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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
12章 覚悟と霊剣
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ユリシア奪還作戦開始

 ーーー騒がしい

 地上がうるさくなったと思い悪魔は見上げた。

 見上げた場所は長年隠れていた無機質な天井であるが、悪魔だからか感性は人間以上。加えて浸透させ続けた力によってうるさい原因が何かを突き止めた。

「動いたか」

 ようやく求めていた標的、ディオスが動き出した。加えて死神と弟子達も動き出した。死神と遭遇したならまた逃げればいいこと。弟子なら戦っても負ける気はしないだ。

 目的は眼球。それもいいものを献上しなければならないのだから死ぬわけにいかない。

 目的はディオス。それだけだ。死神が何を考えようが眼球が手に入ればそれでいい。

「そうしたら次は……」

 そう思った瞬間、悪魔は口元を綻ばせ笑い出した。

 ーーーまったく、おかしいものだ!

 頼まれたからだけではなく自身の保険の為に拐った小娘を未だに殺していないだけでなく眼球も奪うことなく放置していた己に笑いがこぼれる。

 本来なら悪魔として頼まれたり保険という理由で殺さないことはしない。けれども未だに殺していない。

 その理由は簡単だ。殺す気がないからだ。まさかここで人間らしい親という感情に躊躇い、娘と認識がない子供を殺められないとは忌忌しいことだ。

 けれども、ディオスを殺せばその気持ちはなくなるはずだ。息子と娘、特に息子が現れ話したことで心が揺れている。

 それもこれも全ては息子が、ディオスのせいである。悪魔である己が子供という理由で揺れ動いてはいけない。

 ディオスを殺せば気持ちは収まり、今まで通りの悪魔でいられる。

「……行くか」

 ディオスを今度こそ殺す為に悪魔は飛び上がった。



  * * *



 ディオスは歩きながら深呼吸をした。肺に入る夜の冷たい空気が溜まる感じがする。

 けれども、その感覚が生きているのだと証明させてくれる。

「緊張してる?」

「……少しだけ」

 そして、隣を歩くフランコにディオスは僅かに強張った表情を向けた。

「初めは仕方ないけど、程々にね」

「……はい」

 そうは言うもまだ緊張しているディオスにフランコは苦笑いをした。


 何故ディオスがフランコと共に行動をしているかというと、作戦を聞かされた時に囮役のディオスを1人にさせたら不安だからと同伴者を付けることになったのだが……

「私がやるわ」

「何言ってるの?ロレッタはマオクラフと同じ遊撃でしょ?」

「何で俺が遊撃って決まってるんだよ?」

「役割が参謀で遊撃だから」

「いや、参謀じゃないし……あと、遊撃って何やらせる気だよ?」

「エミリア、遊撃ならアンナとアリアーナも出来るでしょ?」

「待ってください!これは誰がディオスと行くのか決めるのだから遊撃は関係ないはずです!」

「そうだよ!それこそマオクラフでもいいってことになるんだから!」

「いや、俺が付くって一言も……」

「荒れてるね」

「あのな、ディオスと行動を共にするなら俺だろ?」

「その居た時間が長いからはないでしょ!今は誰が一緒に行くかなんだから!」

「それなら僕が付こうか?もし怪我をしても手当てが出来るし」

「それなら私もよ。医学生なのだから当然よ!」

「私だって出来るわ!」

「ちょっと!手当てなら私達だって出来るよ!」

「いや、手当てだけじゃねえだろ。いざとなったらディオスを守るか逃がすこともしねえといけねんだからな」

「分かってるわよ!」

「おい、いい加減に決めろ!!」

 と、アドルフの怒鳴りによりいつまでに続くのかと思われた弟子組の争いは囮役のディオスと口論に巻き込まれてげっそりしているマオクラフを除いてくじ引きをした結果、フランコが同伴者となったのだ。

 この時にディオスが指名をしていればよかったのだが、レナードから作戦の詳細を聞いていたことで話しに乗り遅れたことと状況不足であった為に下手に選んだらいけないと思い傍観することにしたのだ。


