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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
4章 葬儀屋である理由
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葬儀屋の臨時休業

 グノシーが葬儀屋リナシータの店内へ消えたのを見届けたファズマは吐き捨てるように呟いた。

「くそ野郎かあいつは!」

「馬鹿だなあれは」

 モルテとファズマが一体どうしてそんなことを言っているのか分からないディオスは二人を交互に見た。

「どうして二人ともそんなことを……」

「それはね……」

 驚いて呟いたディオスの言葉にミクが答えようとした時、

「おはようございます」

 四人に声をかけてきた者がいた。

「マオクラフか」

「おはようモルテ。郵便配達マオクラフです」

 もはや名乗りで突っ込みしか思い浮かばない鳥の被り物をかぶったマオクラフであった。

「それは知っている。何のようだ?」

「郵便を届けに」

 マオクラフの名乗りを見事にスルーしたモルテは要件を聞くとマオクラフから二通の封筒を渡した。

「それにしても、全員外に出てるって何があったんだ?」

「あれを見て気づかんのか?」

「あれ?」

 モルテが顎で示したものを見たマオクラフは鳥の被り物を被ったまま葬儀屋リナシータを見ると硬直した。被り物のせいでどの様な表情を浮かばせているのか分からない。

 そして腕を組むと断言して言った。

「馬鹿だなあれは」

「ああ、馬鹿だ」

 ファズマと同じようにマオクラフも罵倒を言った。

「何を考えて葬儀業をやろうと思ったのか。それもよりによってモルテの真ん前で」

「それはこれから調べることだ。まあ、ろくでもない事であろうがな」

 大まかではあるが葬儀屋リナシータの目的に感ずいているモルテはこれからの方針を後回しにしてマオクラフから受け取った二通の封筒の宛名を見た。

「ほう、珍しいところから来たな」

 どことは言わなかったがモルテの表情からその宛先が普段は送られてこない場所であると想像できる。

「これはガイウスとレオナルドの元にも届けられているのか?」

「葬儀業には届けられているはずさ。あ、あそこにはなかったな」

「なるほど」

 モルテはマオクラフに一通の封筒について確認をとると僅かに笑みを浮かべた。

「マオクラフ、そろそろ次に届けに行かなくていいのか?」

 モルテがマオクラフに仕事の催促をしたのを聞いたマオクラフはモルテがどんな様子でありこれから何をしようとしているのか理解した。

 それを裏付けるようにモルテの笑みはこれからの方針が決まったことを意味していた。

「そろそろ時間だから行きます!」

「じゃ~ね~」

 そう言うとその場から走り出したマオクラフにミクが手を振って送っている横ではファズマがモルテに尋ねた。

「それで店長、どうするのですか?」

 どうするではなくどの様にと尋ねている時点でファズマはモルテが方針を決めてしまっていることを理解している。

「そうだな」

 そのモルテはもったいぶるように葬儀屋フネーラの店内へと戻った。その後に続くディオス、ファズマ、ミク。

 店内の中央まで来るとモルテは三人にゆっくり振り返り宣言した。

「休みにする」

「は?」

「臨時休業だ」

「はあぁぁぁぁ!?」

「ええぇぇぇぇ!?」

 突然モルテが休みと言いだしたことに三人が驚いて叫んだ。

「ま、待ってください店長!方針は?」

「何でお休みにするの?店のお手伝いしたい!」

「ミクは本当に手伝い好きだな……」

「何のんきに仕事の話をしているんだ!」

 これからの方針がまさかの休みに驚いたファズマだが、ディオスとミクの微妙にずれた反応に突っ込んだ。

「店長、これからの方針が休みなんですか?」

「そうだ」

 ファズマの疑いかかる様子にモルテはあっさりと断言した。

「休みは葬儀屋リナシータが潰れるまで。それまで好きにしろ」

 そう言うとモルテは未だに驚いている三人を見ると、

「ファズマ、臨時休業の張り紙を貼るのを忘れるな」

 そう言うと店の扉のドアノブを手にすると奥へと消えた。


 扉が閉じた音が合図となり取り残された三人は慌てだした。

「つ、潰れるってどういうことなんだ?」

「店長、何を考えて休みに……」

「お休み長いのやだ……」

 それぞれ別々のことを考えては悩んでいた。

「とりあえずミク、紙とペン準備しろ。店長の指示だ」

「うぅ~……」

 ファズマの言葉にミクは嫌々ながらカウンターにしまわれている紙とペンを探し始めた。

「ファズマ、潰れるってどういうことなんだ?」

「店長から聞いてないのか!?」

 どうやらまだ死神に関する肝心なことを聞かされていないと思われるディオスの言葉に驚いたファズマだがすぐに考えを改めた。

「いや、むしろ潰れる原因を見せた方が説明するよりも手間省けるか」

 潰れる原因と聞いてディオスは腑に落ちない表情を浮かべた。

 一方でファズマは一人で納得すると改めてモルテが休みにした理由を考え始めた。

「そもそも店を休みにしてどうすんだ?店を休みにしなくたってどうせ……」

 潰れる。と言いかけたファズマの口が止まった。

 確かに潰れる。しかし、それがあっても店を成り立たせられる要因があるのではと考える。

 何故葬儀屋フネーラの向かいに店を構えたのか。客を集めようとする経営方針は一体何の為か。居続けたい理由は何か。

 あらゆる疑問を出した瞬間、ファズマの脳裏にふと今回の真相が思い浮かんだ。

「そういうことか!」

 何故こんなにも簡単なことに気が付かなかったのか分からなかったファズマは突然叫んだ。

 ファズマの様子に驚いたディオスとミクは一体何が分かったのかと見る。

「ファズマ?」

「何で気づかなかった?調べるのは俺の役目だろ!」

 完全にモルテの意図が分かったファズマは自身を罵倒するとすっきりした表情を浮かべた。

「ミク、臨時休業って書いたら扉にはっとけ」

「……うん」

「あと、一人で外に出るな」

「ええぇぇぇ!」

「いいな?」

「……うん」

 突然ファズマがミクに指示を出した。その指示は一人で外出を禁じるもの。店が休みになるのに加えて外出禁止となったミクは言うまでもなく不機嫌であったがファズマが睨み付けて渋々頷かせた。

「それと、出かけるぞディオス。今から」

「え!?」

 次に飛び出たファズマの指示に驚くディオス。

「どうして?」

「あのグノシーつうくそ野郎を調べに行くんだ」

「調べるってどこに?」

 目的はグノシーであった。グノシーの何をではなくどこへと尋ねてきたディオスにファズマはとりあえず目的地を聞いて説明を後にすればいかと思い言った。

「俺の古巣だ」

 今では情報収集以外で訪れることがなくなった場所であった。

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