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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
13章 桜花死神連続変死事件
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此岸人

 仕事と言ってモルテは戸を開けるとすっかり日が落ちた外へと躊躇いなく出る。

「道草はん、仕事ってのは分かるけどこの気配は……」

 モルテが言った仕事の意味は理解出来たが未だに感じられる気配にふみが戸惑いながら道草に尋ねる。

 そんなふみに道草はまるでいつも通りという様子で言った。

「外出てみれば分かる。何ならモルテの手伝いをしてくれ。こら死神の特権そやしな」

 そう言って湯飲みのお茶を啜る。

「外、行ってきます」

 ふみは特に考えることもなく立ち上がると道草に一言声をかけてから外へと出た。


  ◆


 死神の力を目に纏わせることで暗闇の山の中を歩き、モルテに追い付く。

「来たか」

 ふみが近づいて来ることを感じ取っていたモルテはその場で待っており、振り返った。

「モルテはん、この気配はやっぱり……」

生霊(リッチ)だ」

「何でこんなにも?」

 未だに肌に突き刺さる生霊特有の気配。昼間には感じられなかったのに日が落ちたら異常とも思える数の気配にふみ顔が青ざめる。

 それでもモルテは気配が強い場所へと歩き始めた。

「長い歴史の中でこの国は何度も戦を行っている。この一葉山も昔は戦場だったのだ」

 昔、一葉山は都攻めの為に大軍があえて一葉山を抜けようとし、それに気が付いた帝軍とやり合ったことで多くの死者が出ている。

「こうした人間が寄らない、立ち入らない場所で死神に気づかれなければ生霊や不死者(アンデッド)となり、今も刈られずにいる」

「そないな場所があるん?」

「あるからこの気配の数だ」

 どんどん強くなる気配にふみの表情がどんどん優れなくなる。

「屍になった数だけおるってことか。ほんでもこの数は異常。むしろ、よく一葉山を降りてこなかったと思える」

 所々から感じ取れる気配の数を合わせれば十桁。そして、戦場であった話を考慮すれば今感じ取っている倍が一葉山にいることとなる。

「だからこそ道草と道長がこの一葉山にいる理由だ」

「どういうこと?」

「2人は此岸(しがん)人だ」

「此岸人?」

 聞いたことのない言葉にふみが首を傾ける。

「墓守は知っているな?」

「墓を守る死神のことでしょ?」

「ああ。墓守は数を減らし滞在する死神か流がその役割を引き継いでいるが、此岸人はそうはいかない。人里離れた場所で生霊や不死者が今も刈り取れていない場所で常に居続け刈り続けなければならない。放置してしまうと喰われ、強い力の存在が災害を起こすからだ」

 それが此岸人の役目であると説明する。

「それがあの二人、道草はんは体が動かないから道長はん一人でやっとることどすやろ?でも、少なくない?」

「此岸人自体も墓守と同じで数が少ない。それに、此岸人は人里離れているから存在していることを多くの死神が知らない。ふみも知らなかっただろう」

 初めて此岸人という死神がいることを聞かされたふみは静かに頷いた。

「でも、どうして此岸人は屍があるって分かるん?ずなんぼ人里から離れていてもおらんってこともあるはず」

「そうだな。此岸人は昔の口伝や記録から生霊と不死者が多い場所を見つけるとそこに居続けるが、殆どはそういったことが起きた直後にいるものだ」

「……それもそうか」

 意外にも深く考えなくてもいいことにふみは納得する。



 そんな話をし続けていると、モルテが足を止め、ふみも釣られて足を止めたが、表情は青くなく、既に警戒していた。

 そして、

「来るぞ」

 モルテが言うなり、暗闇から数え切れない程の木の枝が襲ってきた。

 その多さにモルテとふみはそれぞれ避けた。

「多いな!」

 ふみは両手に鎌、柄を鎖で繋がれた鎖鎌で襲ってくる木の枝を切り落とす。

 だが、数が多いだけではなく、枝から新たな枝が伸びて成長力していく為に、生霊がいるであろう前へ進んでも次から次へと襲ってくる為に前進と後退を繰り返す。

「きりがない」

「枝は無視しろ!」

 ふみが苦戦になり始めたところにモルテが叫んだ。

「木というのはな、幹を切り落とせばいいのだ」

 そう言うなり、先程まで回避していたモルテは一瞬にして鎌を出現させると前方へ一線、斬撃を飛ばした。

 長後、攻撃を仕掛けていた枝が成長を止めただけでなくその場で停止する。

「……まったく」

 この様子に悪態をついたモルテは地面へおもいっきり足を落とした。

 瞬間、周りの木々があらぬ方向へと倒れ始めた。

「なっ……!?」

 モルテご斬撃を飛ばしても倒れなかったのは綺麗に斬りすぎた為に僅かなズレがなかったから。それが思いっきり足で地面を叩いたことでようやく倒れたのだ。


 しかし、前方の木々が倒されたというのに1本だけ倒れていない木があった。それも、後ろにある木々が倒れているのにその木がだけである。

「あれか」

 不自然に立つ木が生霊であると見抜いたモルテ。

 瞬間、切られた木々の幹から新たな木が生え、ふたたびモルテとふみへ襲いかかってきた。

「この!」

 突然のことにふみは鎖鎌を振るい襲いかかってきた木の枝、さらには根も切り落とす。

 だが、

「愚かだな」

 既に存在がバレているのに無駄な抵抗であるとモルテは何の予備動作もなくあっという間に生霊へと近づいた。

「……!?」

 それは当然ふみをも驚愕させた。

 領域を使って移動した気配はなかった。体一つであっという間に近づいてしまったのだ。その理由が分からないまま。

「貴様の存在、刈らせてもらう!」

 モルテは鎌を木の幹深くへ突き刺すと抵抗などない様子で切り落とした。

 そして、今度こそ木々からの攻撃は止み、枝や根が異様な形で停止した。

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