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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
13章 桜花死神連続変死事件
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白神鋼鉄

「4年振りか」

「秋人が死んでからそれだけ経つのか」

「経ったな」

 最後に会った時期を振り返るモルテと道草。

「そこにいるのは秋人の孫娘か?」

「いや。つららと小春は桜花で仕事に追われている。ここにいるのはつららと同じ死神で付いて来たいと言ったから連れて来た」

「一関ふみ言います」

「手野道草だ」

 ふみと道草は自己紹介を終えると、改めてモルテを見る。

「まるっきし変わっておらんな」

「4年で大きく変わることはない。それこそ10年の歳月がかかる」

 年月による変化がモルテには感じられないと道草は思う。

 その間、モルテは道草の様子を目を動かして見た。

 年は離れているが親子であると思っていい。そして、仕事をさせるなと言う言葉が引っ掛かっていた。

「……なるほど」

 道草の様子を見てモルテは理解した。

「老いたな」

 そう言うと道草は踵を返す。

「入れ」

 道草が家の中へと入って行くのに合わせモルテは無言で上がり込む。

「お邪魔します」

 次いで、ふみが道草の息子に軽く頭を下げるとモルテに続き、その後を道草の息子が入り戸を閉めた。


 家の中は薄暗く日を入れる為の戸も閉め切られていたが、道草の息子が大急ぎで開けて明るくなる。

「仕事中という訳でもないようだな」

「この通りな」

 部屋を見渡したモルテに道草が自分の手を見せる。

「いつからしていない」

「半年程前からや。鎚を握れなくなってな。体も言うことを聞かねくなってきとる。年だってのは分かるが情けねえ」

 悪態を付く道草だが、それでも無理して仕事をしていないのは限界を見据えてのことだ。

 職人一筋の者がなかなか出来ることではない。

「せっかく来てくれたってのにこんやのできずつないな。とにかく座ってくれ」

 道草はちゃぶ台の自分がいつも座る場所に座るとモルテとふみに座るように促す。

 言われた通りモルテとふみは適当な場所に座った。

道長(みちなが)、茶」

「あいよ」

 どうやら道草の息子は道長と言う名らしいと思うと、道草が話を切り出した。

「しかし、金床といった道具類に誇りが被っている様子はない。まだ鍛冶をしているということは……」

「道長にやらせとる」

 道草の言葉にモルテはやはりと思う。

 道草が鍛冶をするのが無理であるなら息子で技術を受け継いだ道長しかこの場所で鍛冶を出来る職人はいない。

 一先ず道長 が鍛冶を出来ることに内心で安堵する。

「ほして、お前はんが大陸から来たってことは霊剣用の短見を打って欲しいってことだろ?」

「ああ。使ってもらいたい鉄もある」

 モルテはもって来た鞄をちゃぶ台に置いた。

 そして、鞄の中身を確かめる様に覗いた道草が溜め息を付いた。

「やっぱりこれか……」

「やっぱり?」

 道草の様子に意味がわからないと傍観していたふみが首を傾げる。

「一つ出して見てみろ」

 鉄が入っている鞄を押し付け、何がなんだか分からないふみは言われた通り取り出すと、中から長方形の塊が出てきた。

「これは?」

「これはだな……ああ、道長、お前もそこに座れ。それとここから鉄を取り出せ」

「は、はあ……」

 ちょうどお茶を入れた湯飲みを持って来た道長にも鉄を取り出せと指示する。

 そして、鉄を取り出そうとした道長が鞄の中を覗いた瞬間、驚いた様子で道草を見た。

 その様子に道草は無言で頷き、道長はふみとは違い恐る恐る鞄から取り出すと鉄の塊を両手で持った。


「銀白の塊……これは、白神(しらかみ)鋼鉄!?」

「白神鋼鉄?」

 元々鉄のことは詳しくないふみだがそれでも鉄や銅といった基本は知っている。だが、白神鋼鉄という鉄は聞いたことがないと疑問符を浮かべる。

「白神鋼鉄って言うのはな、軽くて強く錆びない鉄や。しかも、熱にも強く加工もややこしいものや。芳藍にはない鉄そやし知らねくて無理ねえ」

 そう言って道草は溜め息を付いた。

「前も思ったが、他の鉄で作る気はねえのか?」

「言っただろう。弟子にはいいものを持たせたいと。それに、前回と違い今回は時間がない。3日以内に1本打って欲しい」

「急ぎか」

 事情は聞かないことにした道草は白神鋼鉄を見て肩を落とす。

「そやけども、わしは鍛冶どころかこの通り鎚を持つことも出来ない。道長に打たせるしか……」

「無理だ!ウチには無理だ!」

「あのな……」

 全力で拒絶する道長に道草が大きな溜め息を付いた。

「すまんな。道長はちびっと自信なくしてな」

「自信?」

「ああ。前に余った白神鋼鉄を打たせたんだ」

「どうだった?」

「見事に失敗してな。それ以来、何やとわしと実力を測るようになってこの様だ」

 項垂れる道長に成る程と首肯く。


 これは自分にも原因があると感じたモルテは1つの提案をする。

「道草、私は道長の技量を知らない。故に、道長に最初にしたことを頼みたい」

「……あれか」

 モルテの言葉に思い至った道草は即頷いた。

「道長、今すぐに鉄を打ち1つの品を作れ」

 モルテは道草の実力を確認するために申し入れた。

白神鋼鉄は作中オリジナルです。一応モデルはチタンになります。

ちなみに、刃物にすると切れ味抜群です。

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