血塗られた罪人
「モルテ!」
「やっと来たか」
声が聞こえた方に振り返るとそこにはモルテとふみとホメロンがいた。どうやら2人と1頭も合流出来たようだ。
そして、モルテの手には黒く細長い箱があった。
「箱を開けるまででいい。すぐに終わらせる」
「時間稼ぐぞ!けしてモルテはんの所に攻撃向けさせるな!おふみとつららはモルテはんを守れ!」
忠信からの攻撃指示につららとふみ以外が悪魔の気を引く為に飛び出す。
その瞬間、自分が何をしているのか分からなくなっている悪魔は目に入いりとにかく近くにいる桜花の死神に向けて攻撃を放った。
数と威力が同じ位であった為に桜花の死神はここが最後と余力を全て出し切り時間稼ぎを始めた。
モルテは言い終わるとすぐにしゃがみ込み剣箱を地面に置いた。
「モルテ、それに剣が?」
「そうだ」
モルテの前に立ち悪魔の攻撃が飛んで来ないかと警戒するつららが興味ありげに見たいという気持ちを押さえ込んで言う。
そして、興味はふみにもあり、数日間思いとどめていたことを口にした。
「ずっと気になっとったんそやけども、どうして剣を持ってるん?」
「……私の罪の1つだからだ」
モルテは重々しい口調で言ったことで聞かされたつららとふみはモルテの雰囲気に驚き戸惑い、聞いてはいけなかったのではと思ってしまう。
そんな2人をよそにモルテは剣箱を開けに入った。
剣箱開封の鍵である銀の指輪を左手薬指にはめる。
「それが鍵?」
指輪を知るつららはモルテとしては珍しい装飾品を持っていることに驚き、指輪を知らないふみは珍しい装飾と思うだけ。そして、2人とも指輪をはめた場所の意味は知らないでいた。
モルテは一呼吸置くと剣箱の蓋に両手を添えた。
使わずにいられれば使わずにいたかった。けれども、何度も使わなければならない状況に立ち合いその度に使ってきた。
(出来ることならこのまま眠らせてやりたかったのだが……)
開けようとする度にモルテの心には罪悪感が募り、あの時のことを思い出す。
しかし現状、いつも剣箱を開ける状況は切羽詰まっている。長く感傷に浸っている暇はない。
気持ちを改め剣箱にかけられた鍵を手際よく全て外して蓋を開けた。
中を覗き込んだモルテの表情は現場に似合わず穏やかであった。
「久し振りだな……」
剣箱の中には赤みを帯びた刃の剣1本が幾つもの鎖に縛られていた。
「つらら、全員に離れろと伝えろ」
「え?」
「すぐにだ!」
一方的に伝え、モルテは力ずくで鎖で縛られている剣を引き抜いた。
悪魔の攻撃を忠信達は懸命に回避していた。
都とモルテの元に力の塊を飛ばさないようにすると、自然に左右に別れている。
「いつまでやればええんだ!」
モルテの準備はまだかと保彦が愚痴る。
気持ち的に大分経っていると他の桜花の死神も思い始めた時、
「皆離れて!」
つららが大声で叫んだ。
何かと思い全員が振り向くと、つららとふみを通りすぎ、赤みを帯びた刃を一振りして歩いてくるモルテの姿があった。
瞬間、悪魔の対処をしていた全員の体が何かに反応した様にその場から逃げるように離れた。
「……」
残された悪魔は先程まで桜花の死神に集中していたのが嘘のようにモルテだけを見ていた。
「何だそら」
ゆっくり歩いて来るモルテから感じられる強力で強大な力に悪魔は引き付けられていた。
これだけ力を感じられるなら複写を使おうとするも何故か出来ない。
「何故だ!?」
複写が出来ないことに戸惑う悪魔を無視してモルテは駆け出した。
「ならば直接!」
至近距離で血肉を喰らえば複写が出来ると悪魔も駆け出す。
先程まで力を使わない死神の相手をしていた悪魔にとって今のモルテは存分に楽しめる存在になっていた。
「ははははは!」
腕を中心に力を纏いモルテに向けて突き出した悪魔はこれで体の一部を奪い取れたと喜ぶ。
だが……
「……!?」
体が縦に真っ二つに割れ、背後には追撃の為に振り返ろうとするモルテがいた。
* * *
「えっ……」
「ちょい待って……」
驚きは桜花の死神達にも与えていた。
「今、何した?」
「振っただけだよな?」
「どこで切った?」
「一瞬過ぎて分からん」
モルテと悪魔の距離は限りなく近かった。だが、誰もがモルテが剣を振るった所を見ておらず、気が付いた時には悪魔は真っ二つ、モルテが背後にいた。
だが、それ以上の衝撃が桜花の死神に襲い掛かった。
「何あれ!?」
つららが悲鳴に似たような声を上げる。
「なっ……!」
「何だよこれ!」
近くにいた佐助と保彦も信じられないとその光景を見ていた。
「血が、吸収されてる……」
モルテが持つ死神の剣に悪魔の血が引き寄せられるようにして吸収されていた。
* * *
己の体を流れていた血が剣に吸収されていくのを悪魔は感じていた。
「血塗られた罪人。この剣で傷つけられた者は血を吸われ、その分剣は強くなる。一滴残さず吸い取ろう!」
「ねぶるな!」
体が二つに切られたから何だ、血が全て抜かれようがその程度で死ぬことはないと悪魔はその状態で襲い掛かる。今の体が瀕死であることに気づかず特攻になっているとも知らずに。
モルテは血塗られた罪人で悪魔から全ての血を吸収させると刃を今まで以上に赤くさせた。まるで血が刃となった印象だ。
「貴様の存在、刈らせてもらう!」
血塗られた罪人を悪魔に向けて一振りした。
瞬間、1つの赤い斬激が悪魔を切り裂き、遅れるようにして体を細かく刻み込まれた。
「……なっ!?」
一度の攻撃で全ての行動を不能にさせられた悪魔に待ち受けていたのは死。命を刈り取られたのだった。
* * *
「……親父、これ……」
その光景は一葉山からも見えており、信じられないと道長が呟いた。
「ああ。よく見たか?これが死神の剣の力や。覚えておけ」
そう言って道草は視線を足元に下ろし近くの崖を見た。
モルテが放った一撃。それは一葉山の木々と土と岩を削り新たな崖を生み出したのだった。




