モルテの頼み
ディオスを弟子にする考えを示したモルテ。その言葉にレナードの唖然としたような声が響く。
『モルテ、俺が言うのも何だが、さっき言ったことと矛盾していないか?』
弟子にして使うなと言ったのに弟子にする意向であることにそれは何だと言う。
「矛盾はしていない。私はディオスに頼み込んで囮にする為だけに弟子にすることに反対なのだ。ディオスのことだから聞けばやると言うはずだが、その状態で関わらせることに反対なのだ。それなのにディオスの意を聞かず弟子にすることを前提に霊剣を渡すことも間違っている」
ディオスの意向を無視し話しを進めることが間違いであるとモルテは言う。
「霊剣は護身用や一時的に死神の弟子を証明する物ではない。師である死神が弟子に値すると渡す物。霊剣は常に実在する死神の武器と言っていい。そんなものを力がない者が使えば容易に人間を殺せると危険性は分かっているはずだ。急ぎすぎるぞ」
アシュミストで起きた事件を早急に解決したいが為に手段を選ばなさすぎていると咎める。
「私とてそちらで起きていることを解決するにはディオスが必要であることは分かっている。だが、お人好しで何でも抱え込んで頼ろうとしないままでは前回の二の舞だ。それだけは避けてもらいたい」
ディオスの性格上今回の事はディオスと深く結び付いており完全に関わりを断つことは出来ない。
だが、このままではディオスにとっても取り返しのつかないことになることはモルテの目に見えていたことで止める。
ディオスの短所を的確に言ったことでつららも釣られるように頷いた。一ヶ月ほどだけではあるがディオスの脆さを知っているつららも関わらせるべきではないと思っている。
『早急過ぎたか?』
「ああ。それに、このままではそちらも人手不足だ。どうしても数は必要になる」
『それは分かっている』
悪魔を引き寄せることとユリシアの救出を同時に行うにはどうしても数と時間が必要になる。死神とディオスだけでは不可能であることも指摘する。
「一先ず霊剣は作っておく。もしもディオスが弟子になる意向を示したら渡してほしい。それ以外で渡すことはけしてするな」
最後に釘を刺してレナードの頼みは受け入れたと言う。
『……分かった。これについて俺からは言わないことにする。それで、モルテの頼みは何だ?』
無理強いはしないと約束したレナードはモルテに尋ねた。
そもそも連絡をしてきたのはモルテであり、要求を聞く前にレナードが頼み事をしたのだ。ここで忘れて聞かなかったでは危険を冒してまで連絡しているモルテに失礼である。
「レナードに取り出して欲しいものがある」
『何だそれは?』
「箱だ」
『箱?』
箱を取り出してほしいと言うモルテの頼みに怪訝に思うレナードの声が響く。
「ああ。私の部屋のベッドの下にあるのだがそれがどうしても必要でな」
『それならファズマに頼めばいいはずだ』
「言っただろ。取り出してほしいと」
モルテが強調して言ったことでレナードは悟った。
『何故俺だ?』
「領域を使い空間を歪め箱を床の中に埋め込んでいるからだ」
あまりにも呆気なく言いきったモルテに桜花の死神が絶句する。
『そこまでする理由は?』
「物が物でな。他の者に触れてほしくないから隠していたのだ」
『隠したって言うが何故ベッドの下にしたんだ?それも領域を使うのなら隠す必要はないだろ』
「カモフラージュだ。ちょうどいい場所がなくてな」
どうやらベッドは箱を隠すにはいいばしょであったようだ。
「それに、他の者に触れてほしくないから色々と罠も仕掛けていいるから容易に触れることは出来ない」
『やりすぎだろ!」
そこまでするものを何故個人が持っているのかとレナードが突っ込む。
『それよりもよくファズマ達に気づかれなかったな』
「滅多に部屋に入らないからな。それに、片付け程度なら黙認するようにしている」
『何なんだそれは……』
どうしてそんな識別機能があるのかとぼやくレナードだが、すぐに害あって触れれば牙を向くのだと考え付く。
「だが、箱を取り出せるようになったとしても直接触れることも出来ない。箱も死神道具で持つ為には鍵がいる」
『何でそんな面倒な……それで、その鍵は?』
「私が持っている。それに箱を取り出すのにも必要になる。仕掛けたのが私だから罠が動かずすぐに出来るのだが……」
『手が離せないから俺がやれ、か』
「そうだ。仕組みが仕組みであるから全てを解除しても構わないが面倒だ。だが、出来るのはレナードだけ。受けてくれるのなら罠の種類と解除方、そして鍵を後程送る」
面倒であるこ口添えしたモルテの言葉を聞いてかレナードが深く息を吐くのが聞こえた。
『……分かった。引き受けよう』
どうやらやるしかないとレナードが請け負うと、遠方の通信からただいま、と言う声が聞こえてきた。




