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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
13章 桜花死神連続変死事件
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急な知らせ

 幾つも灯している蝋燭の明かりと死神の目によりモルテは丁度2人目の検死を終えたところであった。

「こんなところか」

 2人の検死を確認する為に使った道具を置くと改めて先ほどまで見ていた遺体を見る。

「……やはり納得いかない」

 不機嫌な表情を浮かべて呟くとモルテは早速動き出した。


 検死を終えた遺体を布で拭いて綺麗にする。顔や腕に足と拭き、胴体に移ると布に赤いものが染み込んだが構わず桶の中の水へと入れて落とす。

 よく見ると栄一郎が準備してくれた桶の水殆どが赤く染まっている。

 そうなってしまうことも構わず全体を拭いたモルテは手袋を脱ぐと、改めて羽織を着せて帯で止めてから元々あった場所に遺体を戻した。

 検死の為に使った組立式テーブルの上が汚れ散らかっている故に地面に戻したのだが、ここからの作業はテーブルがなくても出来ることだ。


「さて……」

 気持ちを切り替えてモルテは出したままの道具箱から化粧道具を一通り取り出すと遺体の顔に化粧を始めた。

 そう、モルテが納得いかないと言ったのは死顔があまりにも蒼白く、あたかも死んでいますというものだからだ。

 だからこそモルテは例え死顔でも自然と寝ているように見せたいと化粧を始めたのだ。

 検死を行ってもそれで終わらない所は職業病なのだろうが、それでも状況を考えてくれないかと第三者が居たら言っているだろう。何せ、先に見た遺体にも化粧を施しているというアフターケアをこれでもかと施しているのだから。



 それからしばらくして、モルテは2人の遺体の化粧を終えるとさっさと道具の後片付けを始めた。

 検死に使った道具は丁寧に洗い、組立式テーブルを拭いたことで桶の水は全てが赤く染まった。

 そして、テーブルも解体して道具を整頓、上から着ていた服も全て鞄にしまい込むと遺体が置かれている部屋は天幕を残すだけで綺麗に片付けられた。

「残りはこれか」

 天幕を見ていると、部屋の外が騒がしくなったことに気が付いた。

「何だ?」

 怪訝に思っていると、部屋の引戸が思いっきり開けられ、つららが血相を変えて飛び込んで来た。

「モルテ!エライことになったわ!」

「どうした?」

 部屋に飛び込んで来たつららの後を追って栄一郎も部屋へと入って来るが、同じ様に血相を変えている。

「保彦と孝之介はんがいなくなったのよ!」

「何だと!?」

 つららの知らせにモルテは驚愕する。

 保彦と孝之介とは顔合わせの時にだけ数回話しを交わしただけだが、2人とも良い印象を抱いてはいないだろうとモルテは思っていた。

 それでも、現状において独断で何かすることは低いと思っていた。

 それがまさか、低いと思っていた方へ動き出すばかりか行方不明になるとは考えていなかった。

 何も知らない現時点で居なくなられては当たり前であるが困るのだ。


「何故2人が行方不明と分かった?」

 つららが知らせて来たということは行方不明となった手掛りがあったのではないかと問う。

 モルテの中では知らせを聞いてからずっと嫌な予感がしている。

「おふみはんが保彦の力を感じて外出たらんそやけども居なくて。ほして家に行ったらおらんって分かって、ほして皆に伝えに回ったら孝之介はんもいなくて……」

「あの阿呆!勝手に動くなって親父から言われたやろうに!」

 つららの経緯を聞いた栄一郎が怒気を込めて吐いた。

 どうやら忠信からも釘を刺された筈なのに2人は勝手に動き、桜花の死神全員を巻き込んでしまったようだ。


 経緯を聞いたモルテは頭の中で整理をしてから必要なことを確認し始めた。

「ふみはどこで感じ取ったか聞いたか?」

「家って言うとったから多分家のねぎよ」

「なら、今はどこにいる?」

「多分おやっはんに話しをしに……ってまさか、モルテ……」

「そのまさかだ」

 話しをしていたつららはモルテが何をしようとしているなかを悟った。

 そして、それが当たりとばかりにモルテはその場で指笛を吹くと、部屋の中に置いた鞄を持った。

「2人を助けに行く。道案内が必要だ」

 ふみの家の場所が分からなければ周辺はもっと分からないとモルテは早足で部屋を出る。

「待て!助けるったってどうやって助けるんだ!おふみは見つけられなかったって言うとったんだで。それに、相手がどんなのか分からなければあんたは外の死神なのそやし親父が死にに行かせるはずがない!」

 栄一郎は勝手な行動をした保彦と孝之介に怒りを抱いてはいるがそれで死んでいい理由でもなければ死んでほしくないと願っている。

 けれど、現状は死神が手を出せずどうしようも出来ない。そこに死にに行かせるようなことは出来ないとモルテを止めようとするが、モルテは構わず出入口へと目指す。

「勘違いをするな」

「勘違い?」

「私は勝手な行動をしたらしい2人を助けに行くだけで元凶を倒しにいくついでに助けるのではない」

「同じことだろ!」

 モルテの言い訳はそれっぽく聞こえるも、根本は同じと栄一郎は突っ込む。

「けれど、おふみはんは見つけられなかったって言うとったのよ。どうやって見つけるん?」

 つららとしてはモルテが言ったことは出来ることと長年の付き合いで知っている為に言わないが、それでも同じ桜花の死神が出来なかったことをモルテが出来るのかと不安に思う。

「手段ならある。だが、こちらから出ることは困難だろう」

「困難って、それじゃモルテも……」

「勘違いをするな」

 モルテは今までの話しから相手がどんなことをしているのか大体予想出来ていた。これはふみが保彦の力を感じ取ってくれたことが大きい。

「困難だが不可能とは言っていない。それに、どうしようもなければ手段を問わなければいいのだ」

 そう言いながらモルテは止めようとするつららと栄一郎を振り切り引戸を開けると、そこにはホメロンがいた。

 ちゃんといることを確認したモルテは何故店の前に白馬がいるのかと驚いている栄一郎を無視して股がる。

「つららはふみが力を感じ取った付近で待機していてくれ。場合によっては救出したらすぐに逃げなければならない。逃げる場所は……豆庵堂だ。そこでなら全員揃うだろう」

「え、ええ、分かったわ」

 勝手に話しを進めたモルテにつららは慌てて頷くと、すぐに心配そうにモルテを見る。

「そやけどもモルテ、ほんまに大丈夫なん?」

「手はあると言っただろう。それに、頼まれていることもあるから丁度いい」

「頼まれている?」

「時間がないから後だ。ホメロン、まずはふみを回収する」

 モルテの指示にヒヒィーンと鳴いたホメロンはすぐに駆け出し、あっという間に暗闇の中に消えて行った。

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