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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
12章 覚悟と霊剣
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閑話 踏み出した一歩

「お兄ちゃんありがとう!」

 あれから数日後、退院したユリシアが抱き付いて俺に最初にかけてきた言葉だった。

「ありがとうって、どうして?」

「お兄ちゃんがあの時に助けようってしてたの覚えてるの。それに、ちゃんと助けてくれた。だからありがとう!」

 そう言われて俺は少し戸惑う。


 あれは助けようとしていたけれども今にして思えばあまり誉められるものじゃない。ユリシアを助けてくれたのはレナードさん達死神で俺はユリシアを連れ去ったとと様を相手にしていたんだ。助け出す時間を作ったといえば恐らく助けたことになるんだろう。けれども、直接とは言えない。

 それに、ユリシアを助ける為に俺はとと様を殺している。血の繋がった親を殺すことは世間では親殺しと言う。

 それでも俺はとと様を止める為に殺したことを後悔していない。身内が仕出かしたことは身内でって言うのもおかしいけれど、あのまま放置も出来なければ他人に任せるつもりもなかった。

 だから俺の手で止めた。血塗れになりながらも人を傷付ける殺すことに戸惑いを示さなくなったとと様を見たくないから。

 けれど、とと様を殺した俺がユリシアに触れていいのか?ユリシアは顔も分からないし父さんを本当の父親と思っている。教えたところで驚くだけと思うけど、それでも今の俺はユリシアにその事を言えないでいる。いや、恐らく一生言わないだろう。

 ……だけど、いつからこんな荒事に首を突っ込む様になったのかと思っておかしいことに気が付いた。


「ユリシア、俺が助けたって誰から聞いた?」

「ママだよ」

「母さんが!?」

 驚いて見ると母さんが笑ってる……いや、微笑んでいるんだ。……って、母さん、何言ってるんですか!

 確かにユリシアを助け出す時に俺もいましたがそれだけです。直接関わっていません!

「大丈夫ですよ。隠して欲しいことは言ってませんから」

「そういうことじゃないです!」

 ああ!恥ずかしくなってきた……

 でも、隠しているってのは多分死神のことかもしれない。


 あの夜にレナードさんは母さんに死神がどういったもものか教えて口に出さない様にって言っていた。

 それに、ユリシアが俺と同じ体質じゃないってことも教えてくれた。

 これに関してはあの日に面会が許可されてレナードさんが確認に行ったみたい。リーヴィオさんが担当医だったこともあるけど、とにかく安心した。

 だって、ユリシアまで俺と同じ体質なら死神のことを知ることになる。ユリシアには死神の事は知らずにいてほしい。

「え?隠しているって何?」

「ディオがどんな風に頑張ったかってことですよ」

「えっ!?どうして隠すのお兄ちゃん?聞きたいな」

「恥ずかしいからですよ」

「恥ずかしくないよ。お兄ちゃんはすごいんだからね!」

 って、俺が考え込んでいる間に何かおかしな方向に行ってる!?

 頼むから母さんも話をやめてください!


  ◆


 その日は久し振りに家で寝た。

 そう言えば、店に行ってから泊まったのは初めてだから久し振りでもないか。

 ただ、気を利かしてくれたファズマとミクには感謝しないと。お陰でこうして家族と過ごせるのがこんなに大切なことなんだって改めて知ったのだから。

 今までは家族の為って思ってたけど、それなら顔を見せに行ったり泊まったり……今更ながらもっと前にしておけば良かったと思うよ。


  ◆


 そして、

「それじゃ改めて……」

「ディオス、死神の世界へようこそ!」

 店に帰ると沢山の料理と共に死神の弟子達が集まっていた。

「こ、これは?」

「いや、ミクがどうしてもやりてぇって聞かねくてな」

「ふっふーん!」

 戸惑う俺に呆れながら言うファズマと胸を張るミク。

 でも、何でパーティ?

