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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
13章 桜花死神連続変死事件
522/854

桜花の昼

 朝。正確には太陽が真上に向かいつつあり昼に近くなろうとしていた頃。モルテが店の裏にある馬小屋に足を運んだ。

 その顔は先ほどまで店の奥に置かれていた遺体を確認していた疲労の様子がなく、それ関係の仕事をしている者、知っている者が見たら明らかにおかしいと言うほどだ。

 現に終わったことをつららに伝えたらおかしいと言われたのだが、モルテは慣れているからと気にしていない。


「よく休めたかホメロン」

『はい。ただ、一つだけ問題が……』

「何だ?」

 周りに人、つららと小春がいないことを気配で確認してからホメロンが話し出した。

『ここの馬が雌でして、その……色目を使ってくるのです』

「ふむ、つららと同じか」

『つらら様とあの雌馬めうまがどの様に同じかは分かりません。ですが、非情に申し上げにくいのですが、居心地が悪いです』

「ほう」

 ホメロンの告白にモルテが不敵な笑みを浮かべる。

「確かに、ホメロンにしたら居心地が悪いだろうな。向こうに妻がいるだけでなく子もいるのだからな」

『はい』

 ホメロンに妻子がいることを口にして馬小屋にいる雌馬に教えるが、雌馬は聞かされたと言うのに気にせずホメロンを見ている。

 動揺もしなければぶれない雌馬にモルテがある意味で感心する。

「かなり惚れられた様だな。襲われない様に気を付けろ」

『その様に仰らないでください!』

 冗談ではないとホメロンが必死に抗議するのをモルテは面白いと僅かに笑って受け流す。

 その間も雌馬はホメロンを見つめたままだ。完全にホメロンを我が物にしようという覇気が感じられる。

「だが、事実だ。こちらのことが終わるまで帰ることが出来ないのだからな」

『それまでここにですか?』

「そうだ。場合によってはホメロンにも動いてもらうことになる。故に、帰ることは許さん」

 そう言われて絶望するホメロン。モルテの体質ジンクスを知っているだけにこの件が終わったとしても、また桜花に滞在する出来事が起こるのが想像出来ているからだ。

 対して雌馬は尻尾を振り回している。これから先、ホメロンの苦労は更に増すだろう。


「モルテ、ここにいたん」

 ちょうどその時、モルテを探しに来たつららが現れた。

「つらら、どうした?」

「服出したし探しに来たのよ」

「そうか。すぐに戻る」

 探しに来てくれたつららに言って先に戻させるとモルテは最後にとホメロンに言う。

「何もされないことを祈る」

『不吉なことを仰らないでください!』

 馬同士のことは何とかしろと健闘を祈るモルテにホメロンは今でも助けてくれと落胆するのであった。


  ◆


 店に戻ったモルテは真っ先に客間へと向かった。そこがモルテが桜花に滞在する間の部屋になるからだ。

 そうして、客間のちゃぶ台程の低い机の上には芳藍特有の服が置かれていた。

「モルテ、ほんまにこれでええん?じいさまの服そやけども?」

「ああ。こちらの方が動きやすい」

 色んな意味で心配するつららだが、モルテは構わないと言って長着を広げる。


 つららがモルテの要望で準備をしたのは男物の長着と袴。しかも、亡き祖父の遺物だ。

 既に処分をしていてもよかったのだが、いざという時に何か使う必要があること、捨てるに捨てられなくて取っておいたのだが、それがまさか使うことになるとは、しかも女であるモルテが着ることになるとは思っていなかった。

 モルテとしては普段から男の様な格好をしているのだから気にしていないのだが。


 長着を広げたモルテは次に袴も広げる。

「……着れなくもないか」

 長着と袴の長さが着ても問題ないことを確かめたモルテはすぐに上着を脱いだ。

「一人で出来る?」

「問題ない。秋人あきひとから一通り教えられたからな」

 着方を心配するつららであったが、モルテは1人でも出来ると答えた。

 ちなみに、秋人とはつららの祖父の名前である。

「そう。それじゃあたしは向こうに行くな。小春、おやっはんに今日のお昼そっちで食べるからって伝えに行ってくれる?いつもよりも多目に仕込んでって」

「分かった」

 モルテが着替えに入ったことで席を外そうとしたつららだが、気になったことを思い出して尋ねる。

「そう言えば、馬小屋で誰と話しとったん?」

 モルテを探して馬小屋に向かう途中で誰かと話しているような声が聞こえてきたのだ。

 近くに人が居らず、モルテは誰と話していたのかと気になっていたのだ。

「ホメロンだ。」

「ホメロンって、あの馬?」

「そうだ。嘆いていたぞ。色目を使ってくると」

「はぁ、雌馬そやし情でも持ったのかな?」

「そう言っていたぞ。ホメロンは妻子がいるから発情されても困ると言ってたぞ」

「そやん?確かにそら困るね、でも、仕方ないんやないかな?馬そやし」

「なるほど」

 どうやら少しは自身が所有している馬の行動には引いていたが、動物が恋をすることに至ってはそれほど興味はないらしいとモルテは思う。


  * * *


 昼になった桜花の通りは人で溢れていた。

「多いな」

「ここじゃ普通のことよ」

 人と人との隙間はあるはずなのに人が多いことでぎゅうぎゅうに感じる。

 昼時で昼食を求めているとも考えられるが、それにしては人の数が多い。

「そう言えば、モルテっていっぺん来てるはずそやけども知らなかったん?」

「昼に出ていないからな。殆ど朝か夕方で人が少ない時に出ていたからな」

「言われてみればそやね」

 それなら知らなくて仕方がないと納得するつらら。

 そんなことを答えたモルテの格好は少し背が高い芳藍の男の姿であった。

 一つに結わえられている赤い髪は帽子の中に隠されているが、右目を隠している前髪だけは隠していない。

 その為に道行く桜花の人間に興味で見られたりされているがその数は意外にも少い。

 人通りが多く殆どが誰かとぶつからないように配慮している為に一々顔を確かめる暇がないのだ。


「着いたよ」

 そうこうしていると目的の場所に着いたつららが足を止めた。

 場所は人がごった返しているのではないかという道から少しだけ外れているが、それでも今いる通りも人通りが多い。

「ここがあたし達死神が集まる所よ」

 そう言ったつららが案内した場所は、絶賛営業中、しかも昼時で昼食目当てで押し寄せた客で忙しくなった店であった。

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