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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
15章 店長帰還
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溜まった手紙

 それからというもの、葬儀屋フネーラではイベントらしいイベントは起きなかった。

 あったとすれば気絶していた警官が起きて色々と謝罪をしてから警察署へ帰って行ったことくらいだ。

「出来れば近づきたくなかったんだ……」

 そんなことを去り際に小声で呟いていたものの、死神や弟子では聴覚も優れている為に店内にいた全員が聞くこととなった。

 どうやら葬儀屋フネーラを訪れる度に騒動に巻き込まるのが嫌らしく、見回りがあっても言い訳をしながら迂回していたのだと予想してしまう。

 そのことを知って苦笑いをする従業員の横でモルテが静かな怒りを燃やしていたのは言うまでもない。

 とは言え、警官が目覚めたことは電話でアドルフに連絡を入れ、呟いた言葉も伝えている。

 恐らく、アドルフはそのことを咎めたりはしないが、何らかの理由で後日訪れたなら根に持ったモルテが何かするのではと考え、心の中で合掌する。


 その後もこれといって言えることがなく穏やかに時間が流れていった。

 今日執り行われる葬儀にファズマが出向き、店に訪れた客をディオスが対応する。

 そして、モルテは店の奥、住居区のリビングで椅子に座って不在中に溜まっている手紙全てに目を通していた。

「これは……いらんな」

 読み終えた手紙を3つに分けた山の一つに置く。区分は返信不要、要返信、返信早急である。


 溜まりに溜まった手紙を何故読むことになったかというと、それら全ての手紙はモルテの判断を必要としているものだからだ。

 送られてきた手紙は殆どが葬儀業関連の物でファズマが目を通して返事を書いて送ってはいるが、重要な案件や判断が必要な物はモルテが決めることとなっている。

 それが3ヶ月分である。これだけ溜まるのなら何らかの方法、渡りの伝達文箱(メールボックス)で送って返事が書かれた手紙を受け取ってアシュミストから送ればいいのではと思うところだ。

 しかし、それは今回に限って出来ないことであった。

(やはりファズマに頼むべきだったか?……いや、頼んだ所でエクレシア大聖堂で読むことは出来てもそれ以降は無理だ。こちらから送るにしても一度出なければ送れん)

 エクレシア大聖堂にある天族の結界が緩まない限りは渡りの伝達文箱(メールボックス)は機能しない。とても強い領域で干渉しない限りは連絡の取り合いは不可能である。

 仮に何らかの手段で受け取ることが出来ても忙しさから書く暇もなければ読む暇もないと行き着いて溜め息を漏らし、新たな手紙に目を通す。


 手紙を読んでしばらく、全ての手紙を高速で仕分け終えたのは昼食間近であった。

「分類分けされていたのには助かったな」

 差出人だけでなく職種や地方に届いた日付けと細かく分けたのはディオスと思い、見やすく手紙を分けた手腕を呟いて褒めた。


 ディオスは財閥時代に父親、義父であるグランディオの手伝いをしていたことで事務能力があり、ファズマよりも上である。

 ディオスを雇って最も良かった点はそこだろうとモルテは思うも本人の前では口には出さない。



 手紙を読み終えたら次は返信早急へ一筆することだが、昼食が間近なことと区切りがいい為に書くのは後回しと休憩に入る。

(どうしたものか)

 コーヒーを飲んで一服するモルテだが、思考は手紙の返信に関することではなかった。

(ディオスの様子は僅かに思い詰めているようだが……)

 悪魔になったとはいえ実父であるバンビを殺したとディオスは思っている。

 その事に対して何か言うつもりであったのだが、僅かに思い詰めているだけで後はファズマの話通りである為に覚悟していた心構えが崩れていた。

(まさか、な……)

 ディオスのことだから罪悪感を感じていないことはないだろう。そうすると、考えられる可能性の数は絞られ、片手の指の合計数よりも下回る。

(そうとしか思えんな)

 そして、ディオスなら行き着く可能性を視野に入れた結界、モルテは予想を立て、不本意にも安堵してしまった。

「まったく、何を思っているのだ私は……」

 ずっと気にしていたことに対してディオスに声をかけやすくなったことをモルテは口に出し、その事を振り払うようにしてコーヒーを飲んだ。


 ちょうどその時、店内へ通じる扉が開けられてファズマが入って来た。

「ただいま帰りました店長」

「ファズマか」

 思考していたタイミングとファズマの登場は合っていたはずなのにモルテは驚かず対応した。

「葬儀は?」

「何事もなく終わりました」

「そうか。それでは午後も頼む」

 立ち合った葬儀では問題が起こらなかったことを確認する。

「はい。今から昼食の準備をします」

 そう言ってファズマはキッチンへ向い昼食の準備にかかる。

 この日の昼食は帰る途中で市場で寄って買ったサンドイッチやおかずである。

「ファズマ、ディオスはどうした?」

「ディオスはまだ客の相手をしてます」

「そうか」

 どうやらディオスはまだかかると思いながらモルテはテーブルに置かれた手紙の山を片付け始めた。

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