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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
13章 桜花死神連続変死事件
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イエの促し

 その日の夜。

「口に合ったか?」

「はい。美味しかったどす」

「そうか」

 豆庵堂の奥、藤光家の居間では保彦がイエと忠信と幸の2人の子供と夕飯を食べ終えたところであった。

 ちなみに、忠信と幸は豆庵堂の夜の営業の為に夕飯は早めに食べてしまっている。

「ばあちゃん、ウチが片付けるから」

「あたしも!」

「そやの。おおきにね。ばあちゃんはこの人と話しがあるから、片付けたらもう寝てええよ」

「分かった!」


 食べ終わった食器を自ら進んで片付けに入り、洗い場へ向かった2人の子供を見送ると、イエは保彦をじっと見た。

「傷の具合はどう?」

「塞がっとるから問題ない」

 昼前に大急ぎで幸が港から天眷者を呼び寄せ悪魔によって付けられた傷は痕も残らないほど綺麗に塞がってしまっていた。

 それでも病み上がりと傷が塞がるまで血が流れ出ていたことで安静も兼ねて今日一日は藤光家のお世話になることとなっていた。

「けれどもまだ病み上がり。もうしばらくはここにいな。その意味も分かるだろ?」

 イエの意地悪に試すような表情に保彦は唇を噛んだ。

「ウチが勝手に動かないようにする為だろ?」

「分かっとるのならええ。それじゃ、そうなったわけは?」

「ウチが勝手に悪魔を退治しようとして返り討ちに合っただけでなく、孝之助を死なせたからだ」

「そう。どなたかが勝手に動いて死ぬことを誰も望んでおらん。そらあんたも分かっとるはずや。けれども、あんたは破ってしもた。するなと言われたことをしたのそやし、どなたかの目が届く所に留まらせるのは当たり前のこと。これの理解はええかい?」

 イエの言葉に保彦は理解出来ても頷くことが出来なかった。

 起きてしまった出来事をこの場で振り替えされている苦しさが心を締め付けている。

「祐玄とあんたの関係は知ってる。そやけども、そやしこそ落ち着いて物事見なければならなかった。焦りは禁物と言われとるだろ?」

「焦っとったのか?」

「落ち着きがなかったのは確かだな。忠信が怒鳴ったから今は大分あれそやけども」

 引退した死神と言えど豆庵堂に集まって話す内容や様子を見ているのだと思う。

「そやしこそ、忠信はあんたに祐玄の死をおせるか悩んや。あんたのことそやし勝手に動くのが分かっとった」

「つまり、ウチは……」

「勝手に動かないように目を光らせとったのだよ。まあ、あの異国の死神が来たのを気に孝之助が役目外れてあんたの話しに乗ったのは予想外やったけど」

 けれど、いずれ孝之助も保彦と同じになっており、他の死神も孝之助には目を光らせていたとイエは告白する。

「そやけども、これで分かったはずだよ。勝手に動くのは元より、なんも知れへん内から敵討とうとしたらこうなるって。ほして死んだら己が弱いだの責任って話ではおまへん。あんたと共に過ごした者や死神が悲しむ。そういう考えは一人になった時にするもの。どなたかがいる内にそないな考えを持ってはいけへんよ」

 イエが言った言葉はモルテが怒鳴りながら言った言葉と似たものであった。


「その様子だと、他の人にも言われた様子だな」

「あの異国の死神のにな」

「そうか。あの死神がな……」

 保彦の様子から前もって言われていたのだと悟ったイエだが、それがモルテと分かり顔をしかめた。

「見ため以上に達観しとると言うか、予想以上の存在だな」

「は?」

 まるで何かを見据えているイエの言葉に保彦は理解出来ない。

「あら常に命の瀬戸際、狭間と狭間にいる様な者や。この件に手を貸してくれることを喜ぶべきか恐れを抱くべきか」

 知っている死神とは違う雰囲気にイエは違和感を感じていた。

 あれが大陸の死神特有であるかもしれないということは拭えないが、それでもそこら辺の死神よりも場馴れし過ぎていた。

「あの死神はあたし達と一線超えとる。知って損はせんが頼りすぎてはいけへん。十分に心に留めな」

「は、はあ……」

 頼りすぎては自分の為にならないときつく釘を指したイエはパーンと手を叩いた。

「さて、あたしはもう寝る!言うておくけど、寝なかったら明日もここにいてもらうからな!」

「はい!?」

 何で!そうなるんだと保彦が驚愕して言う。

「そりゃそうやろ。あんた、傷で熱出とったって言うのにまるっきし寝なかったのだのも。どんな体しとるんだ?」

 実際に保彦は傷があったと言うのに死神の話しに参加したり朝食を食べたりと、まるで怪我人らしからぬ立ち振舞いであった。

 もっとも、怪我をしていたのに気遣うのを忘れていたのだが。

「そやし寝な!寝なかったら明日もここに居ろ!」

「そやし何で……」

「おやすみ」

「おい!」

 勝手に決めて勝手に寝に行くイエに保彦が盛大に突っ込んだ。

 その様子を何やら騒がしいと幸が覗いていることに気がつかなかった。


  ◆


 ちゃぶ台には空の食器が置かれていた。

「食った。久し振りに食った」

「本当に、老いたわりにはよく食べたな」

「あんたが言いますか?」

 腹を叩く道草に感心するモルテをふみが疑惑の目で言う。

 夕飯は道長が偶然刈ったという猪の肉を使った焼き肉。

 ただし、まだ暑さ残る時期である為にお世辞にも美味しくはない。しかし、調味料はモルテとふみが買ってきた物があったために豊富であり、それを用いての食事となった。

「それにしても、鍛冶って時間がかかるんものね」

 まだ夕飯を食べていない道長は炉を前にして鍛冶を続けていた。

 ふみは早く出来るものと思っていた為に意外そうである。

「出来るのにはそれなってに時間がかかるが、もうちびっとやろう」

 道長の様子を見た道草は完成する時間を見極めた。


 その時、3人は外からの違和感をしっかり感じ取った。

「何?」

 その気配にふみが戸惑う。昼間に外を掃除した時には感じられなかった気配、それも慣れ親しんだものに戸惑う。

「どうやら現れたようだな」

 対して、モルテはそれほど驚くことなく静かに立ち上がると外へ出る戸へと歩む。

「どこ行く?」

 突然のことに追い付けないふみは慌ててモルテに尋ねた。

 そして、モルテは振り返ると何ともない様子で言った。

「死神としての仕事だ」

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