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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
12章 覚悟と霊剣
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ディオスの体質

 疲労困憊で行われた死神集会の翌日。

 レナードに言われてディオスはエノテカーナへと訪れた。

「いらっしゃいませ」

 店内には接客としてカウンターから向かい入れたレナードと先客のレオナルドだけで他には誰もいない。

「こちらへどうぞ」

 レオナルドが席を進めたことでディオスは恐る恐るそこに座る。

「あの、どうして呼んだんですか?」

 ディオスはレナードが呼んだ理由が何なのかずっと考えていた。

 思い浮かぶのは死神の弟子になることを決めたことに対するものではないかということだけ。

「そう焦るな。まだ揃っていないのだから」

「まだ?」

 しかし、レナードはディオス以外にも呼んだ者が来ていないからと話を延ばす。

「ああ。来るまで何か飲んでろ。今日は俺が呼んだからサービスだ。何が飲みたい?」

「お酒はまだ飲めないので……」

「ジュースだな」

 そう言ってレナードは準備を始める。

「調子はどうですか」

 その間にレオナルドがディオスに尋ねた。

「えっと……体の方は大丈夫です。疲れもそれなりに取れました。後は、ユリシアと面会が許可されました。本当に無事で良かったと思ってます」

「そうですか」

 何を言おうかと思ったディオスは思いつく限りのことを言う。それを聞いたレオナルドも一つ頷く。

「お待たせいたしました」

 そこにレナードがディオスが座るカウンターテーブルにジュースを置いた。

 何のジュースか注文したわけではないがディオスは気にせず会釈した。


 その時、エノテカーナの扉が開いた。

「いらっしゃいませ」

「えっ?」

 接客として向かい入れたレナードに釣られ入口を見たディオスは驚愕した。

「母さん!?」

「ディオ?」

 何と、ディオスの母親であるシンシアが訪れたのだ。

 シンシアはユリシアと面会が許可された時に面倒を見るからとあのまま病院にいることを決めたはず。

 どうしてエノテカーナに来たのかと戸惑うディオスをよそにレナードが続けて声をかける。

「こちらへどうぞ」

 そう言われてシンシアも戸惑いながら進められた席、ディオスの隣に座った。

「お忙しい中、お越しいただきありがとうございます。本日はサービスです。お飲み物をどうぞ」

「それでは、お酒を使わない飲み物をおまかせでお願いします。」

「かしこまりました」

 注文を受けてレナードは準備を始めた。

 内心では集まった3人がお酒を頼まないことに不満を抱いているが、これからのことを考えるならむしろ酒を頼まない、飲まない、飲めないは正解である。

「母さんも呼ばれていたんですね」

「その様子ではディオもらしいですね」

 ディオスとシンシアは軽く言葉を交わすす。

「ですが、今日はユリシアと共にいるはずでは?」

「明日の朝に赴くことにしています。彼、レナードさんから話があると言われて」

「そうだったんですか」

 だから来れたのかとディオスは思うが、それではレナードが呼んだ理由がさらに分からなくなる。

 ディオスとシンシアは親子である以外に何もの思い浮かばないからだ。

「お待たせしました」

 そうしていると、素早くノンアルコールカクテルを作り上げたレナードがシンシアへ座るカウンターテーブルに置いた。

「ありがとうございます」

 シンシアは会釈をしたが、カクテルに手を付けずレナードから視線を離さない。


 その様子にレナードは何かを思ったのか雰囲気を変えた。

「さて、ここからは普段の話し方をさせてもらうが、構わないか?」

「ええ」

 シンシアから許可を取ったレナードはすぐに口を開いた。

「単刀直入に聞くがシンシアさん、あなたは死神の存在を知っていたんじゃないのか?」

「え!?」

 いくらか柔らかく話すレナードが口にした言葉に一体何を言うんだとディオスは驚愕した。

 ディオスは葬儀屋フネーラでモルテから教えられるまで死神の存在を知らないでいた。シンシアが知っていたのならディオスも死神の存在は知っていることになる。