 2人は夜のアシュミストを商業街から新住宅街に向けて歩く。

 次第にディオスの表情が固くなっているのにフランコは気が付いた。

「焦るのは分かるよ。だけど、待つしかないよ」

「……」

 後10分程したら新住宅街を繋ぐ橋に到着する。しかし、未だに悪魔は出ない。

 そのことにディオスが焦るのは仕方のないこととフランコは思った。

 最初の段階で悪魔を地下水路のない新住宅街に誘き寄せるのだ。その際に悪魔を引き寄せなければならないのだが現れない。

 そのことにフランコは内心で焦っている。もしかしたら悪魔は誘き寄せていることに気付いて遠くから見ているのではないかという思いもある。

 だからその事を顔には出さない様に心掛けている。

 しかし……

「大丈夫です。実父は来ます」

「……どうしてそう思うんだい?」

「実父は一度だけ約束を破りましたが、それ以外で破ったことはありません。だから来ます。すぐにでも」

 意外にもディオスが断言して言ったことにフランコは驚いた。

 その時、目の前に人影が現れ2人は身構えた。

「本当に現れた」

 驚きながらもフランコは短剣を持つとディオスの前に立った。


 そして、月明かりに照らされて悪魔は姿を現した。

「見つけたぞ。ようやく目を渡す気に……なったわけではないようだな」

 死神ではなく弟子と行動を共にしている様子からまだその気になっていない、もしくは許されていないと考える。

 とはいえ、死神の弟子であるから力ずくで奪えうことが出来るから大して気にしていない。

「とと様……いいや、悪魔!ユリシアに手は出していないのか」

「出していない。お前の目を貰うまで出す気はない」

 どうやらユリシアは無事であるとディオスは安堵する。

「そう言えば、あの時も悪魔のことをとと様って言ってなかった?」

「昔、実父を呼ぶ時に言っていたんです。それが名残で言ってしまうんです」

「なるほど」

 どうして悪魔に向けて子供が言う様な愛称で呼ぶのか気になったフランコは納得した。

「死神の弟子に用はない。目を渡してもらおう」

 しかし、悪魔はそんな呼び方など気にしておらず、ディオスに目を渡すように迫る。

 ディオスはこのことに許否しようとするが、それよりも早くフランコが口を開いた。

「悪いけどディオスの目は渡せない。それが僕達死神と弟子の総意だ!」

 それはまるでディオスを庇うようにした言い方だ。この様なポーズを取ることで死神はディオスを守っている。欲しければ力ずくでで手に入れろと促している。

 実際にその通りであり、この作戦の要はディオスがどれだけ悪魔から逃げられるかにかかっている。

 悪魔が作戦に気が付いて地下水路に戻るのではという可能性もあるが新住宅街にまで引き寄せれば戻るまで時間がある。それに、ディオスにはその心配がないという意見もある。

 つまり、やるだけ鳥越苦労かもしれないがやらないよりはまし。雰囲気を出せばいいのだ。


 そして、ディオスをただでは殺らせないと悟った悪魔は瞬時に間合いを詰めた。

 あと少し、という所で上空からファズマが短剣を持ったまま落ちて来て悪魔に突き付けた。

 既の所で気が付いた悪魔は途中で止まり後退したが、頬を掠めた。

「チッ!気付いたか!」

 頭目掛けて振り下ろしたのだが頬を掠めただけに悔しがる。

 その隙にフランコはディオスの手を握ると走り出した。

「ファズマ頼むよ!」

「おう!」

「ファズマ……」

「走れディオス!」

 走り去るディオスとフランコを見送りファズマは身構えた。

「貴様……」

 悪魔は頬を切られたことに怒りを見せるが、ファズマはそれが面白いからか顔が笑っていた。

「化けの皮が剥げたようだな、悪魔!」

 短剣を構え対峙する。

 作戦の火蓋は切って落とされた。

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