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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
13章 桜花死神連続変死事件
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2種類の剣

 その後も死神道具を使った戦いについて話し合われたが、いくら道具を選んだとしても不慣れで実戦では期待出来ない。そして、道具である為に壊れる可能性があることで最初に話された通りの結果となった。

「いっそのこと力使うか?」

 やけくそになった佐助の言葉に栄一郎が速攻で突っ込んだ。

「阿呆か!使ったら苦戦するさかいに他のこと考えとるんだろ」

「苦戦だけだろ?そないなら作戦立てれば……」

「あのな、ウチと孝之介も作戦立てて戦ってこの様だ」

「そうだな。あの四人も作戦立とった上で戦って返り討ちにされたんや。力使うのはさかしま効果だ」

「あぁ~!分かった分かった」

 桜花の死神男衆がそれはないと一致したことで佐助は折れた。

「でも、佐助が言うたことはちびっとだけ正しいよ。悪魔であれ生霊(リッチ)であれ、力使わないと刈れへん」

 悪魔を刈る上で最大の問題、それを今まで目を反らして来たことを佐助の言葉を気にしてふみが口にしたことで雰囲気が更に重くなる。

「道具では刈れへんことは分かっとるし、かといって力を使ったら……」

「その瞬間、返り討ちにされるかもってことどすどすやろ?」

 ふみの言葉も正しいがそれすら難しいとつららと幸が険しい顔付きで言う。


 手段がなく袋小路に入りかけた時、モルテが二本の指を立てた。

「2つ方法がある」

 突破口と思えるモルテの言葉に全員が食い付いた。

「1つは悪魔が力を感じられる範囲外からの攻撃。つららから連絡を受けた時に悪魔が感じ取ってもおかしくはなかったのだが、反撃してこなかったことを考えると探知範囲はそれほど広くない」

 連絡を受けた時の状況を考えるとあり得たことがなかったと言う。

「そないなら力使っても問題ないな」

「ほして、どれくらいに?」

「合流した時の位置と向きからすると、最低でも2つ向こうの火の見櫓までだ」

 そこに悪魔をぶつけたとまで言わないモルテであったが、忠信が驚愕の表情を浮かべていた。

「待て!二つ向こうの火の見櫓って……」

 悪魔が感知出来る最低限の距離に桜花の死神が絶句する。

「遠くないか?」

「遠すぎるだろ!」

「通りで付け紐に亀裂入っとったわけか……」

 栄一郎、佐助、保彦が合流地点からモルテが言った火の見櫓までの距離を思い浮かべて何処か目が遠くなる。

 すぐに遠いと分かる辺り、桜花の出身者ならではである。

「モルテ、あたし達の中にそれ以上遠くから攻撃当てられる人おらんよ。それよりも攻撃出来ないから」

「そうか」

 遠回しに申し訳ないと言うつららの言葉にモルテはあっさり受け入れた。

「そやけども、そないな遠くから攻撃出来る人がいるん?」

「数は少ないが可能な死神は知っている。桜花にもいると思ったのだが……」

雷平(らいへい)はんならいけたかもしれへんけど……」

「おらん雷平を思っても仕方ないことだぞふみ」

 どうやら雷平と言う死神なら可能だったかもしれないが、いないということは悪魔に殺されたのだと悟る。

「残念どすけど、出来る死神がおらんからそら無理どす」

 モルテの1つ目の方法は無理であると幸が断りを言った。


 重くなった空気を祓いのように気を取り直したつららが尋ねる。

「ほして、もう一つは?」

「剣だ」

「剣って、霊剣か?」

 もう1つの手段に誰かが納得するようにあぁ、と声を出す。

「霊剣は道具と違い刈ることを前提としている。それを可能にする為に師が力を込めてはいるが悪魔が複写(コピー)を使うことはない。複写(コピー)を使うには当人がおり、直接見なければならないのだから条件は満たされない。だからこそ力を使わずとも刈り取ることが出来る」

