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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
2章 葬儀屋の仕事
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閑話 コーヒー騒動

本日は閑話三本立て。8時、14時、20時の投稿です。

 どうしてこうなった……



 現在、リビングではテーブルを挟んでモルテとファズマが激論を交わしていた。

「分かっていない!コーヒーとは薫りだ!」

「いいえ、店長の方がわかっていない!コーヒーはコクです!」

 コーヒーの決め手について熱を入れて激論をしている。

 その側ではディオスが止められず右往左往しており、ミクは隙を見て逃げ出してしまっている。

(どうしてこうなった!?)

 ディオスは涙目になりそうな表情で現状について心の中で叫んだ。

 何故モルテとファズマがコーヒー討論をすることになったのか。それは少し前まで遡る。


  * * *


 この日はファズマの誕生日で成人になる日である。

 そのためかファズマよりも先に起きたモルテが朝食を作りテーブルに並べていた。

「だからって店長がわざわざ作らなくても……」

「ファズマの記念日なんだ。これくらいはいいだろう」

 自分の仕事を取られたファズマだが記念日と言われ内心では嬉しがっているように見える。

「わあ!師匠のごはん久しぶりー!」

 ミクはテーブルに並べられた朝食を見て歓喜の声を上げている。並べられた朝食はどれも重そうに見えるが、それでもモルテが作った料理と言うのが相当久し振りのようだ。

「店長って料理作れるんですか?」

「何だ?料理出来ないとでも思ったのか?」

「いえ、そうじゃなくて、店長が作った料理を初めて見たから、その……」

 誤解されるような言葉を言ってしまいモルテに睨まれたディオスは言葉に詰まった。

「全く。ファズマに料理を教えたのは私だ」

「ええ!?」

「何だ?意外か?」

「いえ、違います」

 モルテから予想してなかった言葉を言われ驚いたディオスはそっとファズマを見た。

「本当だ」

 そして、ディオスの視線を感じたファズマが頷いた。

「全く。朝食が冷める。食べるぞ」

「は~い」

 朝から不機嫌な表情になったモルテの言葉にミクが元気よく返事をしたのを合図に席へと座り、いつも通り祈りを上げ、朝食を食べ始めた。

 そして、モルテが作った朝食を一口食べたディオスの感想は……

(あ、味が違う)

 財閥の御曹司として培われた肥えた舌はモルテとファズマのどちらも美味しい料理の僅かな味の違いを捕らえていた。


 朝食後にいつも通り出されたコーヒーを飲んだディオスはここでも違いを感じた。

「薫りがいい……」

 ファズマとは全く違う味のコーヒーだが薫りが遥かにいい。

「ほう、気がついたか」

 ディオスの言葉に先程まで不機嫌だったモルテの表情が和らいだ。

「はい。ファズマが淹れたコーヒーにはコクがあります。そして、店長が淹れたコーヒーは薫りがいいです」

「そうだ」

 ディオスの答えはモルテが出した結論と同じものであった。

 そんな会話にファズマが口を挟んだ。

「だけどな、店長が淹れたコーヒーにはコクがないんだ」

 ファズマの言葉にモルテの指がピクリと動いた。

「それならばファズマが淹れたコーヒーには薫りがない」

 ないと言われ仕返しとばかりにファズマに言うモルテ。

 そして、互いに静かに睨み合う。

(……あれ?)

 不穏な空気が周りを漂うのを感じたディオスは何故か嫌な予感を感じた。

「ミク、一体……っていない!?」

 これがどう言った雰囲気なのか、葬儀屋フネーラ特有の雰囲気なのかミクに聞こうとしてリビングにいないことに気がつく。

 驚くディオスをよそにそれは切って落とされた。

「前にも言ったがファズマのコーヒーには薫りが足りん」

「それなら店長のコーヒーもコクが足りません!」

 一触即発の雰囲気に完全に逃げるタイミングを見失ったディオスは右往左往するしかなかった。


  * * *


 そして、この激論はすぐに終ると思っていたら未だに続いていた。

「だから薫りと言っているだろう。薫りがあることでコーヒーを飲もうと思えるようになる」

「それならコクがあるから長く飲んでいたいと思えるようになります」

 どちらも持論を譲らない激論にディオスは疲労を感じていた。

「ディオスはどちらだ?」

 そして、とうとう逃げられなかった為に話を振られたディオスは鼓動が早くなるのを感じた。

「薫りとコク、どちらが好みだ?」

 ここで解答にミスをしたら白い目で見られる。それはどちらかを選んでも同じこと。ディオスは考えた末に答えた。

「俺は飲みやすいコーヒーが好きです」

 出した答えはどちらにもつかないことだった。

「ディオス、それは……」

 ディオスの思いもよらない答えにモルテが確かめるように尋ねた。

「お前自身がそういったコーヒーを淹れることができるからか?」

「え?」

 モルテの発言に驚くディオス。予想していた反応ではなく、何故こういった方面に向いてしまったのか分からない。

「店長、興味が?」

「ふむ。薫りやコクを置いて飲みやすいとは喧嘩を売っているが興味がある」

 どうやらモルテのコーヒー好きに変な火を灯したらしい。

「ファズマ、器材と材料の準備を」

「はい」

「ま、ま、ま、待ってください!!」

 さっきまで激論を交わしていた二人が息を合わせてコーヒーを淹れる準備に取りかかったのを見てディオスが慌て始めた。

 それもそのはず。ディオスは生涯で料理などしたことがない。しかも、どの様な道具を使うのかも使い方も分からない。一度も料理を作ったことも携わったこともないディオスにいきなりコーヒーを淹れろと言っているのだ。ディオスが慌てないはずがない。

「何やってんだ。準備出来たぞ」

 そんなディオスをよそにキッチンでコーヒーの器材を出し終えたファズマが声をかけた。

「だから俺は……」

「いいから淹れてみろ」

 出来ないと言う前にファズマによりキッチンへ押され、コーヒーを淹れることとなった。


 そして、

「……出来ました」

 時間をかけてコーヒーを淹れたディオスはモルテとファズマにカップに淹れたばかりのコーヒーを差し出した。

「随分時間がかかったな」

「すみません」

 時間がかかったことに謝罪をするディオス。

 確かに掛けすぎた。器材の使い方もコーヒー豆の量も挽き方もお湯の温度もどれが適切なのか分からないディオスが長く考えながらやっとコーヒーを淹れたのだ。

 淹れてしまってから何だが多分美味しくはないと思う。これで美味しくなかったら正直に言おう。ディオスがそう決意を決めるとモルテとファズマがコーヒーを口にした。

(……あ)

 罪悪感しか湧かない。ディオスは怒られる恐怖を隠しながら二人の様子を見る。

 モルテとファズマはディオスが淹れたコーヒーを口の中で回すと感想を口にした。

「酸味がある」

「ですね」

「はい?」

 思わぬ言葉にディオスは何を言っているのかと呆けた。

「なるほど。ディオスが飲みやすいと言ったコーヒーは酸味があるコーヒーか」

「確か、暑い時は酸味があると飲みやすいんでしたっけ?」

「そうだ」

 どうやら怒られる様子はない。むしろ何か誤解をしている気がする。

「そうなるとファズマ」

「分かっています」

「淹れ方を見直すぞ」

「はい」

 ディオスの淹れたコーヒーに何かを感じたモルテとファズマは予想外すぎる展開に驚いて口をパクパク動かしているディオスをよそにこの日一杯コーヒーの淹れ方を見直していたのであった。

ちなみに自分はコーヒー飲めません

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