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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
13章 桜花死神連続変死事件
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一葉山

 朝食後、休みを取ることもなくモルテとふみは一通りの準備を終えると桜花の郊外へと向かっていた。

「ほして、どこに行こうとしてるん?」

「一葉山だ」

「一葉山って、あれ?」

 行き先を告げたモルテにふみが怪訝そうに目的地を指差す。

 指差した先には一つの山、緑が生い茂り桜花の都からでも見えていた。

「そうだがどうした?」

「何でそないな場所に?」

 おかしくはないかとふみが怪訝に思う。


 一葉山は鉱山ではない。木々が生い茂り季節に応じて景観が変わる、とても鉱石が取れそうな山ではない。

 春になると桜花の名前の由来となった桜が花開き、夏には緑が、秋には紅葉で赤々と広がり、冬には黒とも茶とも言える枝木が露出し、そこに少しの雪化粧が施されると寒々しさを感じる。

 特に群生している桜が一葉と言う桜であることから山の名前を一葉山と名付けられている。

 そんな山ならどちらかといえば陶芸品目的の土が取れる。元に桜花の郊外では陶芸店や工房が幾つも建っている。

 一葉山が鉱山でないことを知るだけではなく鉱石が取れるとも聞いたことのないふみの疑問は当然のものだ。


 そんなふみの疑問にモルテは受け入れその理由を言う。

「訳ありなのだよ。まあ、人里離れた場所に住む者は訳ありか変り者と決まっている。だが、それが職人ならその道において腕がいいのは確かだ」

 だから不思議ではないと言う。

「でも、そないな場所で何で鍛冶?鍛冶なら人がいる場所か鉄取れる場所にいるはず」

 鉄を扱う場所を決めるのなら限られているはずなのに何故そこではないのか、おかしいことではないかと攻める。

「そうだな。鍛冶は鉄を扱う。鉄から出来た物を求め扱うのは人間だ。鉱山でもない山にいるのはおかしいだろう」

「そないなら何で?」

「知るか。秋人も訳ありとしか知らなかったのだからな」

「つららのお爺はんがどすか?」

 意外な人物が出てきたことにふみが驚く。

「秋人とこれから尋ねる鍛冶職人は知人だ。どういった経緯で知り合ったかはこの際省く。私も一度秋人に着いて行ったきりだから会うのは久し振りだ。生きているかどうか」

 まるで長年会っていないような口振りにふみの中で不安が過る。

「鉄取れへんのにどうやって鍛冶を?」

「依頼する者が鉄を持っていくのだよ」

「鉄をどすか!?」

 ふみは慌てて立ちふさがるようにしてモルテの前に立った。

「待って!あたし達鉄持ってへんのにどうやって作ってもらうの!?」

「ホメロンに手配させている。後は向こうで合流するだけだ」

 だから心配はいらないとふみの脇を抜けて先を歩く。

 そして、聞かされたふみは呆然とモルテの背を見る。

「ほんまに何なのあの馬?」

 外見は普通の白馬のはずなのに空を飛ぶ、何故かモルテと意思疏通が出来すぎる位に出来ている。そして、何故一頭でお使いの様なことも出来るのかと突っ込みしたいことが溢れる。

(けれど、これで一葉山で鍛冶出来る理由は分かったわね)

 自分で買って仕入れをすればいいのにわざわざ依頼主が鉄を持って行くのにはどうかと突っ込みたい所であるが、作ってもらうことには少しの不安はあるが問題ないと言い聞かせてモルテの後を追いかけ、直後にモルテが足を止めた。

「あいにく芳藍の金を持ってきていなくてな。すまないが立て替えてはくれないか?土産に酒を買う必要がある」

「そらイヤや!」

 付いて行くだけなのに何故土産代を払わなければならないのかとふみは全力で拒絶した。


  ◆


 結局、酒がどうしても必要だからということで後で返すからと言われてふみが渋々と払うこととなった。

 ただ、酒が入っている徳利(とっくり)を数本に加え、その後に野菜や魚の干物が数種類と味噌や醤油といった調味料まで買い込んだのはふみの誤算であった。

「何でこれも?」

「行けば分かる」

 ふみの愚痴に詳しいことを言わず一葉山へと向かう。

 そして、所々で休憩を入れて歩くこと二時間程。2人は一葉山の山奥に入っていた。

「これだけ奥に入るのは初めて」

 道なき道を進むふみは両手に持った大荷物に苦戦をしながらもモルテの後を付いて歩く。

 とは言え、ふみとしては一葉山の奥に入るどころか足を踏み込むのも初めてだったりする。

 いつもは桜花から眺めて景観を楽しむだけだからこうして直接幾つもの木々と草花を見るのが初めてとなる。


 それからも一葉山の奥を歩くこと一時間。

「見えたぞ」

 木々の間を死神の目で見れば、先が広がっているのが分かった。

「あそこ?」

 ふみの言葉に頷き、先導するようにしてモルテが先に行く。

 抜け出た先には一定の広さが均され、そこには畑と水を溜める為の樽、屋根に覆われ煙が上がっている炉と対照的に煙が上がっていない平屋があった。

「いかにも隠居って感じ」

 職人を思わせる炉があるが、どうしても人里離れ山奥に籠った様にしか思えない。実際はその通りなのだと思いながら。

「変わりはないようだな」

 モルテが確認するように周囲を見ていると、ホメロンがどこからともなく上空から現れて着地した。

「ホメロンか。例の物は?」

 駆け寄るモルテにホメロンは鞍がある方を向けた。

 その行動は褒め称えが慣れている様に見えるとふみをが思っていると、そこに備え付けられていた鞄の中身を確認してから取り外していた。

「それが?」

「そうだ。後は作ってもらうだけ。ホメロンは休んでいろ」

 準備は整ったとモルテは職人の家の戸を叩いた。

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