弟子組の戦い
お久し振りです。
新住宅街へと走るディオスとフランコにマオクラフの領域を通じてファズマから連絡が入った。
『ディオス、悪魔がそっちに行った!』
「分かった!」
ハッキリと答えたディオスであるが鼓動が高鳴る。
思っていたよりもファズマは粘っていたかもしれない。けれども今のままで新住宅街にたどり着けるのかと不安になる。
「大丈夫だよ」
フランコがそんな心配をしたディオスを感じて声をかける。
何故、と聞こうとするとフランコは何処へともなく声をかけた。
「悪魔との距離は?」
『近づかれているけれど、まだ離れてる。しばらくは問題ない』
「分かった」
マオクラフの言葉はフランコが思っていた通りであり、ディオスにほらねっと視線で伝えた。
「だけど、ここで追い付かれたら……」
しかし、ディオスの不安は消えない。
予定では新住宅街で悪魔を引き付けるのだが、橋を渡るまでに足止めをする弟子組はいない。いや、ファズマが役目を担っていたのだが距離と時間を考えると心許ない。
「それは僕達が頑張るしかないよ」
どうやら努力で乗り切るしかないのだと悟る。
「それに……」
そう言ってフランコが視線を向けた先には橋があった。
「もう少しで向う側だ」
話している間に新住宅街へと近づいていたのだ。
そうして、2人は悪魔に追い付かれることなく橋を渡ると新住宅街へたどり着いた。
「後は悪魔が追って来るのを待つだけだ」
足を止めて休憩がてら悪魔が見えるのを待つ。
そんな主導権を握っているフランコにディオスは僅かな疑問を浮かべる。
「何だか慣れていますね」
「いいや、緊張しているし正直言って恐いと思ってるよ」
「でも、それにしては落ち着いている感じが」
「慎重になっているの勘違いじゃないかな?」
そう言ったフランコの表情はその通りに頬笑むどころか笑みすら浮かべられず僅かに張っている。
「それに、これは僕にとって初めてのことだ」
「初めて?けれど、あの時は悪魔に立ち向かっていたはず」
「うん。だけど、今回は少し違うな。先生達の力を借りずに悪魔とどれだけやり合う分からないから。だけど、いつかこんなことがあると思っていたし覚悟もしていた」
何気なく言うフランコだが、その裏に潜む思いをディオスは理解していた。
それは倉庫街であった火災。
あれは生霊による仕業であったが弟子組は避難誘導しか出来ず、その時はまだ弟子になっていなかったディオスが二重の幻影者によってディオスが負傷してしまった。
弟子だから何も出来ないではいけないと感じて話し合いでやれること、死神から頼られるようになろうと努力し、同時に強くなることも決めていた。
しかし、それが今回のことに繋がったとは思っていない。けれどもチャンスであるとも感じ、失敗することも出来ない。
やれることは一つだけ。二度とこうすれば良かったと後悔しない為に。
そんなことを思い浮かべていると橋の奥から影が見えた。
瞬間、ディオスとフランコは身構えたが、徐々に近くなりつつある影に驚愕してしまう。
「早くないですか!?」
「早いね」
焦って話すディオスとどこかゆっくりしたフランコの対照的な言葉の早さであるがどちらも余裕がなくなりつつあった。
それもそのはずで、迫り来る悪魔が猛スピードで迫って来ているのだ。
まるで暴れた闘牛が迫り来る迫力である。
「逃げよう!」
そして、フランコが言うまでもなく悪魔から逃げる様にして走り出した。
◆
悪魔がディオスを見つけた瞬間にスピードを上げて、そのまま橋を渡って行くのを見たマオクラフはすぐさまレナードに連絡を入れた。
「悪魔が新住宅街にたどり着いた。そのまま侵入!」
『分かった。ここからが本番だ。頼むぞ!』
「ああ!」
そう言って共にいるロレッタを見る。
「そっちは?」
「待って」
マオクラフに短く返したロレッタはマオクラフの領域を使って定位置にスタンバイしている弟子組に連絡を入れて現状を伝える。
『マオクラフ!悪魔が速すぎるんだけど!』
「俺だって予想外だよ!とにかく逃げろ!」
『何で投げやり!?』
突然入ってきたフランコからの連絡に今の時点では手出しが出来ないからと伝える。
「現在地は?」
「メログラーノを真っ直ぐに進んでいる」
「それならそのまま行って。そしてフィーコに向かってと伝えて。アリアーナはメログラーノで悪魔の足止めをお願いね。エミリアとアンナはフィーコで合流ね」
ロレッタはマオクラフに伝えるとそのまま待機していた3人に指示を出す。
マオクラフも口答えせずロレッタの考えを飲んでディオスとフランコに伝える。
「これは、思っていたよりも厳しいな」
悪魔の様子が尋常ではないことから予定していた時間よりも極端に短くなると危機感を募らせる。
最悪、自分も出なければならないと思うがそれは弟子組だけでは本当にどうしようもないこと。まだ出るべきではないと堪える。
「ロレッタ。エミリアとアンナは?」
「今向かっているわ」
「分かった」
何とか粘るしかないと難しい表情を浮かべながら気を引き締める。
弟子組の戦いは始まったばかりである。




