小春の苦労
恋ってこんなに難しかったっけ?
特にこのパターンは?
その日の昼。
「そやし言うてるでしょ!宗頼には関係ないって!」
「ない言うがな、あいつが何やったのか聞かない限りは気持ちが収まれへんんだよ!」
「そら宗頼の都合でしょ!こっちからしたら関係ないわよ!」
再び訪れたら宗頼が朝にいたふんどし一枚にされていた不審者が何者であったのか、どうなったのか聞きに来て、つららと3回目の口喧嘩となっていた。
「そもそも、おやっはんから聞いてへんん?」
「忠信の旦那からは出掛けるって前に聞いてる」
「やったら、何で来たのよ!」
「お前からも確認したいから来たんだよ!」
「聞いたならほしてええではおまへん!阿呆!」
「阿呆って、ほんで阿呆って言うんだ!」
つららの怒鳴りに宗頼は維持になって反論する。
「ええ加減にして!」
そこに小春が2人の口喧嘩を止めさせる為に割って入る。
朝の様に頭が回らず止められなかった雰囲気はなく、いつものごとく口喧嘩を交わす2人を手慣れた様子で止めた。
そして、止まった隙に小春はつららに紙の束を見せた。
「つら姉、宗頼はんが持って来た品物の領収書に判子。それ終わったら他のにも判子押して。数多いから押し忘れへんようにして」
「小春、今は……」
「押せなくても領収書には押して。押してや!」
「……はい」
反論ややりたくない為の言い分けなどさせないと小春の圧力に屈したつららは渋々受けとると引き出しの中に入っている判子を取りに行った。
「宗頼はん」
「……何だ?」
「来とったのなら来とるって言うてください。ずっと立っとるまんまじゃお茶を出せませんから」
「すぐ終わることそやしいらん」
領収書の判子くらい押せばすぐにすむからと言う宗頼につららが煽る。
「そうよ。宗頼に出すお茶はないんそやし」
「お前の出す茶は飲みたくないな」
「こっちだって出したくないわよ!」
「やーめーなーさーい!」
何で煽るのかと怒鳴りを制止に込めて叫びながら小春はつららに鋭い視線を向ける。
「つら姉、判子は?」
「押した。さっさと帰って!」
判子を押した領収書を宗頼に乱暴に渡してつららはそっぽを向いた。
「言われずとも帰るに決まっとるだろ阿呆!」
「阿呆はあんたでしょ!」
「お前が突っかかって来なければもっと早う帰れた!」
「あんたが聞き返して来たからでしょ!」
「やーめーなーさーい!」
何で帰る直前で口喧嘩を始めるのかと苛立つ小春は宗頼の背を外まで押すながら振り返った。
「買い物行ってくるね」
つららに一声かけて戸を閉めると深く息を吐いた。
「……もう、何でつら姉といつも喧嘩するんどすか?仲ええはずなのに」
振り返って呆れ顔を浮かべながらも責めている小春に宗頼は先程までつららと口喧嘩していたのが嘘のように表情を気まずそうに浮かべる。
「そう言うが、ウチだって何であいつが突っかかってくるのか分かれへんんだ」
「宗頼はんに原因があると思うてが?」
「ウチに?」
小春の言葉に何故と浮かべる。
その返しに小春は心の底から軽蔑する。
「前に何回も言うてるではおまへんどすか。あれってどういうことどすか?」
秋人が亡くなった直後からつららと宗頼の仲は悪くなったと言っていい。それなのに、関係は奇妙なのだ。
仲が悪くなってから回数は減ったが宗頼は個人的に訪れることを今も続けている。それも、仲が悪くなってから4年も経っているだけではなく、常につららと口喧嘩をしたり追い出されたりしているのにだ。
つららは宗頼に言われたことを今も引きずっており、宗頼と顔を会わせれば隙を見てあの時のことが何かと問い詰めてはぐらかされ、その後はブツブツと鬱憤を漏らすもどこか寂しそうに意気消沈する。
当時の出来事と今現在も続いている事を踏まえて小春が出した結論は、宗頼はつららを傷付けてしまったことを周りから教えられて自覚をしたがそれだけ。つららは未だ宗頼に想いを寄せているが当時の出来事を根に持っている為に自身を守る為に攻撃的になっている。
切っ掛けは宗頼だがその後の仲違いが続く原因はつららにある。
小春としては、どちらからでもいいから謝って前のように仲良くして欲しいところなのだが、切っ掛けとなった宗頼が何を聞きたかったのか分からないからには解決しない。しかも、2人のことを知る者達からしたら仲違いしている恋仲と思われている為に度が過ぎない限りは黙認されている。
しかも……
「どうって、そら……小春には関係ないことだ!」
当時の事を小春が何度尋ねても宗頼は口を割って話そうとしない。
小春も薄々感ずいているが、宗頼は喧嘩の原因となった言葉をつららにしか言うつもりがないらしい。そして、聞きたいことを隠して言う為にその都度つららを怒らせて口喧嘩をする。
「そやし、それがつら姉を傷付けとるって言うてるんどすよ」
「何でだよ?」
「そういうものだって思ってください!ちゃんと聞きたいこと言いまへんといつまで経ってもこのまんまどすよ!」
何度も繰り返したやり取りに小春はすぐさま聞くことを諦めた。
宗頼が何を隠してめんどくさい言い回しをしているのか分からないが、つららとの関係は未だ続くのかと嫌々になる。
◆
その夜。
「ほんまに宗頼はいつも何しに来るのよ!」
夕飯を早々に食べ終えたつららは寝る為の布団を敷き始めていた。
「宗頼はん、つら姉が怒っても来てくれるもんね」
「その心が分かれへんのよ!仕事で物届けるだけなら下働きでもええのによ!」
「そら、ねぎから」
「ねぎてもよ!もう、何でよ!」
それは宗頼がつららに想いを寄せているからと小春は思うも口には出さない。
ここで言えばつららは言い訳を並べて反論するからだ。それでも、仲違いをしてから宗頼が嫌いと言わない辺り未だに想いを寄せ続けていることの証明になっており、小春としては安心材料になっている。
とはいえ、つららと宗頼、仲違いになっても未だに想いを寄せていること事態が不思議であるのだが。
「もう、いっそのことどなたか男の人現れへんかな?」
「無理無理。つら姉に告るのは宗頼はんくらいそやし」
「そやし、何で宗頼なのよ!」
これなら諦められると口に出すも真っ向から小春に話を折られたつららは夢が叶わないことへの悲鳴を上げるのだった。




