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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
2章 葬儀屋の仕事
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酒場にて集合

 曇っていた空は既に夜の闇に染まっていた。

 そして、広場の宿泊街から程近い場所に構えるエノテカーナは深夜でも営業しており、店内には二人の常連がエノテカーナのマスターに注文をしていた。

「コーヒー・ラム・フロート」

「ヴァージンピニャコラーダを頼みます」

「かしこまりました」

 常連、モルテとレオナルドの注文にマスターが手際よく準備に取りかかった。

 そして、間を置かずに店の扉が勢いよく開けられ、常連が豪快に店内へと入った。

「いや~、遅くなって悪いねぇ~」

「構わない。仕事だったのだろう」

 その常連、ガイウスはレオナルドと話しなから隣の席に座るとマスターにいつも頼むカクテルを注文した

「スレッジハンマーを頼みますぅ~」

「かしこまりました」

 新たに入ってきた常連の注文に慌てることなくマスターは必要な酒を取りだし始めた。

「そぉれにしても、モルテとレオナルドは相変わら~ず同じのを頼んだのかぁ?」

「頼んだら悪いか?」

「私は酒が飲めないからな。そんなガイウスも同じものを頼んでいるではないか」

「まぁ~ねぇ~」

 他愛もない会話をする葬儀屋店長モルテと葬儀店社長ガイウス、そして葬儀商店主レオナルド。

 アシュミストに店を構え葬儀を執り行う三軒がどうして酒場(バー)にいるのか。

 それは、目的を持って昨晩から集まる場所をエノテカーナと決めていたためである。

「お待たせしました。コーヒー・ラム・フロート、ヴァージンピニャコラーダ、スレッジハンマーです」

「おお!」

「待ってましたぁ~」

「相変わらず一緒に出すのだな」

 マスターが出来上がったカクテルをそれぞれ注文を出した者のカウンターの前に出したのを見て反応をする葬儀業責任者達はまたもやそれぞれのしぐさで出されたカクテルを楽しみ始めた。

「香りがいいな」

「いつも通りの見た目だ」

「喉にくるなぁ~」

 それぞれが一通り楽しみ落ち着いたのを見計らい、マスターが一つの大きな封筒を差し出した。

「アドルフから預かっている」

 マスターが差し出した封筒をレオナルドが代表して受けとると封を開き、中に入っている資料を見始めた。

 それを横から覗き込むモルテとガイウスは資料の内容を見て、ガイウスが大きなため息を漏らした。

「ハズレかぁ~」

「死因は病死、三週間経っているのか」

「行方不明の亭主かと思ったんだがねぇ~」

「年齢的に無理があるだろう」

 色々と予想を裏切った内容に思わぬ予想を立てていたことを口に出したガイウスにレオナルドが突っ込んだ。

 資料には昨晩発見した老人の身元と死因について書かれていた。

「しかし、かわいそうに。妻に先立たれ、残った遺族とは別居している、か」

「顔を見に行ったりはぁしなかったのかねぇ~」

「それほど関わっていなかったらしい。病気のことは知っていたようだが……」

「状態が急変して死んだというところだろう」

 老人の事情を理解した葬儀業責任者達。

 しかし、ここでは誰も遺族が老人の様子を見に小まめに訪れていれば病状が急変して死ぬことはなく、さらに生霊(リッチ)となって飛び降り自殺による犠牲者が出なかったと言う者はいなかった。

 そして、葬儀業責任者にはまだ問題は残っていた。

「そぉなると、行方不明の亭主が気になるなぁ~」

「出ていったか、死んだか。はっきりしないがまだ気が抜けませんね」

 最初の犠牲者カリーナの父親の生存が不明であることが葬儀業責任者達にとって問題であった。

「生きていたらいいのですが、死んでいたら生霊となっているはず」

「現れるま~で待つしかないんだよぉね~」

 現状維持するしかないとガイウスとレオナルドは溜め息をついた。

 そんな二人を横目で見たモルテはカクテルを飲んだ。

(恐らく、死んでいるだろう)

 モルテは口では言わなかったがカリーナの父親は死んでいると考えている。

 ディオスの話しとファズマの情報からカリーナの家族からは悪い話を一つも聞いていない。そうなると出ていくとは現状では考えにくい。

 恐らく、アシュミストにいるが生きてはいない。

「繋がりとは、本当に脆いものだな」

 ふと、よく分からないことを口に出したモルテにガイウスとレオナルドが不思議そうに見た。

「繋がりは誰もが持つことが出来るが保つことは難しい。加え、持つことと保つことは全く違う。二者の違いかはたまた……」

「何を急に……?」

「独り言だ。気にするな」

 呟くモルテにたまらず尋ねたレオナルドだが、モルテに軽くあしらわれてしまった。

「ところでガイウス、カリーナの遺族と仕事の話をしていたのだろう」

「おぉ!?急に何だよぉモルテ~」

「ディオスが葬式に行きたそうにしていたからな。どの様な予定になったか知りたいだけだ」

 モルテの言葉にガイウスはにやにやしていたが、理由を聞いて真顔になった。

「二日後ぉに葬式だぁ。明日の新聞に報告が載るはずだから分かるはずだぁ」

「そうか」

 ガイウスからカリーナの葬式日を聞いたモルテはここへ訪れた目的を全て達成した。

「そぉだモルテ!」

 だが、急にガイウスが思い出したように大声で叫ぶとモルテに指差した。

「おぉ前の新入り俺ぇにちゃんと紹介しろぉ~!」

「はぁ?」

 店の中で大声出すなと思っていたら予想もしない言葉にモルテの表情が歪んだ。

「葬儀業連中で見ぃてないの俺ぇだけなんだけど」

「知るか。そもそも昨晩見たのではないのか?」

「走っていたからぁちゃ~んと見えなかった。だからぁ紹介しろぉ!」

「葬式で顔を見るではないか。それまで我慢しろ」

 ガイウスの要望を蹴るとモルテは残りのカクテルを飲み干した。

 一方で話を蹴られたガイウスはうつむきながら小言で何かを呟いていたのだが、隣に座っていたレオナルドにも無視されたのであった。

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