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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
14章 桜花の恋
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秋人の性格

 その日の夜。

 桜花にとって遅い時間帯に氷室葬儀屋では夕飯が始まっていた。

「つら姉、帰る途中で店から怒鳴り声響いたっていうけど?」

「えっ!?響いとった!?」

「むちゃ響いとったって」

 小春の分かりきっていると言わんばかりの冷たい視線がつららを突き刺す。

「宗頼はんと喧嘩しとったんでしょ?ええ加減にやめたらどうなん?」

「仕方いでしょ!あっちが喧嘩売ってくるからよ!」

 つららの言い分けに小春はそれは違うのではないかと心の中で突っ込む。

「売るって言うけど、買うつら姉もどうかと思うよ?何で無視せん?」

「無視出来れば無視したいわよ。宗頼が聞きたいことあるって言わなかったら!」

 不機嫌になったつららは箸で漬け物を摘まむとそのまま口に入れた。

 その様子にどうやら先に喧嘩を売ったのがつららと思った小春は白米を口に入れた。


 この日の夕飯は白米、青菜の味噌汁、申し訳程度の瓜の漬物と質素と言うか簡素と言うか、極めて種類が少なければ量も少ない。

 しかし、桜花では夕食として丁度いい量であり、加えてモルテも文句を言わない為に一汁一菜の食事である。



 口に加えていた箸を出して小春はモルテに声をかける。

「モルテはん、つら姉が宗頼はんと喧嘩しとった時いましたどすやろ?何で止めなかったんどすか?」

「何故私がその様なことを?」

 面倒という様子を浮かべてモルテは味噌汁をすする。

 そこで小春はモルテに喧嘩を止めてもらうことは期待出来ないと理解して早々に説得を諦めた。

「そう言えばモルテ、もう一本の死神の剣について何や分かった?」

「やはりと言うべきか、秋人の遺品に記録はなかった」

 モルテの言葉につららと小春がやっぱりとため息をつく。

「じいさまそやしね」

「お爺ちゃんだもんね」

 諦めを通り越して悟りでも開けそうな納得ぶりである。



 なにしろ、2人の祖父である秋人は誰もが認める大雑把な人であったのだ。

 行き当たりばったり、思い立ったら即行動は当たり前。相談もなければ突然何かをやらかして何事もなく終えている。しかも、それが結果以上のことをもたらしているのだから反発することが出来ない。

 しかも、その行動全てが身内や目に入って困っている者や助けなければならない者に向けたものであり、いわゆる人助けに近いものであるから不満や文句は言えても全てを否定することが出来ない。

 その例と言えるのが小春を家族に迎え入れたことだ。

 小春が氷室家の一員になったことは大きな刺激材になっただけでなく、仕事の手伝いをさせた時から適性が合っていたことも伺えた。

 意図した訳でもなければ初めから見抜いていたわけでもない。全くの偶然なのだろうが強い引きは確実に秋人の味方をしていたとも言える。


 それなのに、秋人は自分自身の事に殆ど無関心と言ってもいい。

 仕事で必要なことを行ない記録を付けたりと仕事は疎かにしない。家族にも愛情をかける。だが、個人のことになると極端に冷める。

 趣味を特に持たない。暇があればつららや小春に稽古と言って体を動かす。生活能力はあるのに目を離せば不眠不休で絶食もする。フラりと消えれば数日後には帰って来る。自分のことを極端に話したがらない。

 大雑把なのに仕事人間の印象を受けるも違う。遊び人を思わせてもそういった噂を一つも聞かない。年のわりに体が鍛えられていた為に何処かで用心棒をしているのではないか想像もされていた。

 唯一、大雑把過ぎるという一点を除いて身内にとっても謎過ぎる存在である。



 そんな自分には無関心過ぎる相手の所有物を探すのは苦労という言葉だけでは足りない。

「秋人の部屋も一通り調べたのだが、記録は一切なかった」

「いつの間に!?」

 モルテが知らぬ間に秋人の部屋を調べていたことにつららは驚いた。

「ほして、これからどうするんどすか?」

 秋人が残しているはずであろう記録がない為に次はどの様に動くのかと小春が問う。

「やるべきことは2つだ」

 一足早く夕飯を完食したモルテは箸を置くと説明を初めた。

「1つはこの場をくまなく探すことだ。常に手元に置いておくのなら何処かに隠しているかもしれんからな」

「それって、店も含めて全部?」

「そうだ。それに秋人のことだ。仕事で使っている棚に無造作にしまい込んでいるとも考えられる」

「有り得るな」

 秋人の性格から雑に納めている可能性がある。しかも、物が物であるから隠し場所はとにかく(・ ・ ・ ・)見つからず(・ ・ ・ ・ ・)本人でも(・ ・ ・ ・)取りにくい(・ ・ ・ ・ ・)場所(・ ・)にある気がする。

 それでも未だに見つかっていないのが不思議なくらいだが、そうすると氷室葬儀屋をくまなく調べる必要があるとモルテは夕飯を食べ終ったらやるつもりと伝える。

 それにつららと小春が強制的に手伝わされることは目に見えていた。


「話を戻すが2つ。記録を誰かに託した可能性もある」

「そらどうして?」

「1つは秋人と共に死神の剣を探していた。もう1つは秋人が中身を明かさず託した」

 可能性として上がった第三者の存在につららが眉を寄せた。

「有り得ることそやけども、何で人に預けてもらわないといけへんん?」

 それは秋人に対する不満でもあった。

 身内にではなく第三者を信頼されたことへの怒りである。

「記録をまとめるものの殆どは紙だ。紙は破れやすく濡れやすく虫にも食われやすい。それを人の目に届かない場所に置けばどうなる?消失する」

 その言葉につららは確かにと頷くしかない。

「紙は人の手にあることで初めて保管される。ただ、私としては秋人が他者に預けていたとは考えられん。ここに隠しているのではないかと思っている」

 秋人の性格を知るモルテは可能性が大きい方を既に決めていた為に方針に迷いがないとも捉えられる。

「それに、他者が持っていたなら私はその者達を訪ねなければならない。だが、それ以外となれば私の手には余る。忠信達に任せるしかない」

 モルテはいつまでも桜花にいられるわけではなく限界も見据えていた。そして、出来ないことは素直に任せることにしていた。

「そもそも秋人のことだ。記録を付けてはいないとも考えられるのだからな」

 そして、第3(・ ・)の可能性には、つららと小春が秋人の性格を知ってもなお背筋が凍る感覚を抱かせた。


 夕飯後、モルテ達は手分けして死神の剣に関する記録を探したが、夜が遅くなった為にこの日は中断となった。

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