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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
15章 店長帰還
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モルテ、帰還

「ふむ。今戻った」

 ミクの出迎えに帰って来たばかりのモルテはそう言って返した。

「店長!」

「お帰りなさい、店長」

「ファズマ、ディオス。今戻った」

 続いて出迎えてくれたディオスとファズマにもモルテは声をかけた。

 アシュミストを離れ3ヶ月程経っている。ディオスはエクレシア大聖堂とランバンで行動を共にしていたこともありそれほどでもないが、ファズマとミクは久し振りに見る。


「師匠ー!」

 そんな時、ミクが我慢出来ないとモルテに抱き付いた。

「ミク?」

「ふふっ、師匠に抱き付くの久し振り」

 どうしたのかと思うモルテにミクは嬉しそうな表情を浮かべて幸せそうだ。

「ミク……」

「たく。甘えん坊に逆戻りだな」

「違うもん!これはスキンシップだもん!」

「あ、そう……」

 ミクの年を思うとそろそろモルテに甘えるのはおさらばしなければならないと思うところなのだが、スキンシップと言われてはこれ以上言い返せないとディオスとファズマは口を閉じた。

「……全く」

 モルテも2人同様にミクは甘えん坊になったと思っている。

 恐らく、モルテが自身の事情を話したことでミクが今まで我慢していた甘えたい気持ち悪いが爆発したのだろう。

 そう考えるとモルテにとっては身から出た錆。予想していなかった為にミクの成長を思うとこれからに頭を悩ますのだが、不思議とこれはこれで悪くないと思ってしまう。

 恐らく、ミクの根本が変わっていないからだろう。子供らしい仕草はあってもしっかりするところはしっかりしている。前に比べて背伸びし過ぎていないから安心していられるのだろう。

(甘いものだな)

 ミクが甘えるのならそれを咎めない自分も甘いとモルテは思いながらミクの頭を撫でた。


 久し振りに戻った店の店内をモルテは改めて見回した。

 変わるところは変わっていない。けれども、店内(ここ)に従業員がいて、出迎えられる度に思う。

(こういうのも、いいものだな)

 モルテにとって無縁と言っていい、長い時間を共に過ごす者達に出迎えられること。そして、最後に見た記憶から成長を感じられる喜びは本当に少ない。

 ミクは背が伸び、ファズマはモルテが留守の間を守っていた為か更にしっかりしている様に感じられる。そして、ディオスは……

「一皮剥けたようだな」

「え?」

「こっちのことだ」

 アシュミストで起こった事件に覚悟を決めたことで雰囲気が僅かに変わったように思える。


 ミクの頭から手を離すとモルテは肩にかけている剣箱の紐をかけ直した。

「さて、話があるのなら座って話そう。とは言え明日もある。長くは話さんぞ」

 夜は遅いがこの熱を冷ますには勿体ないと、モルテは荷物を持ってリビングへ向かう。

「師匠、荷物持つよ!」

「ならこっちを頼む」

 ミクの手伝いにモルテは衣服等が入っている荷物を持たせた。

 そして、モルテが持つ剣箱を見てファズマが尋ねた。

「店長、その箱……」

「これか?」

「……役に、立ったんですか?」

「ああ。レナードの手伝い、よくやった」

 ファズマがどれ程役に立ったのかレナードから聞かされていたモルテは労った。


  * * *


 リビングで椅子に座るとファズマが入れてくれたコーヒーを飲みながら会話が弾んでいた。

「ふむ。私が思っていたよりも苦労をしたみたいだな」

 会話の内容はモルテがいない間に起きたアシュミストの事件、悪魔となったディオスの実父が起こした事件となっていた。具体的なことはレナードと連絡を取り合った際に聞いてはいたが、弟子達から聞かされると苦労は相当なものであったと伺える。

 本来なら日常的な会話で盛り上がるはずなのだが、死神となると会話は悪魔や生霊(リッチ)が起こした出来事が最初となる。

「マオクラフが指示を出していましたが、俺達弟子だけじゃ力不足ってのが分かりました」

 当時を振り返るファズマの悔やみにモルテは首を否定した。

「それは仕方がないことだ。足止めに適していたのは死神ではなく弟子だ。ディオスを守り刈ることに貢献した。役目を果たしたのだから誇るべきだ」

 なんせ、弟子を参加させるべきと言ったのはモルテだ。大変な苦労は自分の弟子だけではなく他の弟子にも負わせた。失敗、もしくは死者を出すかもしれない提案はそれ相応の文句や罰が与えられる覚悟でいたのだ。

 だから、負傷はしても果たすべきことを果たし、弟子でありながら下級悪魔とやりあったのは無謀であっても状況的に仕方がなかったこと。そして、死者を出すことなく動けたことは誉めるべきことなのだ。

「こういったことは本来やらないことだ。だが、行ったということはそれだけで経験になる。忘れず、次に生かせ」

 死神になれば無茶や無謀と分かっていても動かなければどうしようもない場面に遭遇する。

 臆する場面であっても覚悟を決めて諦めないこと。モルテはそう伝えた。


 それからも話は悪魔中心にして進んだ。

「それでね、ホメロンが悪魔を蹴り飛ばしたんだよ」

「ほう」

 ミクがディオスと合流する際の話にモルテはそれで桜花に来るのが遅くなったのかと理解する。

「あの時は本当に危なかったよ……」

「ふふん!あたし役に立った?」

「立ったのはホメロンだろ」

「あたしがディオの場所教えたんだよ!」

「はいはい」

 ミクが胸を張って主張する様子にファズマはさらりと流した。

 とは言え、ディオスも含めてよくタイミングよく助けられたものだと思う。

「それに、ユリシアが悪魔にならないで、殺されずに生きていて良かったです」

 あの一件で最大の被害者となったのはディオスの妹であるユリシアだ。

 ユリシアの生存はディオスにとって願っていたものであり、無事であった今でも思い出す度に安堵している。

(最も苦労をかけたのはディオスだな)

 そんなディオスの様子をモルテはじっと見つめた。

 ディオスはあの一件で大きな選択を幾つもしなければならないだけではなく覚悟もしなければならなかった。

 そうしたディオスを大きく支えていたのはユリシアの生存であるとモルテは思うも、その後のことが何もなされていない。


 どうするかと悩んでいるとミクがあくびをした。

「ふぁぁ~……」

「さて、休むとしよう」

 ミクが限界であるとと会話を切り上げる。

「……は~い。おやすみなさい」

 モルテと話したからかミクは素直に頷いて早々に階段を上がった。

「たく」

 その様子にディオスは苦笑いをして、ファズマは呆れた。

「2人も休め。明日もある」

「はい」

 そして、モルテの指示にディオスとファズマはテーブルに置かれたカップを片付けてから二階へ向かった。

 その間、モルテはディオスにどうやって話そうかと悩んでいた。

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