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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
12章 覚悟と霊剣
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霊剣

「何だ!?」

 マオクラフは河向こうから感じ撮った膨大な力に驚愕して意識を逸らしてしまった。

 力を感じたということはレナード達がいる場所しか考えらず、何かが起きたということ。

 一体何が起きたのかと頭の中がそれによって埋まってしまう。

 その一瞬が悪魔に隙を与えた。

「しまった!」

 領域から見えていた悪魔が意識が逸れた間に飛び上がっており、ディオスへ急降下して近づくのに気が付きマオクラフは慌てて意識を戻した。


  ◆


 その頃ディオスは息を切らしながらも何とか走っていた。ただただ足を止めまいと、今は悪魔から逃げ切ることが務めであると気力で走っていた。

「そこか」

 そんなディオスに悪魔の魔の手が伸びてきた。

 悪魔はディオス目掛けて急降下した。

 空気を裂くような音が聞こえただけでなく迫り来る危険を感じたディオスは振り返った。

 両手を無くし異形と化した悪魔がそれでも捕まえようとして腕を伸ばし、白い馬の前足に蹴られて飛ばされていくのを。

「えっ!?」

 危機的状況のはずが何処からともなく白馬が現れただけでなく宙を浮いていることにディオスは唖然としてしまい足を止めた。

「ディオ、大丈夫?」

「ミク!?」

 追い討ちをかけるように白馬にはミクとレオナルドが股がっており、ありえない登場の仕方にディオスは叫んだ。


  ◆


「何処から現れた馬ぁぁーー!!」

 もちろん、慌てて対処しようとしていたマオクラフも突然現れた白馬に驚愕して叫んだ。

 しかも、見ていただけでなく周囲に気づかれないようにと領域を展開していたにも関わらず白馬が悪魔を蹴り飛ばすまで存在に気づけなかった。

「何なんだあの馬……」

 突然現れたことでも驚きなのに何故かエノテカーナにいるはずのミクとレオナルドを乗せて飛んで現れたのだから唖然としてしまう。

『聞こえますかマオクラフ?』

 その時、レオナルドから領域による連絡が入った。

「レオナルド、あの馬は……」

『モルテの馬です。あと、集中が切れかけているのも分かりますがディオスが1人になった時に注意をしなければなりません。私達が来なければ殺されていましたよ」

「……はい」

「この中ではマオクラフだけが死神なのです。皆の命を預かっているのを分かっていますか?気を切らしてはなりません』

「はい。肝に命じます……」

 レオナルドからの説教にマオクラフは申し訳無さ一杯に謝罪をした。


  ◆


 レオナルドがマオクラフに向けて説教をしている間、白馬ことホメロンはディオスの近くへと着地した。

「ミク、この馬ってもしかして……」

「ホメロンだよ!」

「やっぱり」

 空飛ぶ白馬はホメロンしか知らないディオスはやっぱりと思った。

「それよりも、何でホメロンに乗って?エノテカーナにいたんじゃ?」

「エノテカーナに現れたのです。どうやらこの馬はディオス君を探していたのでここまで案内したのです」

 ディオスのもっともな疑問にレオナルドが簡素に答えた。


 ディオスの元まで訪れる間に色々とあった。

 ホメロンに乗りたいとミクが出て行ってしまいレオナルドが探していると、ホメロンがミクを乗せて引き返して来たのだ。

 最初はミクを連れて来てくれたのだと思ったのだが、ホメロンは動きでエノテカーナから持ち出した箱を馬具に結び付けて欲しいというのとディオスを探しているのだと伝えてきたのだ。

 分かるような分からないような動きなのだが、何故かミクが意味を理解し、それにホメロンが頷くという妙な連係が取れていたことにレオナルドは茫然としながらも要望通りにした。

