葬儀屋リナシータ
「これはまた……」
葬儀屋フネーラの四人は店を背にしていた。
「何を考えているのか」
「厄介なことになりました」
「うん」
「厄介って言うより大変じゃ……」
四人が見つめる店の向かいには「葬儀屋リナシータ」と書かれた看板が掲げられた店が開店していた。
「何で同業の店が向かいにあるんですか?」
確か向かいは店を開くとして一ヶ月半程前に改築をしていたはず。それが最近終わり荷物が運ばれていくのを目にしていたが、まさか葬儀業であるとは思わなかった。
「店長、何か聞いてますか?」
「何も聞いてはいない」
モルテは腕を組むと看板を改めて目にした。
「葬儀屋を営むなら連絡があるはずなのだが」
「その連絡がないってことは……」
モルテの言葉にファズマが向かいの葬儀屋がどういうものか理解した。その時、葬儀屋リナシータの扉が開き一人の男が出てきた。
「初めまして。葬儀屋フネーラの皆様で?」
出てきた男は紳士的に声をかけてくるとモルテに手を差し出した。
「葬儀屋フネーラの店長ですね?私は葬儀屋リナシータの店長グノシー・リナシータです」
「葬儀屋フネーラ店長モルテだ」
葬儀屋リナシータ店長グノシーが差し出した手。その手をモルテは握ることなく無言で睨み付けていた。
グノシーはモルテの目付に気づいていないのかさらに口を動かし始めた。
「本日は私の店、葬儀屋リナシータ開店の挨拶に赴きました。これから末永くお願いいたします」
前置きが終わったと見たモルテは睨み付けたまま、けれども内心ではつまらなさそうにグノシーに言い放った。
「酔狂なものだな」
「はい?」
「酔狂だと言ったのだ。前から店を構えている向かいに同じ店を設けるとはな」
それを聞いたグノシーが僅かに唇を綻ばせた。
「この街に葬儀業がもっとあったらいいと思っただけです」
「どういうことかね?」
「この街の死者数に対して葬儀業を営む店の数が少ないと言っているのです」
「十分だ。この街には三つの店がある。これでも少ないと言うのか?」
「少ないです。だから私も葬儀屋を営むこととしたのです」
言い訳としては合格とモルテはグノシーに判子を押した。
実際に五大都市の一つであるアシュミストの人口は多く日に日にどこかで誰かが亡くなっている。死者数ももちろん多いが葬儀屋を営む三つの店が全てを執り行える範囲であるから決して店の数は少なくはない。
「ならば何故この店の向かいに店を構えたのだ?」
「手頃な物件がここしかなかったからです。私も考えました。この場所に葬儀業を営む店の向かいに構えてもいいものなのかと。考え考えて上手くやり合えればと思い設けることにしたのです」
「なるほど」
(見え透いた嘘を言う)
熱を入れて話すグノシーの態度にモルテの評価は酷評であった。既に向かいに店を構える時点で何かあるとモルテは考えているのにグノシーはそんなモルテに気づいていない。
「それに、今の葬儀業は古いと思うのです」
「どういうことだ?」
すると、グノシーはあざ笑うかのようにモルテに自身の経営方針を口にした。
「今の葬儀業は依頼を受け適切な金額の元で相応の葬式しか営んでいない。こんな経営でいいものかと思うのです」
「何が言いたいんだ?」
グノシーの徴発するような言動に今まで黙って聞いていたファズマが睨み付け今にも襲おうとする様子にモルテが手で制した。
「ずばり、今の葬儀業には相応以上の葬式をする必要があるというのです。少ない金額で相応以上の葬式を営み安らかに眠ってもらう。それが今の葬儀業には必要と考えています」
「なるほど」
グノシーの経営方針を聞いたモルテは真剣な表情を向けた。
「そちらの方針は理解した。その上でこちらからは忠告を一つ」
忠告と思わぬ言葉にグノシーが僅かに驚いた表情を浮かべた。
「今すぐ店を閉じた方が身のためだ。さもなくば一週間以内に潰れることとなる」
予想外の言葉にディオスとグノシーがモルテを凝視した。
しばらくしてグノシーが鼻で笑った。
「面白いご冗談を。ですが構えてすぐに潰れるとはあり得ないことです。どうやらこちらの経営方針に不満を抱いているようですね」
グノシーはそう言うと一礼をした。
「本日は挨拶のみです。これにて失礼いたします」
そう言うとグノシーは葬儀屋リナシータの扉を開け、店へと戻って行った。




