悪魔捕獲
どうも悪魔は保彦に執着しているようだと栄一郎の目には見えた。
「貴様は逃はん!」
徐々に領分の感覚を思い出していく悪魔は今や腕だけではなく体全体にも力を纏わせて攻撃を仕掛けてくるようになっていた。
死神が力を使わなかったことで悪魔は本来の戦い方を既に取り戻したと言ってもいい。
今の悪魔は物欲の奪取を使っている。死神が力を使わなければ体の一部を持っていかれそうな程の質量。避けきれなければ即死、僅かなミスでも命取りになりかねない戦いへと発展してしまっていた。
しかし、死神達の目的は戦いではなく誘導。それなりに方法があれば殆どは回避に費やすもの。今までの倍大変になるだけでそれほど大きな問題ではない。
それに……
「上等だ!」
どうやら悪魔は前回の戦いで保彦を逃がしたことを相当根に持っているようであり、保彦も悪魔を敵と思っている為に一進一退の攻防が繰り広げられることとなっていた。
(頼むから目的忘れいでくれよ)
保彦の熱の入れように不安になる栄一郎だが、直接介入すれば何が起こるのか分からないために武力介入出来ない。
「保彦一旦引け!」
だから間接的に口で伝えるしかない。
ここまで保彦が悪魔と殺り合うことになったのは栄一郎の判断ミスなのだが、それを引いても悪魔が着いて来ているのだから間違いであると言い切れない。
「……チッ!」
栄一郎の言葉に保彦は舌打ちをすると悪魔の攻撃を回避すると早々にその場から撤退した。
いつの間にか悪魔と殺り合うことに夢中になっていたとはいえ、保彦は本来の目的を忘れてはいなかった。
「待て!」
そして、逃げた保彦を追うようにして悪魔も追いかけて来た。
「もうちびっとしたらもう一発かませ。そうしたら後は全力で走るぞ」
「一発だけかよ!」
「一発だけだ!」
何で気を引く為に何発も攻撃を仕掛けるつもりでいるんだと栄一郎が突っ込む。
「それにな、手を込んで仕掛ける必要なくなったんそやしな」
「そうなのか?」
悪魔が保彦に狙いを絞ってくれたことで殺りやすくなったと言う栄一郎の言葉にことに当の本人は無自覚であった。
「嫌がらせ程度で無理して仕掛ける必要なくなったんや。逃げ切れればええんだ」
「……物足りまへん気がするな」
「何でだよ!」
どうやら保彦がやり過ぎないように更に手綱を握り締める必要があると栄一郎は覚悟を決めた。
◆
栄一郎の努力が実ってか、2人は桜花の郊外へ出ることが出来た。
「くっそ!」
だが、喜ぶことは出来なかった。
「今までののが笑えてくるな……」
悪魔に積極的に攻めようとしていた保彦も今では矛を収め慎重になっていた。
何故なら、悪魔の戦い方が激しくなってきていたからだ。
「貴様らの存在ぐち喰らう。喰らってやる!」
奪取の力を何度も放ち、栄一郎と保彦は懸命に避ける。
これが微々たるものならよかったのだが威力が最つららと佐助に放った時程の力を何発も放っている。
「見えた!」
攻めることを止め回避に集中して一葉山に向けて走っていると、先に向かわせていた2つの影が見えてきた。
「栄一郎!こんな状況でやるのかよ!」
「……やってみるしかないだろ!」
今の悪魔に対して嫌な予感はあるが、当たっても時間稼ぎになってくれればいいと叫んだ。
「やってくれ!」
栄一郎の言葉を合図に2つの影は大袈裟なことはしていないが明らかに何かを行った。
途端に地面を何かが走り、栄一郎と保彦を通りすぎるとあっという間に悪魔に絡み付いた。
「何だ!」
栄一郎と保彦に集中していた為に付け紐の存在に気づかなかった悪魔はあっさりと捕まり、その隙に2人は悪魔の背後に回り込むと死神道具硬い壁を起動させるとあっという間に悪魔を閉じ込めた。
硬い壁は透明な盾と違い強度に強く、誰の目から見てもそこに壁がある様に見える。
罠に向いているとは言えないが威力が高い攻撃から身を守る壁の役割を担い、使い方によっては相手を捕らえることも出来るモルテが持って来た死神道具の1つ。
それを4つ惜しみ無く使い悪魔を囲んで捕らえたつらら、栄一郎、佐助、保彦はしばらく様子を見る。
硬い壁の中からは悪魔の気配が嫌でも感じられ、恐らく怖そうと力を使っているのだろう。
それでも壊れる様子を見せない硬い壁に誰かが息を吐いた。
「捕まえることは出来たな」
話を聞いた時は成功するのかと疑問に思っていた佐助だが、目に見える成果に緊張の糸が緩む。
「佐助!」
「悪い悪い」
そこを栄一郎に注意された佐助は気持ちを切り替えようとした。
その瞬間、硬い壁が一瞬にして破裂した。
「なっ!?」
「きゃっ!」
硬い壁を破壊した力の余波に桜花の死神4人が身を守る体制を取った。
「これしきのことで……」
そして、内側から硬い壁を壊した悪魔は先程まで感じたことのない力を放出していた。
「おいおい、上級ってこんなに強いのかよ……」
感じられる力に佐助が顔を青ざめ、他の桜花の死神も突然のことに硬直する。
「こら予想外だな」
「手を抜いとったのかよ?」
悪魔から感じられる力に余裕が無くなったと栄一郎と佐助が悟った瞬間、悪魔は力の塊をいくつも作り出すと四方に向けて放った。
「逃げろ!」
避けろではなく逃げろと栄一郎が叫び頃には全員が退避していた。
力の塊を紙一重で避け、他の辞任と接触しないように気を使い、空振りとなった塊はその場で消えるものもあれば地面にぶつかり喰らうものまであった。
「洒落にならへんよ!」
どれほど地面が喰われたか近くで見ていたつららは青ざめ、襲ってくる力の塊を回避した。
死神が力を使えば攻撃を仕掛けて止めることが出来たかもしれない。
しかし、力を使わなければ何も出来ないことを痛感させられる。
死神がここに来て苦戦を強いられた理由は1つ。
悪魔が本来ある力に完全に目覚め本気になったのである。




