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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
13章 桜花死神連続変死事件
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鍛冶職人の心

 モルテの追及に道長は口を閉ざし目を背けた。

「無くしてもええやろ。鍛冶職人として失格なのは分かっとるんそやし」

「分かっているのなら何故ここにいる?未だに居る理由は何だ?」

「ウチの家そやしに決まってるやろ」

「なるほど。つまり、道草の脛を噛っているのか」

「何でそうなる!ここ以外にどこ行けって言うんだ」

「行けではなく行けないのだろ!お前は結局、鍛冶をすることしかできないのだからな」

「そら親父がやれと……」

「そこで道草のせいにするのか!だからお前は言われた通りにしか出来ないと言ったんだ。自分で考えることが出来ず、心を偽り逃げ続ける。よくも今まで恥もしなかったな!」

 モルテと道長が険悪な雰囲気を纏って睨み合う。


 そんな様子に道草が肩を落とした。

「モルテ、ええ。道長がこうなったのはわしの責任や。わしがきっちり話を付ける。それまで口を出すな」

 最悪の展開を感じ取った道草がモルテに釘を刺すと道長に向けて口を開いた。

「道長、わしは死神と鍛冶しか教えられねえから道長が苦しんでいることに全部を気づいてやることは出来ない。道長に何て声かけりゃええか分からねかったが、ようやっと言葉が見つかったものだ」

 一呼吸置いて道草は言った。

「失敗なんざ恥ずかしく思う必要ねえんや。鍛冶やり始めた頃は普通に失敗して当然。新しいことやり始めて失敗して当然なんそやしよ」

「ほんでも、ウチは親父の様に打つことは出来ねえ。ましてや白神鋼鉄はわしには扱いきれん」

「ええ師がいると荷が思いか?」

「そないなことではおまへん!」

 道長は慌てて否定したが、ふみが隣に座っているモルテに小声で呟く。

「ああ言うてるけど、実際そうだどすやろ?」

 その言葉が道長の耳に聞こえ血相を変えてふみを見た。そして、モルテが頷いているのも見たことで複雑な心境に陥る。

 そんな様子を道草はしっかり見て、続きを話す。

「なあ、わしが白神鋼鉄で始めて納得いく物を打つまでどれだけかかったと思う?」

「一月くらいか?」

 道長が言った答えに道長は歯を見せて笑った。

「二年だ」

「……はぁ!?」

「正確には二年と三月。それまでに炉を作り直したり白神鋼鉄がどんなものか調べとったが、出来上がるまでに失敗したのは百八十三回だ」

「親父が、そんだけ……」

 白神鋼鉄で一品作り上げるまでの年月と失敗回数に信じられないと道長が顔で語る。

「驚いたか?」

「ありえへんだろ!だって、親父は……」

「わしだって失敗する時はある。それにな、白神鋼鉄ってのはわしらが普段使ってる鉄とちゃうからいきなってやって失敗しても当然や。あの鉄でわしも自信なくしかけたがな、鉄ぐちきに負けたくねえと思ったんだ」

 だから打てるようになったと道草は語る。

「それに、道長は恵まれとる。どれだけ腕のええ職人が白神鋼鉄をいざ打てと言われても出来ん。炉があって打つ為の技術を知っていれば、後は納得出来る物を追い求めればええ。失敗してなんぼだ」

「そやけども、出来なかったら……」

「そん時はわしが見つけられねかった方法を道長が見つければええ」

「ウチが、見つける?」

「そうだ。後ろめたいことはな、鍛冶職人がしちゃいけねえこっちゃ。前を見てろ」


 己で新しい技術を生み出せと言い、道草はモルテを見た。

「ほして、霊剣用の短剣やけど、扱う奴はどんな奴だ?」

「……死神嫌い」

「ん!?」

 これは意外な者がモルテの弟子になったと道草は軽く驚くが、ふみと道長はそのことに戸惑う。

「そやけども、何だって死神の弟子に?」

「拐われた身内を助ける為。その為に悪魔と成り果て死んだと思われていた実父を倒そうとしている」

 これ以上の被害が出ない為にも死神になることを選んだ死神嫌いの存在に道長は考えさせられた。

 死神嫌いと言われる弟子が正面から死神と向き合った。対して自分はどうなのかと。

「そやけども、戦えるのか?」

「元々は武術を習っていたからな。キツく鍛え直せばすぐにでも戦えるはずだ」

「なってたてがいきなってか……」

 どうやら死神嫌いの弟子が戦うことは決まっている様であると、道草はため息をついた。

 そこに、死神嫌いの弟子の話を聞かされてから考え込んでいた道長が口を開いた。

「なあ、何で戦おうとするんだ?そないなもの死神に任せればええのに」

「確かに死神に任せれば弟子になる必要はない。だが、他人に頼らず自分でやらなければならない時というものもある。見据えて分かっているのだよ。何をするべきか」

「……」

 モルテは簡単に言ってしまっているが、道長はその言葉に怖くはないのかと思ってしまう。

 そして、死神嫌いが決めたことをうらやましいとも思ってしまう。

(それなら、ウチは……)

 何をするべきか、決まった。


「なあ、その人の短剣、ウチが打ってもええか?」

 道長の言葉に3人は驚き時が止まる。

 そして、モルテは唇を緩ませた。

「お前しか打てないのだから打ってもらわなければ困る。それに向は人命がかかっている残りの内に打てるか?」

「やってやる!」

 そう言って道長は早足で炉へと駆けた。

「驚いた。打ちたくないって言うとったのに……」

「死神嫌いの気持ちに打ちたくなったのやろう」

 道長の目に久し振りにやる気があったと道草は目を細めた。

「それよりも、よく私の弟子を話に出させたな」

「打ちたくなる理由ってのも必要と思ってな。そやけども、かなって重たい理由には驚いたが、結果あれだ」

 道長は炉に火を入れてすぐに白神鋼鉄を真剣な眼差しで見つめる。

「安心しはっがな。期日までには完成させる。わしも手伝うからな」

 そう言って道草も立ち上がると炉へと歩き出した。

「……まったく」

 モルテは道草にしてやられたと悪態をつくが、霊剣用の短剣を打ってもらえることに表情は嬉しそうだ。


「トコで、鍛冶職人の心って何?」

 そこにふみが疑問をぶつけた。

「向上心」

 それにモルテは一言述べた。

「職人だけではない。1つのことを極める者はより良い物をと励む。だが、それだけではないと久しく忘れていた」

 理由があってこそとモルテは思い出すのであった。

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