ディオスの独り言
店番をしながらディオスは未だに考えていた。
「一体どうゆうことなんだ?」
朝食の席でモルテが言った言葉をディオスは全く理解していない。
「何で山で土砂崩れが発生しただけで夜に注意しないといけないんだ?」
注意するようにと言われた経緯を思い出しながら考え始める。
シュメライット山からアシュミストまでは車で二時間ほどかかる。それほど離れているわけではないが洪水は元より土砂がアシュミストにまで流れるとは考えられない。
だったら何故モルテは注意をしたのか。
「そういえば、降りるとか登るって言ってたな……」
そう言えばとモルテが注意をするようにという前に言っていた言葉を思い出す。
「確か、どのくらいの速さでここまで来るかって言ってたような……」
一体何がアシュミストへ来るかは分からないが、ふと、頭に何かが浮かんだ。
「水に関係している?」
速さと呟いて何故か河を流れる水が思い浮かんだ。
「確かにまだ昨日の雨で河は荒れてるけどすぐに引くはずだし……」
雨が降ると新住宅街側の河が荒れるのは知っている。しかも、そこから水路へ水を引いているから水路の水は水量が増してものすごく早く流れる。
その間は誰も河の近くへ近づこうとする者はいない。しばらくすれば河の流れは収まり水量も減る。そうなれば危険は少ない。
「それで何で夜なんだ?」
注意するようにと言ったのが恐らく水関連であろうと考えたがどうして夜限定なのかが分からない。
「夜か……」
自分で呟いて何だがディオスはカウンターに倒れ込みながら思い出す。
(あの幽霊は怖かった……)
もう一ヶ月半くらい経とうとしているのに新住宅街で見た愚者の幽霊は怖かった。
あんなにも存在感があり生々しいものが幽霊なのかと初めて知った。
正直言ってあんな幽霊はもう見たくない。
「そう言えば、店長、幽霊見えるって……」
モルテたけでなく葬儀屋全員が見えるということを思い出してディオスは顔をカウンターに向けてうつ向いた。
「多分ディオお兄ーさんも見るよ」
「うわぁぁぁぁ!!」
その時、背後から席を外していたミクに声をかけられ、ディオスは驚いて悲鳴を上げた。
「な、な、な、何だ、ミクか……」
「ビックリした~」
声をかけたのがミクと気づきディオスは気持ちを調えて、ふと、ミクが言った言葉が気になり尋ねた。
「ところで、多分見えるって言ってたけどどうゆう意味なんだ?」
幽霊が見えるのは霊感を持つものだけと聞いているディオスは言葉の意味を聞く。
「えっとね、あたしは最初から見えるんだけどね、ファズはここに来てから見えるようになったんだって」
「え……」
一瞬、いや、聞くんじゃなかったとディオスは心の底で後悔した。
つまり、葬儀屋に住んだら嫌でも霊感が備わって見えるようになると言うのだ。
「だからね、ディオお兄ーさんも見えるようになるよ」
「いやいやいやいや、見たくないし!てか何で嬉しそうに言うの!?」
ミクの嬉しそうに言う様子にディオスは全力で突っ込んだ。
そもそも、何で見えるようになるのか聞きたい。
そんなことを思っていると店の電話が鳴り出した。
ディオスは電話の受話器を握るまでの間に今までの気持ちややり取りに区切りをつけると受話器を取った。
「お電話ありがとうございます。葬儀屋フネーラです」
「おお~ディオの坊主かぁ~?」
電話に出ると相手は独特の話し方をしていた。
その話し方と声を聞いたディオスは相手が誰かすぐに分かった。
「もしかしてガイウスさんですか?」
「そぉ~だよぉ~」
やはりガイウスだった。
ガイウスとは学友カリーナの葬式で初めて顔を合わせた。あの時は独特の話し方とやっと顔を見られたとかで仕事そっちのけにしそうな勢いでガン見されて驚いたが、今では何事もなくやっている。
「どうかなさいましたか?」
「いやぁ~モルテいる?」
「すみません。店長は今手が放せないんです」
電話はどうやらモルテに用があったらしい。
そのモルテはファズマと共にさっきから二階に籠って何かをしているらしい。らしいと言うのは何も聞かされていないからだ。
「少し時間がかかるかもしれませんがお呼びしましょうか?」
「ああ、いいやぁ~。モルテの方もいっそがしぃ~ようだしぃ~」
もしかしたら無理をすれば電話に出るかもと考えたディオスだがガイウスはあっさりとこれを拒否した。
「そぉ~だな~……そんじゃ伝言お願いしようかねぇ~」
考えた末にガイウスはディオスに伝言を頼むことにした。
「伝言ですか?分かりました」
「おお!助かるねぇ~。それじゃ言うぞ~」
ディオスは一句も聞き逃さないと受話器に耳を傾けた。
「レオナルドからだ~。犠牲者が出た」
「え?」
一体どうゆう意味か分からない言葉にディオスは声が出た。




