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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
13章 桜花死神連続変死事件
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加工の難しさ

 この場で一品作って欲しいと言うモルテの申し出に道長が戸惑う。

「何でウチが……ウチじゃなくても腕のええ鍛冶職人はいるやろ。それなのに、何で……」

「道長!」

 うじうじとする道長に道草が怒鳴る。

「何弱気なこと言うてる!しかも仕事頼みに来た相手に他を当たれとは何事だ!頼んできたってことはな、この仕事がお前でなければ出来んから来たんだ!それなのによくも恥ずかしもせず!」

「ほんまの事やないか!この人は親父に頼みに来たんだぞ!それをウチが出来る……」

「そやし腕を知る為に一品打てって言うてるんだろ!分かったら打て!後な、仕事したくないだの自信がないってだけで手抜きは許はんからな!」

「……分かった。やればええんだろ!やれば!」

 道草の説教に負けた道長が嫌々に火事場へと向かう。

「すまんな」

「構わんが、相当なものだな」

 モルテとしても道長が鍛冶をしたがらないところまで自信をなくしているとは思っていなかった。


「あの、白神鋼鉄ってそないにややこしいのどすか?」

 道長が鍛冶職人としての自信をなくした原因である白神鋼鉄が職人にとってどの様なものであるのかとふみが問う。

「ややこしいな。さいぜんも言うたが白神鋼鉄は軽く、硬く、熱に強く、錆びない。普通はこの条件で刃物なんか作ると刃こぼれするんだが白神鋼鉄は当てはまれへん。これを刃物にしたら切れ味は抜群。刃物扱う者にとっては理想の鉄と言える。やけど、その優れた性質が職人にとっては扱いにくい鉄となる」

「何となく分かってきました」

 道草の説明に白神鋼鉄が鍛冶職人にとってどれ程難しい鉄であるのかふみは理解していく。

「ええ条件揃ったものほど作りづらいんや。白神鋼鉄を打つに今まで培ってきた技術を最大限にしても足りん。それに、炉も打つための温度が出るようにせなならへん。理想の鉄だがその名を冠する鉄は一筋縄じゃねえ」

 ふみの理解に答え合わせをする様に道草は言う。

「それじゃ、ここにある炉は?」

「昔にモルテが白神鋼鉄を持って来たからそれに合わせて炉を作っとる。火の勢いを間違えなければ他の鉄も打てる」

「そうどすか」

 そこまで聞いてはいないのだがと思いながらふみは相槌を売った。


「炉と言えば懐かしいな。火力が足りないからと秋人と共に炉を作り直したな」

「あらえらいやったからな!まさかあそこまで火が必要になると思わなかったぞ」

 当時を振り返るモルテに道草が恨めしそうに見るがすぐに物思いに浸る。

「やけど、白神鋼鉄を打つのは楽しかったな。そやけども、他に白神鋼鉄打てる奴はおらんのか?」

 道草は当時疑問に思ったことをモルテに打ち明けた。

 どれだけ時間がかかってもいいと言う言葉と職人による意地で聞かないでいたが、一線を退けた今なら聞いても問題はない。

「大陸に数名いるが殆どが高齢になりつつあり、新たに白神鋼鉄を打つ職人と後継者を育てられる者が必要だった」

「白神鋼鉄は大陸は希少と言うことか。そやしわしやったのか」

「秋人から腕のいい鍛冶職人を聞き、道草の腕を見込んで頼んだのだ」

「なるほどな。今そやし言うが、あれ一本打って欲しいって打つのに苦労したしな」

「分かっている。完成後に酒を飲んでいる時に耳にたこが出来るほど聞かされたからな」

 完成した喜びと酒の勢いもあり道草からうんざりするほど聞かされたモルテはその事を振り返り溜め息を付いた。


「それよりも、息子がいるとは知らなかったぞ。道長の年を考えるにあの時に合っていてもおかしくはないはずだが?」

「そりゃそうや。その時はまだ道長が生まれていなかったんそやしな」

「ちょい待って!道長はんって年いくつ?」

「二十二だな」

「同い年!?」

 道長と年が同じであることにふみは驚愕する。

「モルテが来たのが道長が生まれる三年前だ」

「ならば、秋人の訃報を伝えに訪れた時に顔を合わすだろう」

「あの時は向こうの梅田に卸しに行っとったからいなかったんや。それに、伝えてさっさと帰っただろ」

「なるほど。だから知らなかったのか」

 道長の存在を認知していなかった理由に納得するモルテだが、ふみが疑うようにして見つめる。

「モルテはん、年いくつなわけ?」

 モルテをどう見ても同い年にしか見えない。それなのに20年間以上前から道草と知り合いとなると実年齢が40代、もしくはそれ以上に思える。

「言いたくない」

「何で!」

「やめとけ。モルテに年聞いてもおせてくれへんぞ」

 どうやら道草も疑問に思い尋ねたことがあるのだが教えてはもらえなかったようだ。

「やったら、せめて、どうやったら若々しくいられるん?」

「何故そうなる?まるでつららの様だな」

 若さの秘訣はと尋ねたふみだが、その雰囲気が恋に恋するつららと似たような雰囲気をモルテに指摘されて傷付く。


 女の問題はあまり分からないと話に介入する気がなく聞くのも飽きた道草が膝をパンッ、と叩いた。

「さて、道長が打ち終わるまで時間がかかる。滞在するのは決まっとるとして、しばらくどうする?」

「私はしばらく休ませてもらう」

 数日間不眠不休であり、そろそろ肉体的に疲労が溜まっている頃であるから休むつもりでいた。

「あの、何やすることはありますか?」

 ふみは休む必要もない、そもそも道草との放し飼い休憩になり、モルテとは違った意味で暇になった為に鉄を手伝いを申し入れた。

「ん?手伝いか?……なら外掃いてもろてええか?出来る限りでええからな」

「はい」

 返事をしてふみは道長の作業の邪魔にならないように静かに外へ出た。モルテと道草はそれを見届けると、思い出した様に道草が言った。

「そういやモルテ、道長が動けへんからあれを頼んでもええか?」

「そのつもりだ」

 あれが何を意味しているのか知っているモルテは当たり前の様に承諾した。

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