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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
2章 葬儀屋の仕事
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閑話 道具屋

本日は閑話三本立て。8時、14時、20時の投稿です。

 ある日のこと。

 この日も葬儀屋フネーラではいつも通りの朝食風景であった。

 そんな朝食風景にファズマがふと思い出したようにモルテに言った。

「そう言えば、今日でしたっけ?」

(今日?)

 今日とは一体何なのか。ファズマの言葉にディオスは予定があったかと思い出すが思い浮かばない。

「今日だな」

「今日なの?」

 そんなことをよそにモルテとミクの口から今日、やはり今日と言うが何度思い出そうとしても予定はないはず。

 一体何があるのか分からないディオスはモルテ達に尋ねた。

「すみません。今日って何か予定があるんですか?」

「そうか、ディオスは知らないんだったな」

 ディオスの質問にファズマが思い出したように言うとその訳を話始めた。

「今日は道具屋が来るんだ」

「道具屋?」

 葬儀屋フネーラに道具屋が一体どの様な用事でここにくるのか。

「でも、予定に書いてなかったけど?」

「そりゃ、店の予定じゃないからな」

 どうゆう意味か分からず目を二度ほど瞬いた。

「その道具屋ってのはな、一ヶ月に一度くらいにここに日用雑貨を届けに来てくれるんだ」

「日用雑貨?それが今日、と?」

「そうだ」

 日用雑貨と聞いてディオスは葬儀屋フネーラにどの様な日用雑貨があったのか思い浮かべる。……思い浮かべようとしてそもそもどれが日用雑貨なのか分からないということに気づく。

 屋敷暮らしの時はあるもの全てを自由に使えたし、使用人が屋敷のことを全て行っていたために考えたことも気にしたこともない。屋敷を離れて新住宅街に越したてからは母親であるシンシアが全て身の回りのことをしていたために日用雑貨というものを何も知らない。

「ファズマ、いつも通りに頼む」

「はい」

 朝食を食べ終わったモルテの言葉に同じように朝食を食べ終わったファズマが片づけをしながら返事をした。

「あの、いつも通りって?」

 ディオスは思考をやめて話に置いていかれないようにと必死になって尋ねた。

「道具屋に払う金と茶請けをここに置いておくんだ」

「茶請け?」

 道具屋に何故茶請けと首を傾げる。それに、リビングに置くとはどうゆうことか。

「結構な量だからな。休憩に置いているんだ」

 ディオスに説明を終えたファズマにミクが目を輝かせて尋ねた。

「ねえねえ、今日のおやつは何?」

「そうだな……アマレッティにするか?」

「やったー!」

 ファズマが上げた焼き菓子にミクが歓喜の声を上げる。

「それでは、今日も頼むぞ」

 モルテの言葉に今日も葬儀屋フネーラの一日が始まったのであった。



 誰も来ない店内にディオスとミクは店番をしていた。

「暇だね」

「いつもだよ」

 暇と唱えるディオスにミクはペンを持って勉強をしていた。

 ディオスはミクがペンを走らせている紙を覗き込んだ。よく見ると文字は書けているようだ。そう思ってディオスはあることを尋ねた。

「そう言えばミクは学校に行かないの?」

「行きたくないから」

 ディオスの質問に一度ペンを止めたミクだがすぐにペンを走らせた。

(行きたくない?)

 ミクの言葉を聞いてディオスは考え込もうとした時、店の奥からガタンと音がした。

「な、何!?」

 現在、葬儀屋フネーラにはディオスとミクしたいないはず。店の奥から音がするとは考えられない。

 ディオスは意を決して確認をしようと決めた。

「ミクはここにいて」

「ん?」

 ディオスはそう言うと店内の奥へと向かった。一方でミクはディオスが一体何を言っているのか分からず頭の上にはてなマークを浮かべた。


 ディオスは恐る恐る廊下を歩いていた。出来るだけ音を立てないように。あまり気にしてはいなかったが床がキシキシと鳴る。それに気づいて慎重に歩くがなかなか前に進めない。

 やっとのことで一番近いリビングへと着くと中を覗き込み、

「おお、今回は焼き菓子か!」

 目が丸くなった。

「ん?」

 何かの視線を感じたリビングにいた少し白髪が混じった中年の男はその視線の先に振り向いた。その向いた先にはリビングを覗き込みこちらを見ている見慣れない少年(ディオス)が。

 ディオスと中年男は目を会わせてしまい硬直。

(この人は一体……)

 ディオスは目の前の中年男が何者かと考え始めた。

(それよりも、どこから入って来たんだ?)

