警察からの依頼
モルテは天井に突っ込んでいるマオクラフをそのままにして仕事場と店内を遮るカーテンを閉めて三人がいるテーブルへと近づいた。
「コーヒー」
モルテの言葉にファズマは何も言わずコーヒーが入ったカップを渡した。
モルテはカップに口をつけコーヒーを一口飲んだ。
「紹介状、クラウディアさんの所でした」
「またあいつか……」
何度もクラウディアと言う人物の所から紹介として何人も訪れたのだろう。モルテの表情がこれでもかと言いたいほど不機嫌だ。
「それでどうしますか?紹介状は手元にある。働きたいと希望する人もここにいる。面接しないといけませんよ」
どうするかとモルテに尋ねるファズマをよそにディオスは今までの様子から「帰らせてください!」と心の中で呟いていた。
モルテはカップをテーブルに置くとファズマに手を伸ばした。
「破く」
「ダメです!それじゃ今まで通りです!一応、面接をしたってクラウディアさんに伝われば職安の案内は下げられると思うけど」
「……それもそうなだ」
二人のやり取りにディオスは言葉を失った。
無理もない。面接はするが落とすと本人の前で言っているようなものだ。
そもそも、雇わないから案内が出されているんじゃないかと突っ込みたくなる。
(利用されるだけ利用されるんじゃないか!)
ディオスは絶望と憤りを感じた。
やっぱり葬儀屋を希望したのは間違いだった。改めて思った。
カラーンとドアベルが鳴り店の扉が開いた。
「店長はいるか?」
入って来たのは焦げ茶色のスーツを着た顎ヒゲと眼鏡をかけた黒髪の男。
しかし、それだけではない。胸元のピンバッジを見たディオスは男が何の役職に就いているのか分かった。
(警察!?)
どうして警察がここにと考えた。
もしかして、向こうの仕事場に頭が天井に刺さっている郵便配達人を探しに来たのではないか。もしそうなら同席している自分も関係者として捕まるのではないかと汗が流れる。
「アドル。私ならここだ」
そんなディオスをよそにモルテは仕事で訪れた警部アドルフ・クアドリオ・ネツァクに声をかけた。
「モルテ、仕事を持って来た」
「昨夜の死人か?」
「話が早くて助かる」
二人の会話に昨夜と聞いたディオスには心当たりがあった。確か、倉庫街で二人死んだと葬儀屋フネーラに向かう途中に耳にした。その事ではないかと考えた。
そんな事を考えているとアドルフが店内にいるディオスに気がついた。
「先客か?」
「面接者~」
アドルフの質問にモルテが言う前にミクが答えた。
モルテなら違うと言うと次に厄介者、もしくはそれに類似した言葉を言うと思ったからだ。
就職希望で訪れた者を追い返したのを何度も見てきただけあって悲しい事だがこの中で一番年下であるミクでも知っていた。
「追い返していないんだな」
「馬鹿言え!紹介状が今さっき来た以上、面接をしなければならなくなったから座らせているだけだ」
珍しいものを見たと驚くように言うアドルフにモルテは機嫌悪く言う。
「それより仕事だ」
モルテは仕事の内容について促した。
「死体は一人だ」
「もう一人は?」
「署の霊安室だ。前科があったスラムのごろつきだから名前はすぐに分かったんだが引き取り手がない」
「教会には?」
「部下を走らせた。後で引き取りに来てくれ」
「先にそっちを片付けてくれ……か。殺られた者よりも殺った者を先にとは。……当事者は気持ちのいいものではないな」
アドルフの説明にモルテが後に回る者が昨夜見た印象の悪い男の暴力により殺された男と見当を着けて気持ちを代弁者した。
「そうだろうが仕方がないだろう。被害者には遺族がいるからそれなりに時間もかかる。もう少ししたら来るはずだ。細かい事はそっちで相談してくれ」
「それで?」
モルテはそう言うとアドルフに手を出した。
「警察からは?」
モルテの言葉に溜め息をつきながらアドルフはモルテの手に料金が入った袋を置いた。
「ミク、中身の確認を」
そう言って椅子から降りたミクに袋を渡すと、ミクはカウンターへと走り中身が料金通りか確認を始めた。
ファズマも椅子から立ち上がる。
「運ぼう」
「部下に任せよう」
アドルフの言葉にモルテは怪訝な顔をした。
「一人だろ?こちらで運ぶ」
「いや、俺の部下に新しいのが入ったんだ」
そう言ったアドルフにモルテはようやく意図を察した。
「なら任せる」
モルテはニヤリと笑った。
一連の仕事の話を聞いていたディオスは最後の内容が分からず目を丸くしていた。
「ちょうどだよ~」
ミクの言葉が合図となりアドルフは店の扉を開けた。