疲労困憊の死神集会
翌日。モルテを除く死神、弟子、天眷者がエノテカーナに集った。
「集まったな」
レナードの言葉で死神集会が開始された。
「まずは全員の気力がギリギリとなる状況になったがよく頑張ってくれた」
「あんなに力を削ったのは初めてだぞ」
「正直、私が記憶している中でも今回は一番です」
レナードが今回の騒動の対応を讃えるも、レオナルドとアドルフがこりごりと呟く。
レオナルドとアドルフは悪魔の力により地下水路から山まで繋がってり、出口から吹き出す水を処理していた。
だが、溜められていた水が数十年と水量が多く明け方まで対処することになったのだが、その作業に力の殆どを使い、しかも死神の力だけなら精神的にと言いたい所だが、それによって生れた副作用によって身体的にも疲労が溜まってしまい、未だに疲れが取れていない。
そんな2人に同意とクロスビーが介入する。
「それは分かります。ですが、私は皆さんと違い終わった直後に倒れています」
「あれは仕方ないだろ。レナードだって範囲が広かったからそこまで手が回らなかったんだ」
「むぅしろぉ、レナードがぁ対処出来ねぇってのが珍しいよなぁ」
クロスビーを庇護するガイウスとアドルフだが、弟子組が言われてみればとレナードを凝視する。
「えっと、範囲ってどれくらいですか?」
「アシュミストと周辺。それに地下水路から近くの山まで繋がっている周囲だ。もちろん山まで展開していたが、距離に換算するのが面倒な程の広範囲だ」
「うっわぁ~」
アンナの質問に答えたレナードの予想以上の広さに弟子組から絶句が出るが、それだけの範囲を領域で囲むことが出来ても探知まで回らなかったことにレナードにも限界があるのだとほんのかすかではあるが安堵してしまう。
「しかし、私が力不足であったことは事実であり、痛感しております」
「まぁ、こぉ~んかいはぁ仕方ねぇってことでぇ割りきれぇよぉ」
他人事の様に言うガイウスであるが、気遣ってのとであるから悪気はない。
「割りきる、とまではいかないがクロスビーがいてくれたことには感謝している。いなければ俺一人で関知しながら潰していくことは時間や気力に力も尽きていたしガイウスには到底不可能だ」
「たぁしかにぃ事実だがよぉ~」
レナードにはっきり無理と言われてガイウスが意気消沈する。
「あの、レナードさん達が地下水路でやっていたことは分かりましたが、父さん達は一体何をしていたんですか?」
父親であるレオナルドが普段見せない様子にアリアーナが心配して尋ねた。
悪魔により深手を負っていたアリアーナの傷はクロスビーの天眷術によりディオスと共に傷痕もなく完治している。
アリアーナが負った傷は深かったこともあり、本人が気付かない内に一番に天眷術をかけられている。
もっとも、クロスビーが気が付いたのが夜明け前であり、しかも疲労が溜まっているとことで天眷術の威力は極端に落ちていたことで治るまでに時間がかかってしまったが。
ちなみに、クロスビーが起きなければリーヴィオを呼べばよかったのではと思うかもしれないが、ユリシアを運んだことと事情を説明してからの治療と別のことで忙しくなっていたリーヴィオは例え呼ばれても向かうことは出来なかった。
その為にロレッタ、フランコ、エミリアの医学生組がディオスとアリアーナの応急処置をしただけでなく、徹夜で面倒を見たりと悪魔の対処が終わってもなお懸命に対応し続けていた。
アリアーナの質問にレオナルドは疲労を浮かべながらも何をしていたのか教えた。
「領域で雨雲を作っていたのです」
「領域で雨雲って!?まさかあの時の雨って」
「ああ。俺達が降らせていたものだ」
雨が降ったことが死神の仕業であることに驚くディオス。
「でも、領域でどうやって……?」
「領域・改変ってやっだ」
「領域・改変?」
ディオスの疑問にレナードが答えた。
領域・改変とは領域内にある物を別の存在に変えること。
分かりやすい例を上げるなら水を氷にしたり蒸気にするというもの。複雑なものになれば水を分解にして水素と酸素に分ける離れ業もある。
領域・変質に似ていると思われるが全くの別物である。
領域・変質はそこに存在しない物や現象を作り出す為に力の消費が激しい。また、領域・変質を習得するには領域・改変で物体の物理構造や原理を知識や直感で知らなければならない。
