりはないぞ」

 そんなディオスの考えを読み取ってファズマが言った。

「つうか、そもそも葬儀業が働き手を雇いたがらねえのが死神の存在を広めたくないからだ。秘密を秘匿に出来そうな人。それをできそうな人が雇われて弟子になるんだ」

 ファズマの言葉にディオスは顔を背けた。これで納得がいった。職業案内所で葬儀業が人を雇いたがらない理由が。

 まだ死神という存在がどの様なものかは知らないが死を与える存在は確かに知られてはならないと思う。死とは恐ろしいものだ。そんな死を与えると聞かされたならそれから逃れたくなるものである。

「あれ、そうなると俺は……?」

 そう思ってディオスは葬儀屋フネーラに雇われている自分はどうなのかと思った。

「秘密を遵守することができると店長が考えたから雇われたんだ」

(実際は面白いからなんだがな)

 ディオスの疑問にファズマは真実を隠してそれらしく回答した。

 ファズマの回答を聞いたディオスは頭を捻らせた。

「そんなに口硬くないと思うんだけど……」

「そう言っているってことはあまり口に出さねえってことだ」

 悩むディオスに言うとファズマは車のブレーキをかけて車を止めた。

「ここからは歩きだ」

 そう言うと車から降りたファズマの後を追うようにディオスも車から降りた。

「そういえば、すっかり聞き忘れてたんだけど、ファズマの古巣ってどこなんだ?」

 今さらだなとお互いに感じていた。現にファズマは古巣と言っただけでディオスが尋ねてこなかったのに気づかず、ディオスは話に夢中で聞くのを後にしていただけである。

「あんまり自慢できる場所じゃねえ」

 自虐的に言うファズマだが表情はどことなく穏やかに感じられた。

「俺の古巣ってのはだな、スラム街だ」

 スラム街と聞かされた予想外の場所にディオスは次にかける言葉を見失ってしまった。

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