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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
13章 桜花死神連続変死事件
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退避

 時間は少し遡る。

 幸を除いた桜花の死神達はまだ夜の闇が濃い都の道を走っていた。

「親父、こっちでええのか?」

「ああ。モルテはんが渡した道具がこっちを指しとるから間違おらんはずだ」

 忠信が持っているのは小さな羅針盤(コンパス)であるが、針は北に向いておらず方角を示していない。しかし、知りたいのは方角でなければこの羅針盤(コンパス)も今はその為の道具でないからと忠信達は気にせず走り続ける。

「そう言うが、ほんまに大丈夫なのか?」

「話だとふみとモルテはんが同じの持っとるから間違おらんはずだ」

 佐助の疑問は最もだが、今は羅針盤(コンパス)の針を信じるしかないと忠信は促す。


 モルテが忠信に渡した羅針盤(コンパス)示しの羅針盤イントーダー・コンパスと言う名の死神道具であり、豆庵堂にいたふみを連れて行く代りに説明をするだけして置いていった物だ。

 示しの羅針盤イントーダー・コンパス羅針盤(コンパス)としての機能も持っているが死神道具としての機能は同じ示しの羅針盤イントーダー・コンパスを持つ者同士の居場所が分かる物である。

 近くにいる者を優先して針が指す為に特定の人物に対しての使い勝手は悪いが追尾により先に赴いている死神の後を追ったり乱立している中で近くにいる死神と合流出来たりと要所々々で発揮することで死神達に愛好されている。

 芳藍でも旅の必需品で羅針盤(コンパス)と言う名ではなく方位計と呼ばれて一般的であり、当然芳藍の死神も示しの羅針盤イントーダー・コンパスならぬ引合い方位計と名付けられており性能も同じ。その為に示しの羅針盤イントーダー・コンパスを持つ死神の場所も分かる。


 だが……

「つらら、これ大丈夫なのか?」

「あたしもこの形、初めて見たから分かれへんけど引合い方位計と同じだなら多分大丈夫よ」

「はっきりせんな……」

 つららの断言しない言い方に佐助が不安を呟く。


 示しの羅針盤イントーダー・コンパスと引合い方位計は機能が同じで使うこと自体は問題ないのだが、方位を示す数が異なっていたのだ。

 示しの羅針盤イントーダー・コンパスには八つの方角、引合い方位計には十二の方角が記されている。

 本来なら特に気にすることではないのだが方位の数の違いに惑わされていることで桜花の死神達は本当にモルテが渡した道具が機能しているのかと戸惑ってしまうこととなってしまっていた。

 それを踏まえてモルテが手持ちの一つを忠信に渡して不安の一つを消そうとしたのだが、そこまで理解されないばかりか逆に不安にさせることとなってしまっている。

 それなら自分達の引合い方位計を使えばいいのにと思うところだが、モルテから示しの羅針盤イントーダー・コンパスを受け取ってしまった為に自分達の引合い方位計を持ち出すことに気がつかなかったのである。


「それに、おやっはんに渡したかてことはこっちの助けも必要ってことと思うのよ」

 皆がモルテが渡した道具を不安に思う中でつららだけは信じて、渡した意味と別れ際に言った言葉を思い出してやってほしいことがこれであると言う。

「そないなら一緒に行けばええだろ」

 共に行けばこうして後から追いかける必要がなければ起きている状況に対処出来たのにと佐助がぼやく。

「佐助もそう思うか?」

「栄一郎も思ってるなら止めろよな」

「止める暇がなかったんだよ」

 佐助の言葉につららと一緒にいて話しを聞いていた栄一郎も同意するが無理だったと呟く。


「止まれ!」

 その時、忠信が慌てて叫ぶと足を止めた。

 突然のことにつらら達も足を止めると何事かと忠信を見る。

「どうした?」

「針の向きが変わった」

「は?」

 そんなことがあるのかと疑う皆に忠信は示しの羅針盤イントーダー・コンパスを見せた。

 そして、針は先ほどまで走っていた方向ではなく背後を指していた。

「何これ!?」

「狂ったか?」

 何故こうなったのかと戸惑うつららと対照的に佐助が疑う様にして言う。

「これが引合い方位計と同じなら狂うってことはないはずだが……」

「壊れたか?」

「そないなはずいでしょ!」

自棄(やけ)にならへん。もそやけどもたら通り過ぎただけかもしれへん」

「親父がずっと見とったんだで。そないな一瞬であるのか?」

 針が変わったと言うことだけで様々な憶測が交わる。

「止まっていても仕方ない。針が指す方に行こう。ええな?」

 忠信がそう言うとつらら達は頷き来た道を戻る。そしてすぐに……

「待て!針が向こうに変わった」

「またかよ!」

 忠信の言葉に佐助がイラついて言う。


 つららと栄一郎は忠信が持つ示しの羅針盤イントーダー・コンパスを覗き込み針が向いている方を確かめる。

「針が真っ直ぐ指してる。そやけども……」

「さいぜん来た場所を指しとるな」

 一本の真っ直ぐな道を短い間に針が二度も真逆を指したことにおかしいと考え込む。

「どう思う?」

「……ここからあそこまでってそないなに開いてへんよな?」

「開いてへんな」

 忠信が最初に針の向きが変わっていることに気付いた場所から今いる場所はそれほど距離が開いているはわけではない。むしろ近いと言っていい。

「……もそやけどもたら、おふみはここにいる?」

 栄一郎の推測に忠信達は驚愕したが、佐助が異を唱えた。

「待て栄一郎!それが引合い方位計と同じとしてもおふみはんおらんだろ!」

 ふみにも持たせているのならこの場所にいてもおかしくなはなく、同じ道具を持っているモルテ、忠信の忠告を聞かずに勝手に動いた保彦と孝之介がいるはずなのだが影すらないのだ。

