表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
14章 桜花の恋
573/854

持ち出した者

 モルテの口から出た言葉に道草は難しい顔を浮かべた。

「平城宮の宝物殿にあった死神の剣か。あら昔の帝の所有物と聞いたことがあるが」

「知っている。私が聞きたいのはそれではない。当時、何があったかだ」

「当時と言うと?」

「平城宮の宝物殿が燃えてしまった原因だ」

 損失した原因について知りたいとモルテは切り出した。


「どういうことモルテ?」

「前にも言ったが、死神の剣は壊れることがない」

「待って!ずっと思っとったんそやけども、何で死神の剣が壊れることないん?」

 ふみの言葉にモルテは顔を歪めた。まるで言いたくないかの様に。

「……死神の剣に使われている材料が特殊なのだ。それにより火災でも損失することはない」

 特殊と言う言葉に道長が食らい付いた。

「モルテはその材料知っとるのか?」

「知っている。だが……」

 今はこれしか言えないと付け加えて強制的に終わらせたモルテを道長は残念そうに諦めた。


「死神の剣が損失することがない為に考えられるのは火を放った何者かが持ち出したことだが……」

「そう考えとったんではおまへんん?」

「悪魔ではない可能性を見捨てていた」

「それって……」

「死神の剣が収蔵されていることを知る死神が持ち出した可能性もあるということだ」

 持ち出した者に死神が含まれている可能性に場が響動めき始めた。

「まさか帝!?」

「七十年前の帝が死神か分かれへんけど、あり得ないことではおまへん」

「そやけども、七十年前の帝が死神じゃなかったら、宝物殿を守っとった死神かも知れへんよ」

「その可能性もある」

「そやけども、死神が火を放ってまで剣を奪う理由がある?」

 ふみの鋭い一言に響動めきがピタリと止む。

 死神なら領域を使えば宝物殿へは気づかれることなく自由に出入りが出来る。そこに死神道具や常に違う死神が領域を展開していなければの条件が付くが。

「もそやけどもて、火を放ったのが悪魔で、剣を持ち出したのが死神?」

「……共謀しとった可能性もあるってこと?」

 小春が何となく思い付いた言葉につららが険しい表情を浮かべた。

 モルテから大陸で悪魔の動きが活発になっているだけではなく今まで認知されてこなかった、死神をそそのかしている動きまであると聞かされていたことで真っ先にその方向性を疑った。

「つらら、それがないとは言い切れへんけど、なんぼなんでもそら突発過ぎる。火を放った悪魔から死神が剣を守る為に持ち出したとも考えられる」

 幸が死神が宝物殿から死神の剣を持ち出したもう一つの可能性を言う。

「それじゃ、死神の剣を持ち出した死神は何処にいったん?」

「そら分かれへんけど……」

「もそやけどもて……」

 死神の剣を持ち出した死神は何処へと口論仕掛けたつららと幸だが、ふみが何かに気づいて道草を見た。


 ふみの様子にモルテは頷いてから道草を見た。

「初めここを訪れた時は大して気にしなかったが、宝物殿が焼失した今なら気になることがある」

 モルテの前置きに道草もモルテを真っ直ぐ見る。

「地形的に宝物殿は桜花から一葉山の山道を通った方が近いがそれほど使われたことはない。恐らく生霊(リッチ)不死者(アンデッド)が多く潜むこの場所を通るわけにいかなかったのだろう」

 死神でない人間が生霊か不死者と遭遇すれば逃げ切れることは少ない。そうした危険を犯してまで頻繁に使う度胸はないだろう。

「だが、そうした場所を時には使わなければならない時があるはずだ。例えば、宝物殿から帝へ急な知らせを伝える為、宝物殿の宝を別の場所に移さなければならない時などだ」

「急ぎでか。やけど、わし達と関係はないはずだ」

 此岸人であるが宝物殿を管理する者とは関係ないと言う道草。

「関係はなくとも一葉山を通り抜けるには生霊から襲われない様、密かに護衛を担っていたはずだ。此岸人である道草の先祖達がだ」

 対してモルテは関係がないことを認めつつも存在は知っていたはずと言う。

「ここからは予想でしかないが、宝物殿が放火された時、そこに納められていた品を持った者が一葉山に逃げ込み、保護をしたのではないのか?」

「保護?」

「そうだ。そうでなければ桜花に伝わるまでの時間が合わん。だから思ったのだ。恐らく、道草の祖父辺りが接触しているはずと」

 モルテは宝物殿が燃えてから帝の耳に入るまでを予想し、桜花の都に伝わるまでの日時を調べ、それまでの時間を調べた上で道草にぶつけた。


 その言葉に道草は腕を組んだ。

「それだけのことで接触があると思ったのか」

「だから言っただろう。まだ確信が持てていないと」

 話を聞いて呆れる道草にモルテは言い訳をする。

「この話をし出したのはだな、死神の剣を探さなければならないからだ。どこにあるのか、出来ることなら所有者を知る必要がある」

「そやしわしに宝物殿が放火した時の話を聞きたいと言うたわけか」

 モルテの目的を知った道草は口を閉ざして考え込んだ。

 それに合わせ誰もが声を出すことなく道草が口を開くまで待った。


 そして……

「道長、奥から箱を取ってきてくれ」

「箱ってあれか?」

「ああ。木目が確りしたやつだ」

 道草に言われる道長は家の奥へと向かった。

「道草?」

「モルテ、お前が探しとる死神の剣一本はわしが持っとる」

「何だと!?」

 予想していなかった道草の言葉にモルテは驚愕した。

 そこに道長が木目がそのままの剣箱を道草の前に置いた。

「宝物殿が燃えた時の話とこの剣について話そう」

 そう言って、道草は剣箱を縛っている紐を解いて蓋を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