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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
14章 桜花の恋
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死神の剣の行方

 薄暗くなった部屋に蝋燭の灯りが灯される。

 その灯りを頼りにモルテは秋人が残した行方不明となっている死神の剣の記録の解読を行っていた。

「……ふむ」

 時々、解読を進めていくと面白かったり興味深い所を見つけると手を止めて考え込んでしまう。


 暗号化されて纏められた記録は運がいいことに解読法が記された紙も挟まれていたことでその場ですぐに解読が出来る状態であった。

 だが、つららの一件で解読出来る状況でなければ解読しようにもまた騒がれれば止めに入り、その都度時間を無駄にするのに嫌気が差したモルテが逃げるようにして三度、手野家へと駆け込み、そこで暗号解読を行っていた。


 ちなみに、つららはどうなったかと言うと、手野家に一泊したことと温泉で宗頼の愚痴や鬱憤を呟いたことで気持ちが大分楽になったのか顔色が優れたことで桜花に戻らせた。

 しかし、宗頼と顔を会わせればどうなるのか分からない為に1日ほど仕事を休みにさせて外へは一歩も出ないようにと小春監視の元でキツく言ってきた。

 今は仕事を再会させて小春にお使いを頼んだことで1人でも問題なく回せているが、未だに宗頼が訪れたとは聞いていない。



 道長は息抜き用にと机に湯飲みにお茶を置くとモルテの手元を覗き込んだ。

「どうどすか?」

「ややこしいことこの上ない、だ」

「その割には進んでいるように見えるが?」

「解読事態は順調だ。だが、その先が厄介だ」

「先?」

 モルテの言うややこしいが何を指しているのか分からず道長は首を傾げた。

「暗号が二重化されているのだ。最初の暗号はこの紙に記されている通りに解読すればいい。だが、そこから判明した暗号に解読法は記されていない」

「それじゃどうして……」

 分かるんだ、と言う言葉を遮りモルテは明かした。

「芳藍の昔の言葉の意味と並びになっている。こればかりは知識が必要になるが知っていれば難しいことではない」

「それじゃ……」

「2つ目は暗号と言うほど暗号ではない。知っていれば誰でも読めると言うことだ」

 そう言って再び解読に集中し始めたモルテの言葉に道長は安堵した。

 二重化と聞かされていたから更なる難関な暗号を思い浮かべていたのだが、分かりやすく暗号と言っただけで本当は暗号でもなかったのだ。

「道長、邪魔したらあかんだろ」

 そうしていると道草に咎められ、道長は静かにモルテの側を離れた。


 今回の桜花の滞在で手野家にはかなり世話になっているとモルテは心の奥底で思った。

「道草、世話をかけさせたな」

「構わん。人里から離れた所にいるんや。しょっちゅうとは言わんが、モルテが桜花から死神連れて来たのはええ刺激だ。道長にもええ経験になったと思うからな」

「そうか。なら、手が空いた時に顔を見せるように頼んでみようか?」

「ええや、向こうにも用事というものがある。無理して頼む必要はねえ。その代わり、互いに必要な時は協力し合う方がええ」

「急激な変化を望まないのならそれでいい。忠信にそう伝えておく」

 桜花の死神が連続で殺された一件で手野家のことは知られている。隠し通すことが無駄であると分かっていたから、モルテは事件が終わって後に早々に桜花の死神達を手野家と会わせた。

 恐らく、道草も忠信もモルテの思惑に感付いているだろう。その上で関係を構築していけばいいと思っている。



 それからしばらく、モルテは解読に時間を費やした。

 そして、夜が明けた頃に全ての解読を終わらせた。

「面倒なこと、この上ないな」

 モルテとしては珍しく体を伸ばして体を解すと、真顔で解読を記した紙を覗き込んだ。

(しかし、これは……)

