霊剣の力と存在意義
「お疲れさん」
「マオクラフ」
領域でディオスとファズマの元まで飛んだマオクラフは一声かけると改めて様子を見る。
「ずっと見てたけど、何て言うか……すごいな……」
先ずはそう言うのが精一杯であった。
ずっと領域で戦いを見ていたことといつでも参戦出来るように構えていたマオクラフであったが、戦いは終わり、どれだけ奮闘したのかが2人の格好を見れば分かる。
「それはそうとディオス、あれって本当にディオスか?平然と霊剣振るうし悪魔の返り血浴びても立ち向かったりするのは?」
「あ、あれは……その、負けたくないって思っただけで……」
「何だよそれ……」
ディオスの変り様は見ていたマオクラフでさえも困惑していた。例えそれが無我夢中であったとしても何処に必死に敵に立ち向かい、返り血を浴び続けることを厭わない酔狂者かと問いかけたいものである。
その予想以上の奮闘と言う狂いぶりにファズマとマオクラフの中ではあることに対して意見が一致していた。
(あまり戦いに出させるわけにいかないな)
ディオスは一度決めたことをやり遂げようとる傾向にある。それが今回の戦いにおいて躊躇ない様子に見えただけでなく、何度も危険な目にも合っているのだからまだ命の重さを軽く見ている節があるのではと思ってしまう。
いくら前もって策を講じて準備をしてきても戦いが始まってしたえば完全ではないし優位に進めるわけでもない。
必要と言うよりは望んでということもあるが、無意味やたらにディオスをしばらく戦いに参戦させるべきではないと考える。
「とりあえず先に戻れ。俺は道具の回収と後片付けをしてから戻る」
マオクラフは頭をかきながらディオスとファズマを先にエノテカーナへ向かわせようとする。
「それなら俺も……」
「ディオスは悪魔と戦って散々怪我してるだろ?我慢してるの分かってるんだからさ」
悪魔との戦いで体の至るところが悲鳴を上げていて、本当は立ってるのがやっとであのをマオクラフに見抜かれてディオスは口を閉じた。
「少しはファズマを見習えよ。どうやったら怪我しないように動けるのか考えているんだからさ」
「そこで俺に振るなよ」
話を降り向けられたファズマは嫌な顔を浮かべるが、実際にファズマは無傷である。
「父さん達の方も終わっているからクロスビー司祭に傷治してもらえ。と言うか、行け」
そう言ってマオクラフは領域で2人を強制的にエノテカーナまで飛ばした。
「ふぅ。さてと……」
マオクラフは一息入れると倒れている悪魔を見下ろした。
「どうだ、動けないだろう?」
ディオスが倒したはずの悪魔に向けて問いかける。
すると、倒されたはずの悪魔が顔だけを上げて悔しそうにマオクラフを睨み付けた。
「喉切られているから声は出せないか。でも、そんなに切られたのに生きているってのは、やっぱり霊剣じゃ切れ味悪いか」
やれやれと首を振るマオクラフを見上げるようにして声が出ない悪魔はそれでも何かを言い続ける様にして口を動かすが、残念ながら掠れてしまい聞き取れない。
「ディオスに気づかれないように縛り付けるの大変だったんだからな。まあ、ディオスの目が覚醒してから時間が経っていなかったから出来たことだけど。ファズマは気づいてたけど隠してくれるか」
そう言って、立ち上がろうとする悪魔をマオクラフは前もって領域で作り、今も悪魔を拘束している縄の本数を増やし、更にキツく締めた。
「油断も隙もないな。やっぱり俺が刈らないと駄目か」
仕方ないなとマオクラフは月鎌を出現させると穂先を悪魔へと向けた。
「ディオスの奮闘は予想外だったけど、お前が生きていたのは予想通りだったな」
そう言って悪魔へと月鎌を突き刺し、今度こそ悪魔の息の根を止めた。
それを確認するとマオクラフは領域を解除して立ち上がって後片づけを始めた。
「やっぱり弟子だけじゃ下級の悪魔の対処は難しいか……不死者は問題なく出来るけど、生霊は……ギリギリか」
今回の戦いはマオクラフにとって色々と収穫があった。
弟子組が前に比べて実力が上がっていたのだ。
「ロレッタは元々いつ死神になってもいいし、ファズマとアリアーナとアンナもそろそろ死神になれるか」
何度も危機的状況になりながらも立ち直れたのは死神になってもいい実力者が4人いたことが大きいと考える。
「だけど、やっぱり攻撃力不足か」
それでも死神なら回避出来る様な状況が対処出来ずにずっと引き伸ばされてしまった。
死神でないから仕方ないと言えるが、その仕方ないをマオクラフは理解していた。
「やっぱり霊剣だな……」
死神が弟子に与える霊剣は死神の武器と同じく肉体と魂の繋がりがを刈ることが出来るが、死神の武器よりも劣っている。
そもそも霊剣は悪魔や生霊と本格的に戦うことを目的としておらず、死神の力に慣らせるのが目的であるのだから本来なら悪魔を霊剣で刈り取るのは不可能に近い様なものなのだ。
霊剣は生霊か不死者となる前の遺体の繋がりなら問題なく刈り取れるが、なってしまった後では余程実力をつけなければ切ることが難しい。
だから殆どは死神の弟子であるという象徴と護身用の様なものだ。それにより生霊や不死者に悪魔とやり過ごすことが出来るのだが、死神よりも劣っている為に戦力としてはあまり期待出来ない。
その結果はご覧の通りで、最後にマオクラフが刈り取っている。
例として上げられるのは教皇選挙で死神であるラルクラスが弟子であるユーグを死神にしたことだ。
霊剣のままでは悪魔の対処が出来ないことから前倒しにして死神となったのだがその選択は正しく、ラルクラスを求めて侵入してきた下級悪魔を霊剣では手こずる所を死神の武器で撃退出来ている。
更には身体能力も霊剣を持っていた時よりも上であることと手ほどきを受けたことで成り立てながらも対処出来たのだ。
「後は死神の目だな。ディオスの目が繋りまで見えてなくて良かったよ。見えてたら生きてるってこと気づいてたし、いくら丈夫で見えないように領域を展開したからって見えていたら責められてたしな」
悪魔が生きていることにディオスが気付けなかった理由として死神の目の力を使いこなしていなかったことが大きいが、それによってマオクラフが秘密裏に処理出来たとも言える。
「観察力あるから心配だったけど、気づかれなくてよかったよ、本当に」
出来るだけディオスをこの場所から遠ざけようとしていたマオクラフは後片付けの為に残ると言った時はハラハラした。
何とか領域で強制的にエノテカーナまで飛ばしたことでこのことに関して気づくことはないと思うが、妙に罪悪感はある。
「ディオスにバレないようにしないとな」
しばらくは細心の注意をすると決めた。
「よし、これで最後」
独り言を呟きながらもマオクラフはせっせと手を動かし続け、最後の死神道具を回収した。
「さてと、戻るか」
悪魔の遺体も回収したマオクラフは領域でエノテカーナへと飛んだ。




