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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
1章 新従業員採用
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葬儀屋の洗礼

 葬儀屋フネーラの前には車が一台止められており、その近くにはアドルフの部下二人が店の前で立っていた。

 そこに、店に入っていた二人の上司であるアドルフが出てきて指示を出した。

「話が着いた。入れるぞ」

 その言葉に部下の一人が車の後部扉を開けると麻袋に入れられた遺体を乗せた担架を持ち上げた。

「何で俺がこんな事を……」

 そう呟いたのは新しくアドルフの部下なった若い新米部下。

 遺体の搬入が葬儀屋の仕事と思っていたのに自分が遺体を店に入れなければならないとは思っていなかったのだ。

「まあ、多分今回だけだと思うが?」

 新米部下の発言にいくつか年上の先輩部下が意図を察して言った。

 意味が分からず新米部下は先輩部下にどういう事かと尋ねるように顔を上げた。

「これからはここの葬儀屋の世話になるんだ。店長と従業員の顔合わせだ」

 そして、これから起こる洗礼もだ。

 洗礼については上司であるアドルフからきつく口止めをされている。はっきり言って経験している身でもある為に新米部下が下手をやらかして巻き添えで店長の地雷を踏むのだけは避けたい。

「そうですか」

 先輩部下の説明に素っ気なく答える新米部下。はっきり言ってどうでもいい。早く遺体と離れたいからだ。

 店の扉は銀髪の若い従業員が開けたままにしてくれたおかげですんなりと入れた。

 新米部下は担架を持ち上げたまま店内を見回した。

 上司の隣には恐らく店長であろう赤髪で眼帯の男。テーブル席には客と思われる従業員よりも若い茶髪の少年。そして、カウンターにはいるにしてはおかしい金髪少女がいた。

「遺体は向こうの仕事場に。ファズマ」

「はい。こちらです」

 店長の指示に扉を閉めたファズマと言う従業員が二人の部下を誘導した。


(あれ……仕事場!?)

 モルテの言葉にディオスは二人の警官がカーテンで閉められている所へ向かうのを見て思い出した。

(確か、向こうにはあの郵便配達の人が!)

 マオクラフが天井に突き刺さったままであるのを思い出して慌てふためく。

 そんなディオスの様子を知らない警官二名はカーテンの前に着いてしまった。

 ファズマは気にせず店内と仕事場を仕切るカーテンを開けた。

 そして、それは起こってしまった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 新米部下の目に飛び込んだのは人間の頭が天井に突き刺さっている光景であった。

(やっぱり驚くよな?)

 その反応にディオスはこれが日常ですと言っている葬儀屋の異常さに適切なリアクションをした新米部下の反応が自分の感覚がおかしいのではないという安心感をあたえた。

「あっ馬鹿!」

 驚いてたたらを踏んだ新米部下についていけなくなった先輩部下が声を上げた。そして、新米部下が担架を手放し、乗せていた遺体もろともその場に落ちた。

「馬鹿者がぁぁぁぁぁ!!」

 その光景に今まで黙って様子を見ていたモルテが物凄い剣幕で叫ぶと新米部下へと詰め寄った。

「遺体を粗末に扱うな!」

 モルテの逆鱗に触れ怒鳴られる新米部下。だが、新米部下はそれどころではなくモルテと天井に突き刺さっている人間を交互に見ていた。

「あ、あれ何!?何で人が……」

「話を聞かんか!」

 更に怒鳴られる様子に先輩部下は洗礼を受ける新米部下を哀れに思いながら、自分は怒鳴られずによかったと安堵していた。

「貴様もだ!!」

「えぇぇぇ!」

 そう思ったのもつかの間、モルテの怒声が自分にも向けられ驚く先輩部下は一緒に説教を聞く事になった。


 モルテの説教を聞き流しながらアドルフは頭を天井に突っ込んでいるマオクラフを見ていた。

「今度はマオ坊か」

(今度はって何!?前にもこんな事やってるの?)

 特に驚いた様子ではないアドルフの言葉にディオスは心の中で突っ込んだ。

「また突っ込んだのか」

「はい、また」

「まただよ~」

(ちょっと待ったぁぁぁぁ!!)

 三人のやり取りを聞いたディオスが更に突っ込んだ。

(何で刑事さんそんなに冷静なんだ?あれって一大事じゃないのか?)

 そんな事を考えるディオスをよそに雑談は続いていた。

「行くとは知らせていないのに看板まで準備しているとはな」

「準備がいいんですよ」

「相変わらず手際がいいな」

 よく見ると天井に刺さっているはずのマオクラフが大成功と書かれた看板を見せている。しかも、最初から仕組んだような流れになっている。

 これが普通なのだと話をするファズマとミクとアドルフについていけないディオスは突っ込みをあきらめた。

「とりあえず歓迎は終了したので叩き落としてきます」

「マオ坊にも仕事があるからな。そうしてくれ」

「あたしもやる~」

 そう言って、マオクラフを天井から引き抜くのではなく叩き落とすためにファズマとミクは店内の奥へと通じる扉の向こうへと消えた。

 店内には説教を続けるモルテと説教を聞かされている警官二人。その様子をおもしろく見ているアドルフと疲れた表情を浮かべるディオスが残されていた。

「ここ、やっぱりおかしい……」

 ディオスは今の心情を小声で呟いた。

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