「そらそうだが……」

「もそやけどもて、異界みたいなのがここにあって四人はその中にいるんじゃないのかな?」

「異界って、こんな場所にか!?」

 栄一郎の推測に補足する様にしてつららが付け加える。

「そう。異界はここにあるけどここにはないけど入口を見つけへんと入れいでしょ?ほしてあたしたちがこの間を通る度に入口からやないから針が変わるのと思うのよ」

 つららの推測に佐助は唸った。

 聞いてしまえば話しは通っているのだが、そうすればどうやって入るのかが分からない。助けが必要なら入り方くらい手懸かりを残してほしいと思うところである。

 しかし、いくら話の筋が通っていても今までの件を踏まえると異界ではどうしても不可能な壁に当たる。

「もしそうだとしても異界を動かすことは無理だろ」

 異界は入口も含めて存在している場所から動かすことが不可能。例え異界に潜む者が原因であったとしても殺された死神達は別々の場所で亡くなっていた。

 異界で邪魔されず殺すことが出来てもその後にわざわざ別々の場所に捨てるのかと疑問に思う。

「そらそうそやけども……」

 つららも異界のことを知らないわけではない。だからこそ異界みたい(・ ・ ・ )と付け加えそれについての説明と違う可能性を言おうとした時だった。



 忠信達周辺の空気が突然変わった。

「何だ?」

 栄一郎が声を出して驚くも他の皆が釣られて驚く暇はなかった。

 忠信達の目の前、そこから空間が霧が晴れるようにして先にモルテとふみ、深手を負っている保彦、そして1体の悪魔が現れた。

「保彦!ふみ!」

「モルテ!」

 目の前に突然3人が現れたことに驚きながらも忠信達は駆け出した。

「親父!?何で……!?」

 忠信達が突然現れたことにモルテの説教で血の気が引いていた保彦は突然のことに顔を上げた。

「阿呆野郎!やるなって言うたのに何やってるんだ!」

 忠信は怒りながらも説教は後と保彦を背負う。

「保彦、孝之介は?」

「……死んだ」

「なっ!?」

 孝之介がこの場にいないことに尋ねた栄一郎だが、保彦の口から出た力ない言葉とふみの反応に驚愕と悔しさが募る。

「ふみ、孝之介の屍は?」

「あそこ」

 ふみが示した場所には孝之介の遺体がうつ伏せのままであった。

「栄一郎、佐助、ふみ。孝之介を頼む」

 今ここで悪魔を倒してしまいたいが、遺体になった孝之介をこのままにすることは出来ないと忠信は回収を指示した。


 忠信達が保彦と孝之介の対応をしている間、つららだけはモルテへと駆け寄っていた。

「モルテ、無事?」

「ああ」

 つららに返事を返したモルテだが、悪魔から視線を離してはおらず、つららもそれに釣られて身構える。

「何故だ……」

 悪魔は信じられないとモルテを見る。

「我の力が何故破れた……」

「私がここに侵入出来た時に破られる可能性を考えておくべきだったな」

 モルテは握っていた道具を見せながら煽る様に言う。

「モルテ、あれが元凶?」

「ああ」

 つららの質問にモルテは答えながら懐に道具をしまう。

「だが、ここでは倒さん」

 そう言うとモルテはホメロンを呼び寄せ、鞍にかけていた鞄から二種類の道具を取り出すとつららに渡した。

「つらら、これを店の周りに置いてくれ。その後に店内でこれを起動してくれ」

「これは?」

「説明は後でする」

「分かったよ」

 モルテのことだからと素直に指示を聞き入れたつららは悪魔へと視線を向ける。

「モルテは?」

「忠信達が逃げ切るまで時間を稼ぐ」

 忠信達が保彦と孝之介を運ぶことを優先したことでモルテは足止めとして残ることを既に決めていた。

「一人で?手助けは?」

「必要ない。不用意に力を使えばあれの条件を満たすからな」

 モルテが何かを警戒していることを悟ったつららは無理せずそれを受け入れた。

「気をつけてよ」

 そう言ってつららは忠信達にモルテが何をするのか伝えるとすぐに現場から離脱した。


 気配が遠ざかるのを感じながらモルテは鞄から黒いコートを羽織るとホメロンにも指示を出した。

「頼むぞ」

 その言葉にホメロンは頷くと忠信達の後を追うようにして走り去り、それを見届けることなくモルテは悪魔と向き合う。

「待たせてすまないな。てっきり攻撃を仕掛けてくると思っていたが」

「お前の隙が無さすぎそやしや」

「そうか」

 どうやら警戒しているとと話から悟ったモルテはコートから道具を取り出すと身構えた。

「ならば、足止めも兼ねて付き合ってもらおう」

 モルテの嫌みが夜が明け始めた空に響いた。

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