つまり、領域・改変は領域・変質の簡易版なのだ。
そして、レオナルドとアドルフが領域・改変で行ったのが、水を雨雲にするというもの。
本来、水を蒸発させただけでは雲にならないのだが、領域で作り替えていることで水量が多い以外は難なく変えることが出来、一日経とうとしているのに未だに雨が降り続いている。
「なるほど……」
レナードから説明を受けたディオスだが、改めて領域がとんでもないものであるも痛感する。
「しかし、これで地下水路の問題も解決している」
「でも、仕掛けた悪魔が分かってないですよね?」
レナードがこの件を括ろうとしたのにエミリアが追及する。
「そうだが……」
「それとは別件だが、あそこは何度も悪魔の隠れ場所になっていたようだ」
「本当にアドルフ」
「いいや、何度もというわけではないな。最低でも三度、あそこに悪魔は訪れていることになる」
早朝に一度死神が集い、解散後に再び地下水路へ赴いたアドルフが思いもよらないことを言った。
「俺の方の件になるから詳しいことは省くが、悪魔が俺達に気づかれずにいたのは恐らく、渦を隠す力によるものだろう。それでいいかレナード?」
「ああ。渦を隠す力が悪魔の存在も隠すことになった」
悪魔が隠れていられたのがそういうことだと認識を共通させる。
「三度というのは、あそこに渦を作り出した悪魔と今回の悪魔。そして、俺が追っている悪魔だ」
「アドルフが追っている悪魔って?」
何で三度と思っていたが、アドルフが口にした言葉に死神が食らい付く。
「その事は今はいいだろう。話を戻すぞ」
この場で話すことではないとアドルフが強制的に話を変える。
「リーヴィオ、ディオスの妹は?」
「命に別状はない。夕方頃に意識を取り戻した」
「本当ですか!」
リーヴィオの報告にディオスが食いついた。
何しろ、ユリシアが運ばれた病院に行くと身内であっても面会謝絶を言い渡され容態が知らなかったのだ。
「だが、飲まず食わずでいたから衰弱している。しばらくは安静が必要だ」
しかし、次いでに言われたリーヴィオの言葉にユリシアの容態が予想しているよりも悪いと知る。だが、それも完治可能の範囲であるのが救いである。
「それはそうと、結局悪魔は俺達が関わることなく終わったんだな?」
死神が地下水路の対処に追われている間に悪魔を対応していたディオス達(刈ったのはマオクラフ)が対処をしてしまったことを確認する。
「ええ。本当によくやったとしか言えません」
仮に地下水路の対処が早く終わっていたとしてま力を極限にまで使い疲労困憊のまま赴いていたら悪魔を刈るどころか逃してしまうとも考えられる。
悪魔の対処をしていたマオクラフを除けばガイウスとリーヴィオなら悪魔を逃がすことなく対処出来ただろうが、両手が塞がっていた様なものであるから手助けは厳しいだろう。
様は、小さなことに大きな労働と力を強いられてしまったのだ。
そう言った点を見てしまうと、誉められることではないが弟子組の奮闘はよくやったと言える。
「色々工夫したってのもあるけど、父さんから借りた道具が役に立ったよ」
「殆ど試作だが……どれが役に立った?」
「小さな小箱かな?あれは話したけど応用が利きそうだよ」
小さな小箱とはディオスとファズマが悪魔と対峙する最中に現れた箱である。
あれは領域の応用が含まれており、箱の中に入れる、入ると箱と箱を移動できる。そして、箱をぶつけることが出来る。
なお、箱をぶつけることは当初予定をしていなかったのだが、ディオスがやったことで出来ることが広がったのだ。
だが、領域の応用とは言うが道具が作り出しているものであり、箱の強度は弱い。
まだまだ改良点が豊富なのだ。
「そうか」
しかし、それでも効果があったことは喜ばしくレナードは納得する。
「改めて今回の件はよく頑張ってくれた。皆疲れているだろうからこれで終わりとする」
レナードが解散を言い渡すと殆どがまっすぐに扉へと向かう。
「ディオス」
直後、レナードはディオスを呼び止めた。
「悪いが明日、同じ時間に店に来てくれるか?」
「え?は、はい」
一体どうしてと思いながらもディオスはぎこちなく頷いた。




