話し相手
朝食後、モルテはコーヒーを一口飲むと向かいに座っているディオスに目線を向けた。
向けられたモルテの視線にディオスは硬直した。
現在リビングにいるのはモルテとディオスだけ。ファズマとミクは店番として店内にいる。
一体話しとは何なのか緊張するディオスにモルテは口を開いた。
「昨晩はどうだった?」
モルテの言葉にディオスは何を言われたのか分からず言葉を失った。
「生霊に追いかけられたのだろう?」
予想していなかった言葉にディオスは驚いて思わず話しとして叱られると思っていたことを口にした。
「ミクちゃんを夜中まで連れ歩いていたことではないんですか?」
「それを怒ってどうする?」
またも予想していなかった言葉に目を丸くする。
「私もよくミクを夜中に連れて歩く。気にすることはない」
「ないって……」
予想外すぎる言葉に呟く。それよりも夜中によく連れて歩くとはどうゆうことなのか聞きたい気分である。
「話を戻すが、昨晩の出来事をディオスはどう思った」
モルテから再び昨晩の出来事を聞かれて硬直するディオス。
何故モルテが知っているような口調なのかは知らないし振られた話の内容にそこまで考えられなかった。
「……頭の中が滅茶苦茶です」
やっと一言、ディオスは思い詰めた表情で言うとうつ向いた。
「正直に言うと訳が分かりませんでした。いきなりピエロみたいな幽霊が出てきて、その幽霊は俺が話をしていたおじいさんに化けていたようでした。それに、その幽霊は自分からカリーナを殺したって言うし、幽霊が殺すなんて聞いたことないんです。それなのに俺は人がやったと思っていた考えが幽霊がやったということ以外全部当たっていた。幽霊がカリーナを殺したなんてふざけている。だけど本当のこと思いました。それでも誰にも信じてもらえないと思っています。どうしたらいいのか分からないんです」
心境を息を途切れることなく話した内容を静かに聞いていたモルテはコーヒーを一口飲むと口を開いた。
「聞くが、ディオスは全てを知った後、どのようにするつもりだった?」
「どのようにって……?」
モルテの言葉にディオスは考え込んでしまった。
そう、何も考えてはいなかった。ただおかしいと思って調べて、もしかしたらどうにか出来ると思っていたら手が出せないような、誰も信じられない出来事だったのだ。どうしたらいいか考えてもいなかった。
ディオスの沈黙はモルテが思っていた通りの反応だった為にわざと聞こえるように口から言葉を漏らした。
「どうしたらいいのではなく何をしたいかではないのか?」
モルテの口からまた訳の分からない言葉を聞かされディオスは思い詰めた表情から一変、僅かに驚いた表情になった。
「確かに、一般では幽霊が人間を殺したとは思わないだろう」
モルテから予想していたが実際に言われたのを聞いたディオスはうつ向いた。
「だが現にそれは事実だ」
そう言うとモルテは新聞に載っている記事をディオスに見せた。
「読んでみろ」
渡された新聞を受けとるとディオスは記事を見た。
新聞にはこのような記事が載っていた。
昨夜未明に警察へ新住宅街メログラーノ通り付近の民家から男の変死体があるとの通報を受けた。男は年齢60代~70代ほど。現在警察は身元の確認を急いでいる。――――
その記事の内容にディオスは背筋が凍りつくのを感じた。
「生霊は記事に書かれている男だ」
モルテはそう言うと腕を組んだ。
「世間では学友の自殺と男の変死を結びつける者はいないだろう。だが、この世界には本来なら結び付かないはずのものが結び付いてしまうものもある。それが今回起きた事件だ」
モルテのよく分からない言葉を聞きながらディオスは新聞を畳
むと尋ねた。
「店長は俺が言うことを信じているんですか?」
「逆に聞くが、ディオスは私がこの話を信じないと思いながら話しているのか?それとも信じてほしいから話したのか?」
「それは……」
逆にモルテから尋ねられディオスは言葉に詰まった。全く分からないからだ。尋ねられたから答えた。ただそれだけのはずだった。
その様子を見たモルテは短い溜め息をついた。
「私は言ったな。どう思ったと。それに対してディオスの反応は信じていなければ話すまで私に尋ね、信じるなら目を合わすはず。だが、どちらもしていない」
一体モルテは何を言いたいのか分からずディオスはモルテを見た。
「ディオスが私に話したのはだな、出来事を知って欲しかったから。信じる信じないはこの際何も意味を持たない。それをするのは聞いた者の判断だからだ」
またもどうゆう意味か分からずディオスは目を丸くした。
「つまりディオスは純粋にこの話をしたかった。そして、したかったのは話すこと。それだけだ」
モルテがディオスにしていたことは話を聞くとことだった。ディオスが悩んで話す内容に口を挟まず。そして全てを聞いた上で指摘をする。それがモルテがディオスに行ったカウンセラーであった。
だが、意味が分からないディオスは首を傾げた。
「今はまだ分からなくてもいい。いずれ分かる時がくる」
ディオスの何とも言えない様子にモルテはそう言うとコーヒーを一口飲んだ。
「そして、ディオスの話しだが、私は信じている」
モルテの発言に今まで会話が分かっていなかったディオスの表情が晴れた。いや、驚いた表情を浮かべた。
「どうして?」
「葬儀屋連中は生霊が見えるからだ」
「え?」
まさか予想していなかったカミングアウトが言われた。
「加え、生霊がやらかした事件に嫌と言うほど関わっている。だから信じられる」
「ま、待ってください!」
モルテのカミングアウトにディオスは全力で突っ込んだ。
「み、見えるってどうゆうことですか!?」
「言った通りだ。生霊が見える。だから信じられる」
モルテの言葉にディオスはまるで生気が抜けたかのように呆けてしまった。
「まったく、何を真剣に深く考え込んでしまったかは知らんがここでは生霊など日常の範囲だ。無理して話さないということをしなくてもいい」
「むしろ日常なのがおかしすぎます!」
モルテの発言にディオスは今まで真剣に何かについて考えていたことが馬鹿馬鹿しくなりついつい叫んでしまった。
だが、意外にもモルテの訳の分からない会話はディオスにとって不思議といい気持ちにさせたのであった。
余談ながら、新聞には建設現場の半壊と付近に陥没した地面の記事も載せられていたのだが、ディオスが気づくことはなかった。
いわゆる話したらスッキリしたパターンです。