 それに、シンシアはグランディオが亡くなるまで財閥の一員であった。死神と接点がなく知らないはずであるのがディオスの考えである。

「……はい。そういった存在がいると聞いたことがあります」

 しかし、ディオスの考えとは逆にシンシアは頷いた。

「具体的には?全てを話してくれるか?」

「はい。その前にお聞きしますが、あなた方も死神と思ってよろしいでしょうか?」

「ああ。他にもいるが俺とレオナルドは死神だ」

「そうですか」

 レオナルドを見たシンシアは次いでディオスも見る。

「ディオはこの件にどういった関わりが?」

「俺達の一員、ということになる」

「そうですか」


 レナードの言葉を聞いてシンシアは少し考え込むと、何かを決めたようにして口を開いた。

「それなら、私が知っていること全て話しましょう」

 シンシアは包み隠さず明かし始めた。

「死神の存在は私の祖父、ネイチャー・フローマ=マンデッリからお聞きしております」

「マンデッリ?」

 初めて聞く名前と姓にディオスが口に出す。

「ディオにこの事を話すのは初めてになりますね。私はルカ家の養女なのです」

「養女……?」

 シンシアの口からわけの分からないで真実を聞かされたディオスが戸惑う。

 何しろ、シンシアが実父に嫁ぐ前の名前はシンシア・アウローラ=ルカと聞かされているし、ルカ家であった葬式にも幼少期に出席している。

 ルカ家の養女であったと聞いたことがないのだ。

「シンシアさんは元々アシュミストの出ではないのですよ。シンシアさんは古都クシュランエにあったマンデッリ家の出身です。親族がなくなったのを気にルカ家の養女として招かれ、ディオス君の実父であるバンビ・マルキ=ジェンティーネ氏と婚約されたのです」

 戸惑うディオスにレオナルドがシンシアの本当の出身と身の上を教えた。

「お調べになったのですね」

「すみません。こちらの事情でどうしても調べなければならなかったのです。気に触れてしまい申し訳ございません」

「構いません。それはユリが拐われた件と関係があるのでしょう?あの人、バンビが関わっているのなら」

 シンシアが口にすることが今回あった悪魔の騒動に触れていることにディオスは驚きっぱなしである。

「何故そう?」

「ディオがバンビのことを尋ねた時から薄々感じていたのです。本当は死んおらず何らかの形で生きていたと。ですが、あなた方死神が関わっていたということは、人ではない何かになっていたということですね」

「そこまで……」

 ディオスが言った一つの疑問にシンシアが端的ながらも悪魔の存在も知っており、そのことだけで一部ではあるが真相に達していたことに死神2人が驚く。

「……最後は?」

「こちらで刈らせてもらった」

「そうですか。バンビなら人を傷付ける行為を何としてでも止めろと仰有るはず。恨みは毛頭ありません。お止めくださりありがとうございます」

 バンビの本当の最後を聞いたシンシアは深く頭を下げた。

 ここまできっぱり気持ちも含めて言い切れるシンシアにやはり死神2人は僅かに戸惑う。

 刈ったと言った時点で罵声を浴びせられても仕方ないと思っていたのだが、意に反したシンシアの反応は予想外であり、芯が強いことが伺える。


 シンシアが実父であるバンビのことに頭を下げたのを見たディオスは最も気になっていることを尋ねた。

「ですが母さん、どうして死神のことを?母さんのお祖父様がどうして?」

「ネイチャーお祖父様にはある体質があったのです。目に見えず、人ならざぬ存在を引き付けるという体質を。その為にネイチャーお祖父様の周りでは不可解なことが起こり続けたようです。その為に『厄をもたらす者』と幼い頃に言われていた様です」

 それを聞いたディオスは驚愕した。

 目に見えない存在を引き付けるというのは恐らく生霊リッチのこと。そして、人ならざぬ存在は悪魔や不死者アデッドのこと。つまり、天族ケエルが指摘したディオスの体質と同じものであった。

「体質に悩まされていた時に現れたのが死神だったそうです」

「なるほど。その時に」

 話を聞いていたレナードが感慨深く頷いた。

「それで、その死神は何を?」

「ネイチャーお祖父様の体質がどういうものか、どういった存在が引き寄せられるのか仰られたそうです。そして、体質をなくすることは不可能でも認知されにくくすることは出来ると仰られこれをお渡しになりました」

