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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
14章 桜花の恋
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夜を奏でる月読

遅くなってすみません

 剣箱の中から現れたそれは僅に反りがあり、一部には三日月の形に切り抜かれた鍔、黄色の柄をした刀が黒い鞘に納められていた。

 刀と見受けられたが、それはれっきとした死神の剣である。

「夜を奏でる月読(ツクヨミ)。七十年前まで宝物殿にあった死神の剣の一本だ」

 道草が剣箱から夜を奏でる月読を取り出して床に置くと近くで見る為につらら達が近寄る。

「これが宝物殿にあったっていう死神の剣?」

「まさかここにあるなんてね」

 幸とふみが興味深く、感心する様に見える。

「本物?」

「本物に決まっとるだろ」

 夜を奏でる月読を疑う小春に道草が突っ込む。

「そやけども、どうしてここに?」

「親父、ウチも死神の剣がここにあるの聞いたことないぞ」

 つららだけでなく道長も何故道草の手元にあるのかと疑問をぶつける。

「そりゃそうや。道長には言うてなかったからな。道長が白神鋼鉄の失敗から立ち直ったらおせるつもりやったがちょうどええ機会や。道長もここで聞け」

 どうやら道草は夜を奏でる月読のことは教えるつもりであったらしい。


 そして、夜を奏でる月読も含めて70年前にあった宝物殿が燃えた時のことを話初めた。

「と言うても、わしも爺はんから話を聞いただけそやし詳しいことは知らんがな」

 少し不安になりそうな前置きを言って道草は語り初めた。

「七十年前、宝物殿を燃やしたのは大群として押し寄せた飢餓の人間とそれを煽った悪魔だ」

 ある程度予想していたことだが、そこに飢餓に陥った人間がいることに多生の驚きがあったが、口に出すのは失礼と誰も言わない。

「飢餓の連中は宝物殿に食い物があると吹かされたみたいや。見張りを蹴散らし、宝物殿に入った所を悪魔によって纏めて殺され、その拍子に松明か何や灯りの火が燃え移り炎上したみたいだ」

 宝物殿が燃えた原因はどうやら事故のようで故意にというわけではないらしい。

「煽った悪魔の目的は皆が思っとる通り死神の剣を手に入れることやった。だがな、運がええのか悪いのか分からんが、宝物殿の管理に死神がいてな。そいつが死神の剣を持ち出そうとした悪魔とやり合って、引き分けたんだ」

「引き分けた!?」

「引き分けたと言う言い方をしたが本人が言うには負けに近かったみてえや。何しろ、死神の剣を二本使われたらしう、防ぐのが精一杯やったようだ」

 道草の話しに死神の方が不利であると分かる。

「悪魔でも死神の剣を使えるなんて……」

「それが長所であり短所だ」

 話を聞いて悪魔でも使えることに驚く小春にモルテが冷静に言う。

「隙を突いて夜を奏でる月読を奪い取ったまではよかったが、そこに至るまで深手を負ったらしい。ほんで、宝物殿から逃げ出した悪魔を追いかけた死神が一葉山に入り、倒れた所をわしの爺はんが見つけ、話を聞いた次の日に死んだそうだ」