「だって、あたしの次に弟子になったのってフランコお兄ーちゃんとエミリアお姉ーちゃんだもん。何だか見た感じからしてあたしの方が長いんだーって感じがしないんだもん」

 あ、何となく話が見えてきた。

「でもね、ディオが入ったから、これであたしもせんぱいだーって胸張れるの!」

「って言うのは建前でな。ディオスが店長の弟子になったお祝いがしたいって言ったんだよ」

「いい切っ掛けかなって思ってたの。私達も今回もそうだけどディオス君って私達に色々と手を貸してくれているでしょ?」

「だから、どうせなら感謝とこれからよろしくを込めて何かしようってなったんだ」

 いや、その流れでどうしてこうなるの!?

 ミクの思惑は……この際いいとして、弟子となった歓迎会は、一応あり。感謝は……した覚えがない!ってか、ここにいる皆に何かした覚えなんてないから!


「いや、俺は何もしてないですよ!」

「そこで謙虚になるな!ファズマから聞いて何してたかは分かっているんだから!」

「ファズマが何言ったんだよ!」

「ディオスがいない間のことを言ったに決まってるだろ」

「そっち!?」

 何で俺がアシュミストにいない時の!?

 って、はぁ……何だか突っ込みが疲れてきた。

 ……そう言えば、

「あの、聞きたいことがあるんですがいいですか?」

 話を変えることになるけどこのままだと俺が気まずくなる。それに、はっきり聞きたいこともある。

「どうして俺が悪魔を倒すことを反対しなかったんですか?」

 あの時の俺は霊剣なんて持っていなった。あのまま突っ込んでいたら確実に負けていたのが今なら分かっている。

 だから聞きたい。あの後にレナードさんが弟子を動員することを言ったから何もないように決まったけれど、俺がいなくても良かったはずだし、例え俺がいようがいなかろうと本来なら反対があっても良かったはず。もちろん弟子であるだれかが言ってもおかしくはなかった。

 あまりにも不思議でおかしすぎる。

「は?決まってるだろ?ディオスが倒すって言ったからだろ」

「え?」

 ファズマが当たり前の様に言う。いや、そもそも言ったからじゃないから!

「ディオス、先生達もそうだけど、あの時に言った言葉を無駄にしたらいけないって思ったの」

「覚悟を改めたって言うのがあの時のディオス君よ。そんなディオス君の気持ちを踏みにじっていいはずがないってことよ」

「まあ、感情に動いたってことだよ」

 ロレッタさん、フランコさん、エミリアさんが俺がエノテカーナで言ったことに対する心境を暴露する。

 何だか、それを聞くとすごく気を使われた気がする。実際はその通りだけど……

「それに、私達もディオスの気持ちを叶えたいって思っていたの。それに、この事は私達の為にも繋がるって思ったから」

 気を使われたと言うよりは助けられた?これもその通りだけど、だけど……

「げと、それで……いや……何でもない、です」

 そうだ。アリアーナもそうだけど、どんな目に会おうが皆が俺の為に覚悟を持って手を貸してくれたんだ。

 俺も、皆の気持ちを踏みにじったらいけない。

「そう言うことだから早く料理食べよー!」

「って、話の繋がり方がおかしいからね、ミク」

 今の話でどうしてそう行くかなって突っ込んだら皆が笑い出した。

 ミクは頬を膨らませてお腹が空いたからって言ってるけど、それがなおさら面白くて俺まで笑ってしまった。


 思えば、こうして誰かの為を思って前に進んだことがない。

 いつも家族の為にと思って近くに寄り添うようにしていたけれど、これはそれとは違う。

 もしかしたら俺は自分の意思で決めていながらも前に進んだことがないなかったのかもしれない。

 いつもその場に留まってできる範囲で何でもしてきた。

 けれども今は違う。

 それまでやってこなかったこと、避けていたことに目を向けている。そして、踏み出した先にいる人達とこうして共にいる。

 俺は初めて、自分の足で前に歩き出したんだ。

12賞はこれで終わりです。

次回は13章になります。

今章の裏話は夜の活動報告に載せます。

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