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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
14章 桜花の恋
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定時連絡

 月が夜の空高く昇った頃、モルテは縁側に座り遠方の通信(リモータ)を起動させていた。

『師匠、あのね、今日ね、ユリシアが退院したんだよ!』

「そうか」

 遠方の通信(リモータ)から聞こえるミクの話にモルテは耳を傾けていた。


 桜花で悪魔を討伐した2日後から遠方の通信(リモータ)を使い葬儀屋フネーラに連絡を入れるようなっていた。

 連絡を入れる理由は至ってシンプル。ディオスとファズマがモルテと話したと聞かされたミクが駄々をこねたからだ。

 偶然と言うか成り行きで話す機会が出来ただけなのだが、唯一そういった機会がなかったミクの不満がいつまで経っても収まらないことに手を焼いていたところ、モルテがファズマに頼みがあって連絡を入れたのだ。

 当然、連絡が入った瞬間にファズマはモルテに頼んでミクと話をさせたのだが、いつまで経っても終わらないばかりか会えないことへの寂しさを暴露したのだ。

 さすがに月単位で不在になることが当たり前で今まで我慢出来ていたが、こうして声だけでも交わせるようになれば手紙と違い間を置かずに近くにいられる感覚でいられる。

 結果、会えないことへの負い目で付き合うと話が長くなるだけではなく、モルテの様々な理由からしかたなく、出来るだけ可能な限り連絡をするが会話は短くと約束をして決まった時間に連絡を入れることとなった。


 今日のミクの話しにモルテは問題が一つ片付いたと感じた。

「ユリシアが退院したということは、体の方はもういいのだな?」

『大丈夫みたいだよ。後ね、ディオはお家に帰ったんだ。ファズがね、今日くらいは一緒にいてやれって。だから、今日はファズと2人だけなんだ』

「そうか。全く、ファズマには気を使わせたな」

 ディオスが未だに仕事優先で休みの希望を口にしないことは問題だが、ファズマが無理矢理にでも家族の元に帰らせたことは上出来と思う。

「戻ったら家族と会う機会を増やせとでも言おう」

 実現出来たらいいと思うモルテだが、しばらくはディオスの中では葛藤するのではと考える。


 レナードと改めて遠方の通信(リモータ)で連絡をやり取りしてシンシアが死神の存在を知っていたことには驚かされた。

 そして、シンシアは今回の事件の結末を受け入れているが、ディオスは悪魔となった実父を救うために殺している。殺したと思っている。

 親を殺したという罪悪感があるかどうかは分からなければ確認をさせたファズマにも普段通り過ぎて分からないと言われている。

 こればかりは自分で確かめるしかない為に言ったことが実現するかは分からない。


 それからもモルテとミクは話しを続けた。

 学園生徒の多くは怪我が治ったことで登校を再会したとか、悪魔が暴れた市場は仮復旧から本格的に復旧が始まったことなど、傷跡は確かに癒えつつあった。

『でもね師匠、あたし、何も役にたてなかった……』

「またそれか」

 現場について確認をすると、必ずミクは事件が起きた時の出来事を思い返して言う。

『あたしも早くファズみたいに霊剣もらって皆の役に立ちたい……』

 ユリシアを助けられなかったばかりか悪魔から呪を食らい昏睡していたばかりか駆け付けたディオス達に助けられたことを未だに引いていたのだ。

「そう言うな。霊剣がなくともミクはユリシアを助けようと必死になった。物事には確かに結果が大事なこともある。だが、結果を生み出すには大切なものがある」

『それって何?』

「私が帰るまで考えてみろ」

『師匠、何それ!』

「言った通りだ。考え私に言ってみろ」

 遠方の通信(リモータ)から不満と答えを教えてほしいとミクが訴える。

 それを聞きながらモルテは思考の海に落ちていた。


 もうそろそろ、ミクに霊剣を持たせる頃になった。

 先にディオスに霊剣を渡すことになったのは誤算であったがそれはどうでもいいこと。

 ミクに霊剣を持たせるということは年月が経ったということ。なんとも言えない気持ちになる。


 懐中時計の時間を見て遠方の通信(リモータ)で話し終わる時間が迫っているのを確認した。

「そろそろ時間だ。また可能な時に連絡をする」

『えぇ~!もっと話したい!』

「我が儘を言うな。遠方の通信(リモータ)は力の消費が激しい。長話など出来ん」

『うぅ……何回も聞いてるけど……』

 遠方の通信(リモータ)を起動し続けるには未だに力の消費が激しく長い時間起動させられないと知らされているミクは不満そうに言うが、結局今回もモルテを困らせてはならないと我慢する。

『また連絡してね、師匠』

「約束する」

 そう言ってモルテは遠方の通信(リモータ)の通信を終えると、遠くをぼんやりと見た。

「……この程度ではたいして消費しないか」

 力を大量消費する遠方の通信(リモータ)だが、モルテにとっては微々たるもので特に疲れるほどでもない。

 ミクと長話を続けることは可能であったが、そうすればその異常性に気がつく死神が出てきてしまう為にモルテは隠す為に時間を決めて会話をしていた。

「ミクには、帰ったら付き合うか」

 これからありそうなことを思い、モルテは近くにおいてあった徳利の酒をおちょこに入れると静かに飲む。


「また飲んでる」

 そこにつららが困った様子で立っていた。

「最近飲み過ぎではおまへん?」

「別にいいだろう」

「よくない!」

 モルテの返答に突っ込んだつららであるが、横に座ると心配そうに覗き込む。

「トコで、何やあったん?」

「何とは何だ?」

「だって、モルテって普段はお酒飲まいでしょ?飲む時はレナードはんがやってる酒場くらいでしょ?かなんことあったん?」

 何度も葬儀屋フネーラで過ごしているつららにはモルテの行動がおかしいと感じていた。

 モルテは葬儀屋フネーラではお酒を飲まない。飲む時は酒場など外で飲む。しかし、嫌なことがあったりすると量が倍になると聞かされている。

 つまり、今のモルテの酒の飲み方は嫌なことがあったからだ。


「嫌なことか……確かに、立て続けに嫌なことは思い出された。だが、それだけだ。全て終わってしまったのだからな」

 モルテの言葉につららはやっぱりと思い、どこか悲しそうな目をする。

 すると、目の前に酒が入ったおちょこが差し出された。

「モルテ?」

「嫌なことを聞いたと思うのなら付き合え」

「って、そやし飲みすぎ!」

「付き合え」

 モルテからの眼力と負い目につららは差し出されたおちょこを受け取った。

「芳藍では月を見て飲む酒を月見酒と言うだろう?ならば、今は楽しもうではないか」

 そう言って酒を飲むモルテに何かが違う気を思ったつららであるが、口には出さず、言葉を酒ごと飲み込んだ。


 その時、2人の雰囲気が一瞬にして変わった。

「モルテ」

「ふむ」

 モルテとつららは向かいの家の屋根に目を向けた。突然気配を感じ、一瞬にして消えたのだ。

 今の時間帯に動く輩はいい気がしない。加えて、気配が感じられた場所にいたことも含まれる。こうなってしまえばせっかく始まったばかりの月見酒を終えるしかない。

「どうする?」

 つららの言葉にモルテはおちょこに酒を入れると飲み入れた。

「モルテ?」

「もうしばらく飲んでいよう」

 気配を無視してモルテは月見酒を再開させた。

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