 そう言ってシンシアは首に手を回すと、下げていたペンダントを取って見せた。

 ペンダントの飾りには金色の土台に小さな赤い宝玉が埋め込まれていた。

「ネイチャーお祖父様はこれを肌身離さず持っていました。そして、今は形見として私が持っております」

 シンシアは目を細め懐かしむように見るが、レナードとレオナルドは何かを納得した様子で言う。

「なるほど。だからか」

「これで全て分かりましたね」

「分かったって何がですか?」

 2人の話が耳に入ったディオスが尋ねた。


「はい。始めに申しますが、グランディオさんが悪魔に殺されていたことを私達は知っていました」

 死因を知っていたと言うレオナルドにディオスは何故と言いたくなったがすぐに思い当たる。

「もしかして、遺体を処置した時に?」

「はい。ですが、あの時はどんな悪魔の仕業か分かりませんでした」

「レオナルドから知らせを聞いて数日警戒をしたんだが、悪魔を見つけ出すことは出来なかった」

 そうして、今回の騒動に繋がったと謝罪をする。

「しかし、今回の件で分からないことがあったのです。ディオス君、そして、シンシアさんとユリシアさんが生きているということです」

「どういうことですかそれは?」

 レオナルドが分からないと言った意味にディオス食らい付く。

「悪魔となったバンビの不可解な点です。ディオス君を殺したら次ぎはシンシアさんと仰っていましたね?ですが、グランディオさんを殺した時に殺してもいいはず。何故そうしなかったのか」

 そこまで言われてディオスは背筋が凍りつく感覚をいだいた。

 確かにグランディオが亡くなったときに殺されていてもおかしくなかったのだ。

 グランディオだけを狙ってとは思えない。誰かに邪魔をされたのではその相手を殺してから当時は何も知らなかった自分達にも手を出していたはず。

 今になって殺されていてもおかしくない状況にあったことがなかったことを疑問に思う。

「防がれていたのですよ。シンシアさんが持つペンダントによって。それは一定範囲から悪魔や生霊に存在されなくなるのです。つまり、その範囲にいたディオス君達は悪魔となったバンビが見つけ出すことが出来ずに諦めたのです」

「そして、グランディオだけが殺されたのですね」

 ペンダントにより命は助かったがグランディオだけが範囲にいなかった為に亡くなってしまったのだとシンシアが口を閉ざす。

「それともう一つ。ディオスにもネイチャーと同じ体質があるにも関わらず何事もなかったのもこれで説明がつく」

「ディオにも同じ体質があったのですね」

 明かされていくペンダント効果とディオスの体質にシンシアは気持ちが複雑になりながらも言わなければならないことがまだあるからと口を開く。


 それはネイチャーからの遺言であった。

「ネイチャーお祖父様は亡くなる際にペンダントを渡す際に仰っていました。もしも同じ体質の者が身内に現れたのなら死神を頼りなさいと」

「その時に死神のことをか」

「幼い頃に何度も聞かされていましたが、詳細に聞かされたのはこの時が初めてで最後でした」

 そう言ってシンシアはレナードをまっすぐ見た。

「ディオがあなた方と共にいるということは死神になるということですよろしいでしょうか?」

「ああ。ディオスも最近だがそのつもりでここにいる」

「そうですか」

 レナードの言葉を聞いてシンシアはディオスを見た。

「死神とは危険が付き物と聞いています。その危険がどういったものか私には分かりません。ですが、それでもなるのですか?」

「はい。既に決めたことです」

 シンシアの言葉にディオスはすぐに答えた。

 恐らくシンシア以上にディオスが身をもって死神の危険性を知っている。悪魔等から存在に認知されにくいペンダントと同じものを作ってもらえればディオスは死神として歩む必要はない。

 だが、ディオスは既に死神になることを決めていた。それが、多くの人を救うと信じているから。

「そうですか」

 ディオスの決意ある言葉を聞いてシンシアはレナードとレオナルドが見える様に体の位置を変えた。

「どうかこれからディオスをお願いします」

 母親としての心配はある。けれども息子が歩むと決めた道を止めようと思わなかった。

 シンシアはレナードとレオナルドに向けて頭を下げた。

死神の葬儀屋始まって以来、最大の文書量です。

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