詰めた午後
昼食後、モルテは返信早急に分けた手紙に返事を書いていた。
中には送付日付けギリギリの物も含まれている為にそちらを優先して素早く一筆する。
なお、モルテが帰還する前に送付日付けが過ぎている手紙がないのはファズマが代わりに書いているからだ。
モルテの判断が必要な手紙であっても送付しなければならないものに関してはギリギリまで書かないが、近くなるとファズマが一筆取ることとなっている。
しかし、書いた手紙をもう一枚の紙に写して封筒に入れ、後日モルテが見る様にしている。
そうしたこともあり、届けられた手紙の中には返事を送る為に写した手紙も含まれており、モルテはそれらにも目を通していた。
日付けギリギリの手紙への返事を書き終えたモルテはすぐさま宛名を書いておいた封筒に手紙を入れて封をする。
そして、懐中時計を取り出して時間を確認する。
「時間はあるな」
まだ郵便局がやっている時間でありもう少し他の返事も書けると次の手紙を一筆する。
「ただいまー!」
そうしているとミクが学園から帰って来る時間となっていた。
「お邪魔します。本当に店長さん帰って来たんですね」
そして、ミクの後からユリシアが入って来た。
「お帰り。そして、よく来た」
モルテは手紙を書いていた手を止めて2人を迎え入れるとすぐさま手を動かし始めた。
「師匠、手紙書いてるの?」
「ミクちゃん、すごく多いよ……」
モルテが返信の為にしたためている手紙の数にユリシアは邪魔をしてはならないと言う。
「そうだね。上に行こう」
「うん」
ミクとユリシアが階段を上がっていく音をモルテは手紙を書きながら聞き続けた。
ディオスの実父であるバンビが起こした事件の一番の被害者はユリシアだ。
退院してからの時間はけして長いとは言えない。例え学園に通わせていても家族の目が届かない場所に1人にしておくことは怖いことだ。
家族が働いている以上は寄り道はさせたくないから控えるようにとシンシアなら言っているはず。
それなのにミクに誘われて葬儀屋フネーラへ訪れた理由にモルテは少し複雑に思った。
(私か)
どうもユリシアはモルテのことを兄の勤め先の店長であり、友達の母親であり、母親と仲がいい為に信頼している。
ミクの誘いは放課後に遊びに行けないユリシアにとって渡りに船であったはずだ。モルテがいることを確認する為に葬儀屋フネーラへ訪れる。会うことが目的であったと予想する。
(だが、今は控えるべきだろう)
ユリシアが抱え込んでいる気持ちは分からないわけではないが、親としてはまだ不安であり、出来るならまっすぐ家に帰ってほしいものと思うところだ。
その様に考える辺り、モルテもミクの母親であり、ユリシアを気にかけている。
そんなことを思いながらも返事を送る為の手紙は数を減らし、返事を階段を手紙は数を増やしていった。
そして、思っていたよりも早く書いたことで要返信の手紙にも手が出ており、全てに返事を書き終えた。
「これでいいだろう」
手紙を集め、懐中時計を見るとちょうどいい時間であった。
手紙の山を紐で結いてすぐさま店内へ向かった。
「ディオス、出掛けてくる」
「はい」
店番をしているディオスに一声かけてモルテは外へ出た。
◆
郵便局に手紙を届けた帰り道。
「おーい、モルテ」
「マオクラフか。仕事は終わったのか?」
「ああ」
偶然にも帰宅途中であったマオクラフと出くわした。頭に馬の被り物を被ったままである。
「まだ被っているのか」
「家につくまで落ち着かないんだよ」
どうやら長年被り物をしているからか安心するまで外せなくなってしまったらしい。
「難儀なものだな」
被り物が必要ならなくなるのはいつになるのかとモルテは呆れた。
「それよりも、モルテがこの時間歩くのって珍しくないか?それも郵便局に」
「届けに行ってくれるものがいなくてな」
「ファズマは多分外出てるだろうから、ディオスは?」
「店番だ」
「ミクは?この時間なら学園から帰って来てるよね?」
「ユリシアを連れて遊んでいる」
「ああ、なるほど」
それならモルテが持って来るしかないとマオクラフは納得する。
「ミクが帰って来たのなら頼むつもりだったのだがな」
「あ~、もしかして、溜まってた?」
葬儀屋フネーラへ手紙を届けているのは主にマオクラフだ。うろ覚えであるが枚数は把握している。月日と合わせるとモルテが書く返事の数はかなりの数である。
「ふむ。まあ、いつものことだがな」
そして、これがいつものことであるからとモルテは包み隠さず頷いた。
「おい」
そんな会話をする帰宅途中の2人を数人の男が遮った。
「何ガン飛ばして来てんだ?あぁ?」
「は?」
急に喧嘩を売ってきたことにモルテは意味が分からないと首を傾げる。
「は?じゃねえよ!は?じゃ!」
「おい!そこの馬も何か言えや!」
「うわぁ……テンプレ……」
男達の言葉にマオクラフは馬の被り物の奥で引いていた。
「こいつら目の前にいたか?」
「いなかったな」
一応確認と尋ねたモルテにマオクラフは答えた。
2人は話ながら歩いてはいたがちゃんと前を見て歩いていた。当然、前方に誰がいたのかも分かっており、喧嘩を売ってきた男達がいないのは認識済み。
前に向けて何かをすることは不可能なのに男達が喧嘩を売ってきたのは何故か。
「モルテ狙いか?」
「いや、あの時に掃除したはずだが」
「とすると……」
絞られた可能性にマオクラフは別の意味で嫌な顔をする。
「金払うなら許してやるよ。さあ、出せや!」
「やっぱり!」
つまり、金を奪うつもりであったのだ。
それならわざとぶつかり怪我したとか難癖を付ければいいのだが、この男達は最も簡単なことをしなかった。
(慣れてないのか、それとも……)
どちらにしろ三流であると切り捨てる。
「出せつってるだろごらぁぁぁぁ!」
瞬間、男達は実力行使へと出た。細い紳士と被り物をした変人に数で負ける気がないと。
だが……
「面倒だ」
十数秒後にはモルテにより返り討ちに合った男達は交番送りへされた。
一応、喧嘩吹っ掛けてきた奴等はモルテがどんな人物か知っています。
知っている上でどんな感じなのかと喧嘩吹っ掛けてきたのだから馬鹿としか言いようがない。




