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「うわぁぁ……」
ガイウスの悲鳴を屋根から聞いたディオスはさっきまで自分が一体何なのかと聞きたかった思いが一気に引いてしまっていた。しかも、屋根から普通に人を突き飛ばしたのにも関わらず平然としているモルテに恐怖を感じていた。
「なに、あれくらいでガイウスは死なん」
「見た目通り頑丈ですからね」
「死なないって、死にますよあれ!」
今までの状況からガイウスの扱いの悪さをまで目にしたディオスは全力でモルテとレオナルドに突っ込んだ。
(それよりも、何で落としたのに余裕なんだ?)
ガイウスを落としたにも関わらず気持ちにゆとりがあるかのように話を再開させたモルテとレオナルドにディオスは頭を抱えた。
「あれから分かったことはあるか?」
「ないですね。小まめに連絡をするようにアンナに言いましたが何一つ。分かっていることは遺体が見つかっていないこととあれから犠牲者が出ていないことだけ」
「そうか。昨日の雨だ。荒れ狂う河の様子を見に行かなければ命を落とさないからな」
「荒れ狂う河に近づいてはいけない。河の魔物に喰われる。ですか。昔から伝え聞かされた迷信とは言え水の力の恐ろしさを唱えているというものだ」
そう言うと二人は目に力を集中させ河が良く見えるようにした。
「それにしてもここですか。今回の生霊はロマンチストで」
「状況が状況だからな。それにしても紳士が言うセリフとは思えんな」
「いいではありませんか。それに、富裕街に店を構えているだけで紳士ではありません」
「先代が聞くと怒鳴るぞ」
「祖父は紳士の鑑でしたから」
「何を言う。チャフスキー葬儀商の店主は紳士であると聞くぞ」
「それはあくまで祖父です」
「自分を贔屓するのはやめろ」
「贔屓ではありません。事実です」
他愛もないない雑談を交わすモルテとレオナルドであるが目線は河を向いたまま。互いに顔を合わすこともなく生霊を探していた。
「それよりも、モルテの方はどうなんですか?」
「どうとはなんだ?」
「まだ調べているのでしょう?」
「あれか。調べていると言うよりも探していると言った方がいい。が、あれ以来全くなしだ」
「やはり、前にモルテが言った通りですか」
「そうだ。消されている」
これをきっかけに二人の会話が一旦止まった。
今までの会話に口を挟まず聞いていたディオスはいくらか分からない部分もあったがその会話の一部には葬儀業責任者が独自で行っている何かを共有しているのではと考えていた。
「計画的か突発的かは分からんが見つかるまで気は抜けんぞ」
「だそうですよ。ガイウス」
レオナルドの発した言葉を聞いたデォオスは目を丸くした。
「え?」
「な~んで俺?」
「うわあぁぁぁぁぁ!」
モルテにより落とされたはずのガイウスが屋根まで這い上がって来たのを見たディオスは悲鳴を上げた。
「ほら、丈夫だったでしょう」
「丈夫って……頭から落ちたのに!?」
這い上がりながら呟いたガイウスの言葉を無視して言ったレオナルドの言葉にディオスはあり得ないと言う様子で叫んだ。
「それよりも、何で余裕何ですか?落ちたのに!」
「いつものことですから。それに、これはモルテの地雷に触れたガイウスの自業自得です」
「俺~何か言ったか~?」
「言ったからモルテの制裁を食らったのではないですか」
自分達のペースで話を進めてしまう葬儀業責任者達にこの件に関する突っ込みや追求を諦めたディオス。正直に言ってしまうとこれにより洞穴を掘ってしまっては身が持たないと感じたからである。
「そ~れで、な~んで俺に言ったんだ?」
「彼が最後に消えたのが新住宅街だからです。当然事が起こらないように監視をするのがガイウスの役目です」
「全部丸投げ~してないか~?」
「役割というものです」
レオナルドが言う『彼』とは誰の事か分からないがどうやら見つけなければならない何かがあるらしい。
「いたぞ」
ガイウスとレオナルドが雑談をしている間もモルテはずっと河を見て、生霊を見つけた。
「どこにですか?」
「河沿いに面する通りが一部つき出しているところの近くだ」
「確かにぃいるね~」
モルテが見た場所。そこを見てガイウスとレオナルドは確かにと、見つけるものが見つかったと見て表情が変わった。
「あの、何を見つけたんですか?」
一方でもう完全に置いていかれているディオスは力なく尋ねた。
「これは直接見た方が早いですね」
レオナルドはそう言うとディオスの手を握った。
握られた瞬間、モルテに肩を捕まれた時と同じように視界がよくなった。
「レオナルドさんも店長と同じ……」
「さあ、こちらへ」
驚いて尋ねようとしたディオスだがレオナルドはそれを遮るとモルテとガイウスの近くまで引いた。
「ここからあそこを見てください」
レオナルドが指差す場所。モルテとガイウスが向けている視線の先にディオスは好奇心でその方向を見た。
「え……?」
視線の先にいた者。
そこには月明かりに照らされた青白い女性が座っていた。




