一言
遠方の通信から聞こえたただいまと言う声はマオクラフであるとモルテは思った。
「どうやら戻って来たみたいだな」
飛び出して行ったディオスを連れ戻したのだと思ったモルテは桜花の死神達を見た。
「モルテ、どうかしたん?」
「何も」
視線が動いていることをつららに気がつかれ、モルテは慌てて視線を反らした。
「モルテ、何やディオス君に言いたいことがあるんではおまへんん?」
つららにそう言われモルテは口を閉ざした。
「やっぱり。おやっはん、もうちびっとモルテの都合に付き合ってもええかな?」
「構へん。向こうもこっちと似たような状況そやしな」
「……世話をかける」
桜花の死神が気を使い遠方の通信に力を込めている為に余計なことは言えないと思っていたモルテだが、忠信の言葉に感謝をしてレナードに伝える。
「レナード、ディオスが戻って来たのなら変わってくれ。伝えたいことがある」
『それは構わないが、相当話しているぞ。力の消費も相当なはずだ』
「こちらで交互で送っている。まだ気づかれてもいないから問題ない」
『分かった。少し待ってくれ』
そう言って少し待つと遠方の通信から正念の声が聞こえてきた。
『店長……』
その声に桜花の死神は初めて話しの論点となっていたディオスの声を聞いた。
まだ若い少年の様に思え、何処か声に覇気がないように聞こえるのは今まで聞かされていた話から推測出来る。
そんな声を聞かされたモルテはディオスがどんな状態であるのか瞬時に理解した。
伊達にディオスが住み込みで働くようになってから様子が分からないわけでもない。
だからこそ、モルテは厳しくきつめに言うことにした。
「1つ」
『えっ?』
呆気ない声が聞こえてきたが構わず言う。
「迷惑をかけないようにと思っているが余計に迷惑をかけてどうする」
ディオスを庇おうとしなければ比喩も慰めもしない指摘に桜花の死神が凍りつく。
「第一、ディオスはまだ成人していない子供なのだから我儘をいくらでも言ってもいいのだ。それなのに他の者にも関係あるものを1人で背負い込み解決しようと考えてどうする。それを自分だけの力で出来ると思っているのか?不可能だろ!」
家庭の事情と性格を考えると出来ないことでも無理してやることが染み付いているディオスには今の指摘は相当痛いものである。
しかし、今回はその痛い部分を指摘しなければならないと遠慮しない。
「2つ」
『あ、あの……』
「まだあるのだから黙って聞け」
これで終わりと思っていたディオスが戸惑ったように言ったが黙らせて続きを言う。
「ディオスは自分の存在価値を低く見すぎている。他人を思うことは間違いではない。身を投げ出してまでも助けたいと思うことも間違いではない。だが、それが当たり前の様に命までも捨てることは間違っている。世間や常識が言うことが全て正しいものでもない。命は軽いものではないと理解しているのに自分の命を軽視しすぎる。もっと己を見ろ」
ディオスの脆さは自己犠牲に突っ走りかねない行動力だ。それが世間で評価されるものであっても犠牲となってしまてば関係者は恨みや哀れみに悲観となってしまう。
正しいことであると思われる武勇は一瞬にして信頼を崩してしまうのだ。
「3つ、いい加減に自分を騙し演じるのはやめろ」
その言葉に桜花の死神だけでなくディオスからも息を飲む様な声が聞こえた。
「バレていないと思っていた様だが私には分かっていたぞ。慣れるにしては早すぎる。ならば何故か。隠し通したかったのだろう?」
ディオスが店に初めて訪れた時に遺体を見せた時は遺体に慣れていないものと思っていたのだが、次に運び込まれた遺体、厳密には遺体ではなくただ気絶していたのを遺体として持ち込まれたものなのだが、反応が鈍く順応していた。
これは少しおかしいと思い遺体を引き取りに行く際に積極的に仕事で慣らさせる為と称して連れて行っき、死に対して感覚が鈍いことを理解した。
そのことを直接口には出さず遠回しに言ったが、ディオスはすぐに理解してかなにも言ってこない。
「それでもいいのだよ。誰しも隠したいこともある。だが、それを抜きにしてもそろそろ踏み出したらどうだ?私やファズマ、皆に自分の都合に付き合ってもらう、頼るということを。自分の殻を抜け出すにはちょうどいい頃合いだ」
殻に閉じ籠り誰も寄せ付けないでいるのは終わりであると告げる。
「ディオスのことだ。悪魔を、実父を止めたいと思っているのだろ?なら頼め。自分も参加したい、止めたいと。」
レナードから霊剣の頼みが来ているし必要であるから問題なく通ることを知るモルテは促す。
「それで許否されたらその時は諦めろ。だが、通ったのなら勝つ気でいけ。これはこれから先にも通じることだ。自分の意見が通らないから1人でするのではない。頼ることと通すこととは違うからな」
1人で行うことと他人を巻き込んで行うことでは影響は違うである。
「しかし、やり遂げると決めた以上は何があっても後悔はするな。自分が決めた覚悟を裏切らず、逆境やあらゆるもの全てに打ち勝て!」