 そして、ホメロンをディオスの元まで案内しようとしたのだがミクが付いて行きたいと我が儘を言ったことでそのままホメロンに乗って来たのだ。


「俺を?どうして?」

 ホメロンが探していたということにディオスは疑問符を浮かべた。

 その言葉にホメロンは箱を吊るしている胴体の反対側を向けた。

「それはこれを届ける為です」

 レオナルドはホメロンから降りると馬具のポケットに手を入れて布に包まれている物を取り出すとディオスに渡した。

「これは?」

「開けてみなさい。それはディオス君の物です」

 受け取ったディオスは戸惑いながらも包まれている布を開けると、一本の短剣であった。

 形はディオスが知る短剣とは異なっているが長さは明らかに短剣に入り、柄と刃の境目に小さな赤い宝玉が埋め込まれていた。

「レオナルドさん、これは……」

「それは霊剣。死神になる弟子は師となる死神から霊剣を授かります。この霊剣により弟子は死神程とは言えませんが繋がりを刈り取ることが出来ます」

 つまりは死神の弟子を証明するものであり、とてつもない代物にディオスは心の底で動揺する。

「ディオ?」

 ディオスの僅かな異変に気がついたミクが不安そうに見つめる。

 レオナルドはディオスの気持ちを察して語りかけた。

「とんでもないものを受け取ってしまい怖いと思っていますか?」

「……はい」

「確かに、霊剣は簡易的な死神の武器とも言えましょう。その危険性はご存じの通りです。ですが、死神の武器とは違い刈る力が弱い為に切りにくいです」

 死神にとって霊剣はよく切れない刃物と認識している。けれども、弟子の段階ではこれでも切れることと死神の禁忌に触れないことから鋭さは十分と認識している。

「しかし、霊剣は悪魔や生霊リッチから身を守る為の武器でもあります。死神になる前に力の恐ろしさを知り受け入れる必要があるのです。力を知り、受け入れ己の物とする。怖い力と思いながらも皆が覚悟を持って霊剣を握っています。今も。そして、死神である私達も力の恐怖を片時も忘れていません」

 そう言われてディオスは気がついた。

 エノテカーナにいる時に皆がモルテから何かが送られて来るのを待っていたのを。そして、それがなければ不安であると呟いていたのを。

 それが霊剣であると知るが、ディオスは本当に受け取っていいのかと躊躇う。

「俺が、これを受け取っていいんですか?」

「ディオは師匠の弟子になりたくないの?」

「そういうわけじゃないんだけど……」

「モルテが渡してもいい。そう思って霊剣を準備したのです。受け取りなさい」

 レオナルドが促すがディオスは複雑そうに霊剣を見つめ、包んでいた布を 強く掴むと、霊剣とは違う感触を感じた。

 何かと思い霊剣を上げると、真下に小さな紙切れがあった。そして、そこに書かれた一文が目に入った。

 たった一文。それなのにディオスの胸に深く突き刺さり、不思議と先程まで抱いていた感情が晴れていく。


 ディオスは目を閉じて数秒後、目を開けて短剣を握った。その瞬間、体が軽くなる感覚を抱いた。

「それなら悪魔と戦うことになっても問題はありません」

 ディオスの驚きにレオナルドは先に言うと連絡が入ってきた。

『レオナルド、すまないがこっちを手伝ってくれないか?領域は使えるからすぐに飛んで来てくれ』

「分かりました」

 どうやら地か水路の方で人手が必要になったと理解するとマオクラフへと繋げる。

「マオクラフ、そちらは?」

『フランコとファズマが足止めしている』

「分かりました。霊剣が届いたとことを皆さんに伝えてください」

『ああ』

 この後のことはマオクラフに任せるとレオナルドはミクに言う。

「それでは帰りますよ」

「えぇぇぇ!」

「えぇではありません。ホメロンは用事を終えていないのですから邪魔をしてはなりません」

「うぅ……」

 物足りなさを膨らませるミクだがホメロンはしゃがむと降りろと促す。

 それでも降りないミクをレオナルドが抱き抱えてディオスに一声かける。

「健闘を祈ります」

 そう言って領域を使って姿を消した。

 ホメロンはミクとレオナルドがいなくなったのを見届けるとすぐさま通りを駆け出しあっという間に見えなくなってしまった。

 残されたディオスは握りしめている霊剣を鞘から半分抜いた。

 霊剣の刃は鋭く、顔が映るほど輝いていた。それは、いつの間にか安定していた死神の目により暗闇であるにも関わらず見えていた。

 ディオスは霊剣を持つこと。その意味を反復、深呼吸をすると鞘から全てを抜いた。

結局、この3日間は予告した通りの投稿時間に更新出来ず……


明日から元の時間に戻ります。

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