 これが宝物殿で起きた出来事であると道草はそう言って話を一旦終えた。


「命をかけて奪い返したんだね」

 悪魔と対峙した死神が命を落としたことに幸が哀れむ。

「なるほど。その死神から話を聞き、ここに夜を奏でる月読があるのか」

「そうだ」

 一方でモルテは夜を奏でる月読が道草の手元にあることを理解した様子であった。

「そやけども、何で夜を奏でる月読を帝に持って行かなかったの?」

「あのな、宝物殿は燃やされたんだで。そこにこれを持って行ってみろ?火付けた一味と思われて処刑されるぞ」

「……そう言われればそうかも」

 すぐに帰さなかったことを疑問に思ったつららに道草があり得る可能性を口にしてた。

「それもあるが、一番の理由は死んだ死神の遺言や。」

「遺言?」

「誰の手にも渡すな。守り抜けとな」

 遺言はまるで、これからも悪魔に狙われることが分かっているかのようであり、それを此岸人に頼んだのだと分かる。

「なんぼ死神といえど関係ねえことに巻き込むなと言いてえものや。しかも、それを受け取った爺はんもどうだと言いてえものだ」

 この事はどうやら道草にとっていいものではないようで愚痴る。

「やけど、お上も混乱しとることと遺言もあって、爺はんから続き、今はわしが夜を奏でる月読を守っとるんだ」

 これが全てであると道草は話を終えた。


 夜を奏でる月読が道草の手元にある理由を知って全員がそれぞれ思っていると、ふみが口を開いた。

「あの、その話あたし達にしてもよかったんどすか?それって秘密にすることじゃ?」

「構わん。こら秋人にも教えたことそやしな」

「じいさまに!?」

「お爺ちゃんにも!?」

 夜を奏でる月読が秋人も知っていることに孫娘2人が驚く。

「つららと小春もいるからちょうどええ。秋人はな、死神の剣を探しとったんだ」

「お爺ちゃんが?」

「初めて聞いた」

「やろうな。秋人は個人的に探しとったみたいそやしな」

 孫娘が知らなくて当然と言った道草だが、むしろ2人はどこか諦めた様子を浮かべながら納得していた。

「秋人はな、死神の剣を持ち出した者が一葉山を通って逃げるんやないかと思い調べに入ってわしと知り合ったんや。しばらくして、モルテが言うたこと以上のことを調べ、わしが死神の剣を持っとることにたどり着いた」

「私のはまだ確信が持てていなかったのだがな」

 秋人が先にたどり着いていたことはモルテとしても予想外であり、同時によく調べたものだと感心する。

「まあ、秋人には夜を奏でる月読がここにあることは口止めをしたんだがな。お前らも誰にも話すなよ」

「話しませんよ」

 今になって大切なことを忘れてたと慌てて言う道草にふみが僅にあり呆れて返す。

「そんで、秋人は行方不明の死神の剣を探すことにしたんや。恐らく、調べたものが何処かにあると思うが……」

「あの、じいさまの遺品片付けた時にはそれらしいものはなかったんどすが……」

「そうやね」

 つららと小春が見ていないと言う言葉に道草は信じられないという思いで眉を寄せてて考え込む。

「諦めたか?それとも……」

「何処かに隠したということだろう」

 道草の考えはモルテも思っていたところでありえる可能性も一致する。

「秋人の部屋はそのままだ。戻ったら調べよう」

「頼むな」

 夜を奏でる月読が道草の手元にあったことは大きな収穫であったモルテは行方不明であるもう1本を調べ続けることにした。


「トコで、夜を奏でる月読ってどんな力を持っとるんだ?」

 話を聞いて今まで興味があっても話の流れを止めるわけにいかなかった道長がようやく言えると口を開いた。

「確か、死神の剣って特殊な力を使えるんどすどすやろ?」

 小春も道長に釣られるように夜を奏でる月読の力に興味を示す。

「口で言うよりも見た方が早いが、生霊(リッチ)が出て来たら面倒だな」

 夜を奏でる月読を振るって生霊が出てきてしまえばせっかく休暇として訪れたモルテ達が休むことが出来なくなる。だからと言ってどう説明しようかとしばらく悩み、ようやく口を開いた。

「夜を奏でる月読は夜に力を発揮するが日が出とる時はそないに強くなるわけじゃねえ」

「時間によってちゃうってこと?」

 夜を奏でる月読の特殊な条件に幸が驚く。

「そうや。それと、分身って言うのか?自分と同じ姿をしたそれをいくつも作るな」

「手数が多そう」

 何かに引かれて感動する道長に女性達が突っ込むところが違うようなと戸惑う。

「ほんで?」

「それだけだ」

 これで終わりと宣言した道草に幾人かの目が丸くなる。

「それだけって、それだけ!?」

「わしが知るのはこれだけだ!後は知るか!」

「何で怒るんだよ親父!」

「ねえ、やっぱり外で使って試してみよう!」

「道草はんがあたし達のこと気にして振るわなかったのに何で自分から使うって言う!阿呆!」

 一部が夜を奏でる月読の力をちゃんと知りたいと暴走するが、幸に一喝されて静まる。

 その様子にモルテは呆れていたが、静まったことで夜を奏でる月読を見つめる。

(これを使いこなすのは難しいのだがな)

 モルテは夜を奏でる月読の力がどの様なものか知っていた。しかし、それを、口にすれば先程の様になるだろうと使われる時が来るまで口を閉ざすことにした。

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