 そして、男が何故リビングにいるのか疑問に思った。

 葬儀屋フネーラには裏口はない。一階の窓は店内にしかなく、扉も店側にしかない。しかも、店内にはミクと二人して店番をしていて誰も訪れてはいない。普通では入ることも不可能な状況にディオスは結論を着けた。

「不審者!」

「誰だお前は!」

 二人は同時に指を指して叫んだ。


 しばらくして……

「えっと、つまり、あなたが道具屋さんですか?」

「なんだ……お前は新しく住み込んだ葬儀屋フネーラの従業員っなのか?」

 落ち着いた二人はリビングの椅子に座るとテーブルに置かれたお茶とお菓子を挟んで会話をしていた。

「はい。ディオスと言います」

「そうか、ディオスか。俺にも名前があるんだがここじゃ葬儀屋フネーラじゃ道具屋って呼ばれてる。だから道具屋って呼んでくれ」

 互いに自己紹介を交わすとディオスは疑問に思っていることを口にした。

「それじゃ道具屋さん、道具屋さんはどうやって中に入ったんですか?」

「ああ、上から入って来たんだ」

「え……」

 道具屋からの予想外の言葉にディオスは絶句した。

 確かに二階にも窓はあるがそれは店の窓と同じウーヴァ通り側にある。それに、普通は二階から入ることも出来ない。

 そんな思想をしているディオスの表情がおかしかったからか道具屋は大笑いした。

「ははははは!なぁ~んだ、モルテは何も言っていないんだな」

 その言葉にディオスは思想をやめて今度は気の抜けた表情を浮かべた。

「なるほど、なるほど」

 道具屋は腕を組むと何かを納得してしまった。

「あ、あの……」

 訳の分からないディオスは道具屋が一体何に納得したのか尋ねようとして

「ああ、モルテのドッキリだ」

 と先に納得したことを言われた。

「ドッキリって……」

「よくやっているだろ?これはその延長線だ」

 例の予想外すぎる行動の延長線と言われディオスは頭を抱えた。

「そうなると、手持ちがないな……」

 道具屋は椅子に深く座り込むと悩み始めた。

「まあ、連絡手段ってものがないから今度でいいとして……」

「あの、一体何を言って……」

「そりゃ、新しく入って来た従業員へのプレゼントを考えてんだ」

 プレゼントと聞いてディオスは驚いた。

「いえ、そんなの受けとれ……」

「だろうな。ここに洗剤や石鹸にトイレットペーパーなんか大量に持ってきてんだ。遠慮されるかやっぱり……あ、今度は消臭剤でも持ってくるか?」

「え?」

 道具屋の言葉にディオスは違う意味で驚いた。

「トイレットペーパーって、道具屋さんが持って来てるんですか!?」

 そう、トイレットペーパーだ。

 葬儀屋フネーラに住むようになって驚いたものの一つにトイレがある。そして、トイレットペーパーはそのトイレになくてはならない必需品である。

「そうだな。俺が持ってくるのは日常に必要な品だけだからな。そういや、モルテがここを改装するからって言ったついでにトイレとシャワーを取り付けて、キッチンを新しくしたついでに冷蔵庫も置いたんだったな」

「と、トイレとシャワーも!?」

 ここにきてディオスの気持ちは高ぶっていた。

 道具だけでもどこにもないのに設備も備え付けているとは。道具屋は一体何者なのだろうか。

 すると、道具屋はまた笑いだした。

「ははははは!その顔、やっぱりこっちじゃすごいんだな!俺らの所はこれが普通の設備だからなんとも思わないんだが」

 なんと、道具屋の所では普通の設備と言われまた驚くディオス。

「まあ、モルテには色々と世話になったからな。これくらいはしているんだよ」

 自身がモルテに感謝していることをディオスに告げると道具屋はテーブルに置かれている持ち帰り用のお菓子と料金が入っている袋を手荷物と立ち上がった。

「さてと、そろそろ帰るとするか」

「もうですか?」

 道具屋の言葉にディオスはもう少し話していたいなと思っていた。

「なに、そろそろ戻らねぇと息子や働いている従業員がぼやくからな。それに、ここの菓子がご馳走のようなもんでな」

「そうですか」

 道具屋の言葉にディオスは仕方ないと言い聞かせる。

「おうよ。今度来るときはこっちで驚くようなものを持ってくるからな」

 そう言うと道具屋はもらうものをもらってリビングから出ていった。

 ディオスは苦笑いをしながら見送っていたが、ふとあることに気がついた。

「そう言えば、帰りはどうするんだ?」

 そう、道具屋は二階から入ったと言ってた。ならば帰りは一階から出るはず。

 ディオスは急いで店内へと向かうと道具屋と話すからと店番をお願いしていたミクに尋ねた。

「道具屋さんこっちに来た?」

「来てないよ?」

 ディオスの言葉にミクは首を横に振った。

 おかしいと思ったディオスは一応二階も確かめようと向かったがそこにも道具屋の姿はない。

「あれ?」

 道具屋の姿が消えたのだ。

「一体どこに……」

 その場を見回すディオスの目にあるものが映った。

 二階に存在する不思議なもの。開かずの扉である。

「……まさか、ね」

 まさかこの開かずの扉が開いたなんて考えられないとディオスは自分に言い聞かせると店番へと戻った。

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