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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
15章 店長帰還
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壁ドン

 朝のちょっとしたよくある騒動後、朝食をしっかり食べ、コーヒーを飲んで一服していると二階からトトトッと階段を降りて来る音が響いてきた。

「やっぱりこうなったか……」

 響いてきた音にファズマは呆れ顔を浮かべていると、ドンっと段差を幾つか飛び越えて学園の制服姿のミクが慌てた様子で現れた。

「行ってきまーす!」

「待てミク」

 学園へ向かおうとするミクをモルテが止めた。

「師匠?」

「襟が立っている」

 ミクの学園の制服がおかしくなっていることに気が付いたモルテが椅子から立つと襟を直した。

「これでいい」

「う、うん……あ!遅れちゃう!行ってきまーす!」

 そう言ってミクは遅刻しまいと大急ぎで葬儀屋フネーラを出た。

「たく、だから寝ろって言ったのに……」

「それをほっておいた俺達もどうかと思うけど?」

「ディオスは甘いんだよ」

 朝からのミクの慌てっぷりとディオスの過保護にファズマは呆れ顔そのままに溜め息を付いた。


 ミクが大慌ててで学園に向かった原因は夜更かしによる寝坊だ。

 いつもなら朝食の少し前に起き出して学園の制服に着替えてからたべているのだが、モルテが帰って来るからと頑張って起き続けていた結果、睡眠不足でいつもより僅かに遅く、着替える時間がないままパジャマ姿で朝食を食べることとなり、学園へ行く時間が遅れたことで遅刻ギリギリというツケが回ったのだ。

 それなら学園の制服に着替えてから朝食を抜くか軽めに食べればいいのではと思うかもしれないが、軽めの朝食は許されても抜くことはモルテが許さない為に不可能。

 それに、せっかくモルテが帰ってきたのに朝食を一緒に取りたいという欲望で更に首を締めることになったのだが、ミクとってはその認識はない。


 モルテは空になったカップに新たにコーヒーを注ぐと再び椅子に座った。

「もう少ししたら掃除をして店を開ける」

「はい」

 久し振りにモルテが仕事に指示を出したのに合わせてディオスとファズマは返事をした。


  * * *


「ありがとうございます」

 旧住宅街にある家から鳥の被り物を被った郵便配達のマオクラフが会釈をして出て来た。

「さて、次は……お!」

 次の配達先を確認しようとしたマオクラフの目に一生懸命になって走るミクを見た。

「珍しいな。ミクがこの時間向かうのは。今行ったらギリギリだよな?何で……ああ、そういうことか」

 ミクが走っているのは何故かと考えようとしたが、すぐに答えが出た。

「モルテ、戻って来てるんだよな」

 恐らく、モルテに会いたく夜更かししたんだろうというのがマオクラフの考え。

 実際にその通りなのだが。

「モルテの所にも手紙があるからちょうどいいか」

 どうせ葬儀屋フネーラには手紙を届けに行く都合でモルテとも会う。その時に父親(レナード)から伝言を頼まれているから行くことは確定している。

「早く終わらせるか」

 モルテに届けるまでの手紙を早く届けてしまおうと配達の速度を上げた。


 そうして、数件の後に葬儀屋フネーラへ訪れた。

「おはようございます!」

「マオクラフさん、おはようございます」

 早速出迎えてくれたのはモルテではなくディオスであった。

 どうやら、いつも通りファズマと共に店内の掃除をしていたらしい。

「おはよう。これ今日の分な」

「いつもありがとうございます」

 ファズマとは違い礼儀正しく返すディオスにマオクラフはいい気持ちになる。

「ところでモルテは?帰って来ているよな?」

「店長なら……」

 ディオスが言おうとした時、住居区へ入る扉が開かれモルテが出て来た。

「呼んだかマオクラフ?」

「モルテ、久し振り」

 3ヶ月振りの再会にマオクラフはいつもの様子で反応した。

「それだけか?」

「そこは久し振りくらい言え!」

「知らん」

 モルテの反応(リアクション)の薄さにマオクラフは泣きたくなったが目的がまだ終わってないと気持ちを切り替える。

「父さんから伝言。話を聞きたいから今日の夜は集まりだって。あと、例の物も忘れるなって言ってたけと、例の物って何?」

「レナード、忘れてなかったのか……」

 マオクラフの口から語られたレナードの伝言にモルテは悔しそうな表情を浮かべた。

「モルテ?」

「……どうせ夜には分かる。それまで聞くな」

「何それ?」

 何やら覚悟を決めた様子のモルテにマオクラフはますます分からなくなる。

「なあ、例の物って分かるか?」

「こっちに話を振らないでください!」

 まるで巻き込む気満々にマオクラフは話題をディオスとファズマにも振ってきた。

 もちろん、すぐに悟ったディオスが非難して逃げの体勢に入ったが中途半端だ。

「いや、2人なら分かるかなって」

「だから知らないです!」

 関わらせないでくれとディオスが訴える近くではモルテが鋭い目付きで睨んでいるのに誰も気が付いていない。

「そういえば店長、あの箱の中身何なんですか?」

 そんな時、ファズマが思い出した様にモルテに尋ね、睨み付けているのに気が付いて口を止めた。

「箱?箱ってあれ……あ」

 そして、マオクラフもモルテの様子に気が付いて口を止めた。

 どうやらレナードに頼んでいた箱はモルテにとって触れてはならないものだったらしく、その話に盛り上がっていることが気に食わなかったようだ。

「モ、モルテ……?」

「店長、すみません!」

 そんなモルテにファズマとマオクラフは一斉に謝った。

 だからか、徐々にモルテは気持ちを落ち着かせていった。

「……構わん。何かを理由に知られることだったのだ。あれに触れたくないと思うのは私個人の都合。私がいない場所でなら話すことくらいは構わん」

 そう言ったモルテであるが、聞かされた側としては、モルテがいようがいなかろうがモルテが持つ箱の話は極力控えた方がいいと一致する。

「しかし、マオクラフ」

「え?俺?」

 突然モルテに声をかけられたマオクラフはその表情と雰囲気に行学する。

「そうだ。興味を示すのはいいことだが限度が分かっていなかったようだな」

「え?あ、あの……?」

 どうやら我慢しきれずモルテの地雷に踏み込んだことを相当怒っているようであった。

 迫り来るモルテにマオクラフは後退して、壁にぶつかり逃げ場をなくす。


 そして……

「反省をしろ!」

 思いっきりマオクラフを壁に叩き付けた。壁にめり込ませ外に突出す程に。

「えぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 その様子に久し振りに驚愕してディオスが叫んだ。同じタイミングで外からも驚きの声が上がっていたが誰も気にしていない。

「な、な、な、な、な……えぇぇぇ!?」

「ああ……壁ドンか……」

 未だに驚きを隠せていないディオスの横でファズマがどこかで遠い目をしながら呟いた。


 これが本当の壁ドン(・ ・ ・)である。

違う!

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