 霊剣が持つ能力は死神道具にはない繋がりを断ち切る条件を満たしている。それを可能にしているのが自分達が師とした死神が直接力を込めているからだ。

 それに、霊剣は死神が死神の弟子になった時に渡される物であるから全員が持っているだけではなく何度も振るっている。死神道具以上に慣れ親しんでいるとも言える。

「確かにそないなら戦うことが出来る。だがな…」

「霊剣は切れ味最悪だぞ」

 霊剣を使うことに忠信と保彦が苦い顔を浮かべる。

 死神になって悪魔や生霊を力で刈り取ると鋭さが桁違い。その力に慣れてしまっている為にどうしても霊剣で戦うのは遠慮したくなる。

「何言うてるのよ。戦うことが出来るだけでも今はええと思うべきだよ」

「あ、ああ……」

 そこを幸に嗜められた二人だが、霊剣の切れ味が悪いという事実はかなり響いている。

「そやけどもな、戦うことは出来ても刈り取るのはややこしいぞ」

「そうだな。最悪、本命は力を使うしかないかもしれへんな」

 相手は上級悪魔。下級悪魔や生霊なら現役の死神が力を使わず霊剣だけで刈り取ることが出来るかもしれないが上級では効かない可能性があった。


 だが、その心配は無駄であるとモルテが爆弾を落とす。

「何を言う。力を使わずとも倒せるぞ」

「待て!話し聞いとったか!?霊剣じゃ刈り取れねえかもしれへんんだぞ!」

「霊剣だけならな」

「は?」

 すかさず佐助が突っ込みを入れたが次の言葉に疑問符が浮かんだ。

「モルテ、霊剣だけならってどういうことよ?」

「もう1つあるのだよ。剣の名が付いた物が」

 霊剣とは違う剣の話しに殆どがそんな物があるのかと凝視する。

「聞いたことはないか?死神の剣と呼ばれる物を」

「ちょい待て!そら伝説級だぞ!」

 モルテが出したもう1つの剣に忠信が血相を変えた。

「親父、伝説級って何だ?」

「あまりにも凄すぎものそやしや。それよりも何で知らねえ!」

「知らねえものは知らねえよ!死神の剣っての初めて聞いたぞ!」

「あたしもじい様からそう言う剣があるってのは聞いたことあるけどどんなものかは知れへんよ。おやっはんは知ってるん?」

 モルテ、忠信、幸以外が死神の剣を知らないと言った様子に忠信が溜め息を漏らした。

「死神の剣ってのはな、霊剣の元になったと言われとるものだが作り方はまるっきし分かっておらんし数も少ないと言われとる」

「霊剣の元どすか」

「霊剣の様な力があるけど決定的にちゃうのは切れ味と特別な力があること。山を真っ二つにするとか海を裂いたとか、雨を降らせたり、遠くと遠くを繋げたり出来るって言われとるものよ」

「そないなものあるのか?」

「何だか凄すぎてほんまにあるのか疑問に思う」

 忠信と幸の説明にまだ若い分類に入る死神が疑う。

「だからこそ死神の剣は伝説、本当にあるか分からない為に多くの死神が実在していることを知らないのだ」

 モルテが補足した瞬間、桜花の死神が一斉にモルテを見た。

「実在してるって嘘だろ?」

「モルテはん、わしは死神の剣がどんな物か知ってるだけであると思っておりません」

「何を言う。芳藍には2本の剣が実在している。最後に覚えているのは今で言うと桜花の西、宮の宝物殿に納められているはずだ」

 昔の記憶を辿り死神の剣の存在を疑っている桜花の死神に言う。

 だが、直後に全員が気まずい表情を浮かべた。

「モルテ、それいつのこと?」

「宮の宝物殿に納められたのは随分昔のことだが、それがどうした?」

 いつものことながら具体的な年数を教えないと呆れるつららだがそれを突っ込めば話が進まなくなると真実を言う。

「モルテが言うた宝物殿って平城宮の宝物殿どすやろ?そこは七十年前に燃えてもうないのよ」

「馬鹿な!」

 芳藍にある死神の剣が納められているとされていた場所が今はないことにモルテは驚愕する。


 平城宮の宝物殿とは、芳藍を治める歴代の帝の品や大陸にあった国と細々と交易していた時に献上された国宝級の品が納められた倉である。

 国にとっても貴重な品が納められている為に人が寄り付かず、火の気とも無縁の場所にあり、敷地も帝が直轄する場所である為に出入り出来る者が制限されている。

 そんな場所になぜ2本の死神の剣があるかと言うと、過去に死神となった帝がおり、その帝の品として収蔵されているのだ。

 だからこそ平城宮の宝物殿は芳藍にとって絶対に安全でなくならない場所であるとモルテは認識していた。

 しかし、詳しく聞くと70年前に桜花では大地震が起り疫病や飢えなどが襲い混乱していた。

 そのどさくさに紛れて帝の直轄地にあった宝物殿に何者かが火を放ち納められていた品々が焼失してしまったのだ。


 それを聞いたモルテは険しい表情を浮かべた。

(剣が焼失することはないはず。そうすると……)

 浮かび上がる可能性の数々にモルテの表情が険しくなるが、死神の剣が焼失したとは思っていない。

「死神の剣って物は頼れそうにないな」

 死神の剣が焼失してしまっていると言うことに期待していた佐助が残念がる。

「なくなったものは仕方ないこっちゃ。霊剣で何とかするしかない」

 忠信も無いものは仕方ないと言うが、本心では伝説と言われている死神の剣に頼れないことを残念に思い、死神の剣なしでの戦いが困難なものであると実感している。

「……仕方ない」

 先程の険しい表情を浮かべたモルテはどこか諦めた様に誰にも聞こえず呟くとつららから返された死神道具を取り出した。

「モルテ?」

「すまないが連絡を入れたい所がある。悪いが力を貸してくれ」

「でも、そうしたら悪魔が……」

「ホメロンがダミーを置いて回っているから気づかれることはない」

 つららの心配をよそに死神道具を起動させてくれと急かすモルテ。

「もう、何やあったらモルテのせいそやしね」

「分かっている」

 悪態を付きながらもつららは渡された死神道具に力を込めて起動させるとモルテが操作した。


 その操作が終ると死神道具から何かが聞こえるわけでもなく数分が経過した。

「出ないな」

 これだけ起動させていれば出るはずの相手がでないことをモルテは怪訝に思う。

「モルテ?」

「まだだ」

 出なければ仕方ないと思ったモルテはまた操作した。

 だが、

「何故出ない」

 別の相手にしたはずなのに数分経っても出ないことにまた怪訝になる。

「モルテ……」

「まだ通していろ」

 どこか疲れた様子のつららに言って今度も違う相手に繋げる。

 今の時間を考えると確実に気づくはずだからと。

 そして、モルテの予想通りに死神道具を操作してすぐに繋がった。

『こちらエノテカーナです』

「レナード!?」

 最初に連絡を入れて出なかった相手が予想外の場所にいた。

12章と繋がりました。

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