 記入したものを改めて読み返して、内容に表情が険しくなる。

「モルテ、おはようさん。ずっと起きとったのか?」

「ああ」

 ちょうどその時、道草が起き出して声をかけてきた。

 だが、モルテの表情に気が付き、視線を向けている先を見て今どう思っているのか悟る。

「終わったのか?」

「ふむ……」

 道草の言葉に返したモルテだが、声はどこか心許ない。まるで、上の空と表現したくなるほどに。

「何が書いてあった?」

 真剣な道草の表情にモルテは重い口を開いた。

「……秋人の調べによると……」



  ◆



 解読結果は忠信としぐれにも伝えられた。

「不明となっている1本は、国外に持ち出された可能性が高い」

「そうか……」

 その言葉に忠信は残念そうな表情を浮かべた。

「秋人はんからその可能性が高いとも言われとる。覚悟はしとった」

 一方で、しぐれは前もってその線が濃厚であると知らされていたことでそれほど表情に出ていない。

「そして、秋人は途中までだが大陸に持ち出されたルート、行き先を調べていたようだ」

 これには忠信だけでなくしぐれが驚いた表情を浮かべた。

 もちろん、モルテも知った時は驚いたが、後々考えると秋人と知り合った場所も含めて偶然ではなく、既にあの時から大陸に持ち出された線で調べていたのではないかと思うと、妙に納得してしまう。


 記録に記されていた地図を開いてモルテは指を動かす。

「当時の芳藍は大陸と貿易をしていた場所が少ない。そして、回数が多い場所を調べ、絞られたのはここだ」

 指差した場所は芳藍から最も近い大陸の港であった。

「そして、ここから陸路で内陸を渡り、今も交易地として盛んなラシャーラを訪れ、そこで途絶えている」

「人と物の多さで行方が分からなくなったのか」

 秋人が調べ上げたルート。それが本当に正しいのかは分からないが今はこれを信じるしかない。

「異国となると、こちらだけでは手が出せへん」

 隠密に特化している帝直属の忍でさえも他国となれば勝手が違い、目に見えるだけでも困難であると嫌でも突き付けられる。

「それに関してだが、これは死神の問題として片付けさせてはくれないか?そして、見つけ出せたなら帝へ返す」

「そらウチの判断では決められん。いっぺん報告せなならへんことだ」

「だが、こちらが責任を持って調べるのであれば帝は許可してくれると思うが?」

 モルテの言葉に一理あるとしぐれは浮かべたが、やはり帝に知らせて決めさせると言い切った。

「時間はかかるが、仕方がないか」

 しぐれが決めたことにモルテはこれ以上口出しするのをやめた。

「忠信、せっかく声をかけてもらってはなんだが……」

「気にするな」

 忠信には芳藍にいる死神に死神の剣の所在を調べてくれるようにと協力を仰いでいた。それが必要なくなったことを謝罪するモルテだが、忠信は気にしていなかった。

「むしろ大陸にあるって分かったが、これからがえらいではおまへんのか?」

「それは任された死神がすることだ。今は手が離せんからな」

 どうやらこの一件は別の死神に丸投げする気でいると忠信は悟った。


「それよりも、しぐれの師は誰になった?」

 桜花を離れて数日経っていたがモルテは忘れていなかった。

「佐助がしぐれの師になってくれた。初めからつららの所はかなんと言うとったし、わしとしても女だけのトコに住み込ませるのはどうかと思ったからな」

「つまり、今は佐助の所にいるのか」

「そうだ」

 しぐれの死神の師が既に決まっていたことにモルテは事情も含めて頷いた。


 それから忠信とはこれからの桜花のことを話し合った。

「……一先ずこんな感じだ」

「そうか。上手く行くことを願う」

 復旧の方針に目処が立ったことでモルテは話を変えた。

「明日の夜には桜花を発とうと思う」

「……そうどすか」

 突然のことのはずなのに忠信は静かに受け入れた。

「こちらでやることは全て終わったからな。つららの方も自然と終わるだろう」

「ほんまに、何やら何まで世話になったな」

 モルテの存在は桜花の死神にとって大きな存在であったと染々思いながら、忠信は手を出した。

「今度は厄介事がない時に桜花に来てください」

「そうさせてもらう」

 モルテは忠信の手をしっかり握った。



 翌日、貸していた死神道具も返してもらい、荷物を纏めたモルテは夜にホメロンに乗って桜花を発った。

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