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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
14章 桜花の恋
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休息日の夕飯

 その日は手野家のお世話になることになった。

 もっとも、初めから一泊する予定で道草から承諾済みであるが。

「お見苦しいトコを見せてしまい申し訳おまへん」

「構わん」

 温泉とお酒で完全にのぼせてしまった幸が人様の家で数時間ほど横にさせてもらったとはいえ動けなくなってしまったことを代表して謝罪した。

 それに対して道草は事情を知っている為に気にしていないが、一つ付け加えた。

「まあ、そこにいる秋人の孫娘みたいに羽根伸ばしすぎなければええからよ」

 温泉で最も暴走していたつららは未だに横になって顔色を悪くしていた。

 しかも……

「阿呆~宗頼の阿呆~、あたしの阿呆~……阿呆……」

 誰に罵倒しているのか分からない呻き声を漏らしている。

 温泉にのぼせ、熱燗で酔い潰れ、自分が言ったことに嫌悪するという三連発で気持ちがよろしくない。

「すんまへん」

 つららの様子に申し訳ないと幸が頭を下げた。


 その頃、台所ではふみと小春が夕飯の準備をしていた。

「小春、ご飯は?」

「もうちびっとかな?」

「……それじゃこっちも」

 釜で炊かれているご飯がもうそろそろであると自分の目でも確認をしたふみは鍋に入れる野菜を切り始めた。

「ふみはん、はしり勝手に使っても大丈夫なんどすか?」

「大丈夫。はしり使う許可貰ってあるし、材料も持ってきた物そやし問題ない」

 そう言って勝手知ったる他人の家の様にふみは台所に置かれている道具を構わず使う。

 もっとも、モルテと一葉山にいた時に台所を使っていたこともあって何処に何が置かれているのか覚えている為に既に勝手とは言えない。


 何故ふみと小春が夕飯の準備をしているかと言うと、一泊だけとはいえ手野家のお世話になる為に礼として食事を作ることにしたのだ。

 ただし、手野家の食材を使うわけにはいかない為に必要になる食材を自分達で購入して運んで来たのだ。

 調味料は霊剣を作ってもらう為にモルテが(正確にはふみのお金で)買い揃えていたことで味付けの問題がなく、加えて死神であるから領域を使えば運ぶのが楽である為に到着するまでの苦労はない。

 そうして、持って来た食材を使い夕飯を作り始めたのだ。


 ふみは切った数種類の野菜を鍋に入れると水を入れて蓋をしてから囲炉裏へと運んだ。

「そろそろええ頃合かな」

 囲炉裏に火を付けて煮立たせる。

 囲炉裏に鍋が置かれたのを見て幸と道草が釘付けになり、ふみに尋ねた。

「鍋に何を入れた?」

「野菜だけ。味付けは醤油にしようかと」

「魚は入れなかったのか?」

「魚はまだ釣に行った二人が戻って来てへんからまだどす。それに、焼いて食べようとも思ってます。そっちの方も美味しいと思って」

 2人の質問にふみは予定していた鍋の中身ともう一品を教えた。

「そう。それよりもほんまに手伝わなくてええん?」

「ええどす。あたし達がやりますから」

 幸が手伝わないことを申し訳ないと思うも、ふみは気にしていない。

 むしろ幸は仕事でいつも台所に立っている様なものでこういう時くらいは立たなくてもいいのではという思いがある。

 そう思っていると引戸が開けられモルテと道長が釣りから帰って来た。

「おう、戻ったか。ほして、どうやった?」

「大漁に連れた」

 道草の言葉に道長は網の中に入れられている魚を見せた。

 網の中では罠や釣り針に引っ掛かった川魚が何匹も入っていた。

 これなら鍋でも焼いてもちょうどいいくらいだとふみは小春を呼び寄せると川魚を受けとり早速下ごしらえを開始した。



 それから、特に時間がかかることもなくこの日の夕飯が出来上がった。

「いただきます」

 気分を悪くしていたつららも何とか回復して全員での夕飯となった。

 この日の夕飯は白米、川魚と野菜の鍋、川魚の塩焼きである。

「このお魚美味しい」

「塩加減がええな」

 初めて食べた川魚の塩焼きを食べた小春が思っていたよりも柔らかく美味しいことに驚いていると、普段から食べる機会がある道草がちょうどいい塩加減に満足する。

「鍋もええ味してるね」

「魚もちゃんと煮込まれてる」

 鍋の具材を食べて汁をすすった幸からも評判はよく、ふみは川魚がちゃんと煮えていたことに安堵した。

「酒飲むか?」

「もろてええか?」

「まだ飲むの!?」

 いつの間に準備をしていたのか徳利に入っている酒をモルテに進められた道長が食い付き、温泉で熱燗を飲み過ぎて気分を悪くしていたつららが突っ込んだ。


 そうして、夜の闇が深くなった頃には夕飯は食べ終わりくつろいでいた。

「こうしてゆっくり出来るのはいつぶりかね?」

「お幸はんはいつも働いてますからね」

「それ言うたら全員そうそやし」

 殆ど休みなく働いている様なことに桜花の女死神は僅かに笑った。


 モルテは道草のおちょこに酒を入れていた。

「すまんな。急なことに巻き込ませて」

「構わん。都がどうなっとったかは話を聞いとったから分かる。ちびっと忘れてもええだろ」

「そう言ってもらえるのならありがたい」

 桜花の死神がどれだけ気を張り巡らせていたのか想像するだけだが、その疲労から少しでも解放されるならと伝え、道草は酒を飲む。

「それに、あの時は助かった」

「なに、あれが本来の役目や。一役立ったのならありがたいことだ」

 モルテが言うあの時とは、悪魔を刈り取る為にモルテとふみが一葉山をかけ降りる際に現れた生霊(リッチ)不死者(アンデッド)は2人の前だけに現れたわけではない。

 至る所に現れ、力を使う2人に引き寄せられたのだが、道草と道長が2人が早く桜花に着く様にと手助けをしていたのだ。

 それによりモルテが振るった血塗られた(ブラディー・)罪人(カイン)の斬撃の着弾を近くで見ることとなった。


「それにしても、よく飲むな。酔わないのか?」

「全く酔わんな。酔いたいと思い飲んでもこの体だ。恨めしいものだ」

 何が恨めしいのか分からないが羨ましいと道草は思った。

「そやけども飲み過ぎそやしもう飲まないの!」

 そんな飲んでも酔わないモルテにいくらなんでも飲み過ぎとつららがおちょこと徳利を没収した。


 つららがやったことにモルテが恨めしそうに睨んでいるのを殆どがそうだと言って笑うのを見ながら道草は一つ息を吐いた。

「……ほして、ここには休息で来たわけでも秋人の孫娘達を連れて来たわけではおまへんだろ?」

 突然の不意討ちに笑い声が止まった。

 モルテが再び手野家に訪れたのはつららと小春を道草に紹介する為と伝えられていたのだが、まだ目的があることを聞かされていなかったのだ。

「……正直、どの様に切り出そうか悩んでいた。まだ確信が持てていないからな」

 モルテとしてはまだ話すつもりはなかったのだが、道草が何かを察したのなら仕方ないと本題を口にした。

「70年前まであった平城宮の宝物殿に納められていた死神の剣について聞きたい」

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