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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
12章 覚悟と霊剣
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頼まれた物とまだ来ない物

 死神と弟子達が各々やるべきことをやり始めていくらか時間が経った頃……

「……ふぅ」

 レナードが深く息を吐いた。

「苦戦をしたのは天族の結界以来だな」

 ぼやきながらも今さっき仕組と解錠方法を理解したレナードの表情は晴れていた。

「さて、と」

 しかし、それが目的ではないとレナードは緩んでいた気分を引き締めると片手で紐状に細くした領域を壁や扉の向こうの手すりへと接着、もしくは結び付けると腕と体を固定した。

 これで事態が急変しても問題がないと空いている片手を歪んでいる領域に突っ込んだ。

 その領域、俗に言う空間の歪みはレナードが手を突っ込んだ瞬間に拒もうとするが、全てを知ったレナードにそれは通じず手の周囲から歪みをどんどん安定化されていく。


(これでいい)

 そして、近くにあるのに遠くに見える様にして領域の中にあった物を引き上げた。

「……これがモルテが言ってたものか」

 黒く細長い箱を床に置いてレナードは目を細めた。

「そう言えば、モルテと大聖堂で会った時にこれを持っていたな」

 8年前にあった継承の儀の顔合わせでモルテが黒い箱を持っていたのを思い出した。

 長さは1メートル以上で取ってもあれば肩に掛けるベルトも付いている。持ち運びを視野に入れたものである。

「しかし、何だってこんなもの……」

 箱を隠す為とはいえあまりにも厳重でありひねくれていた。

 モルテから話を聞かされていなければ箱を隠す為に備えられていた罠を一から探していなければならなかった。

 現に歪んだ空間の中にも箱意外の物質があった為に安定化させる前に領域の応用で亜種にあたる力で潰している。体を固定したのも念の為だ。

 とはいえ、無事に取り出すことが出来たのだからこれでモルテの頼みはすんだことになる。

 ついでに、取り出す過程で空間が安定している為に歪みがなくなり誤って歪んだ空間に落ちるということはない。それに、モルテが帰って来たらまた空間を歪めて隠すはずだからとレナードはあえて何もしないことにした。


 とはいえ、終ったことと部屋のことを伝えなければならないとレナードは黒い箱を持って階段を降りた。

 そして、リビングには丁度いいタイミングでファズマがいた。

「レナードマスター、終わったんですか?」

「ああ。すまないが飲み物をくれないか?」

「ああ」

 レナードに頼まれファズマはすぐにコーヒーを入れるとカップに注いで差し出した。

「部屋の歪みは消しておいた。入っても問題ないがモルテのことだ。また歪ませるかもしれないから注意しろ」

 そう言ってコーヒーを一口入れるとファズマの様子に気付いた。

「これがモルテが頼んでいたものだ」

 レナードの言葉に気付かれたファズマが驚くが気になってしまい箱に視線を落とす。

「中に何が?」

「箱の形から中身は想像出来る。それに、大聖堂でモルテがこんなことを言っていた。『数ある罪の一つ』とな」

「罪?」

「ああ。だから誰にも触れられない様に隠したんだろうな。だが、それをモルテが必要としたんだ」

 モルテが触れたくないと思いながらも必要とした箱の中身。矛盾している様にも思えるが真相はモルテにしか分からないと深く考えないことにした。

「ところで、店長がこれを必要としているのは分かったんですが、どうやって届けるんだ……ですか?」

「モルテの方から送ると言っていた。それが来たらこれをモルテに送ることになっている」

「二度手間な気が?」

「どのみち渡りの伝達文箱(メールボックス)に入らなければ異渡り扉で向こうに行くことも禁じられている。面倒だがこれしかない」

 そう言ってレナードは肩を竦めると箱をテーブルに置いて椅子に座った。

「それでどうだ?俺がいない間の方針は決まったか?それとレオナルドの方もどうなっている?」

 急にレナードが話と雰囲気を変えたことでファズマは一瞬驚いたが何を言っているのか理解してすぐに向の椅子に座るとレナードが知らないことを話し始めた。



  * * *



 それからまた時間が経った。

 深夜に死神と弟子達とクロスビーが3日振りにエノテカーナに集まったが一つ問題が発生していた。

「まだこないのか?」

「ああ」

 モルテが寄越すと言っていた物が未だに届かないのだ。

「どうする?あれがなければディオスは戦えないぞ」

 心配するアドルフに他の死神も黙り込む。それが弟子達にも感染するのだが唯一分かっていないディオスは困惑する。

「あの、そもそもこれは戦うんじゃなくてユリシアを助け出すまで逃げ回るはずです。逃げ回るだけではダメですか?」

「ダメと言うわけじゃないがなければ不安がな……」

 それも一つの手ではあるが死神からしたらそれだけでは不安があるからと渋る。

「それなら、私達でフォローをします。それでどうですか?」

「どうって、いや、何故急に?」

「先生も考えているんじゃないですか?呪がかけられていてもユリシアちゃんの体がそろそろ限界なのを」

 ロレッタの言葉にリーヴィオは口ごもった。


 恐らくユリシアにかけられていた呪はミクと同じ深い眠りにつくもの。それが体のことなど一切気にしないでものであるならば体の状態は危機的に陥っているはず。

 それなら早々に救出をすればいいと思うかもしれないが悪魔の狙いであり囮として引き付けることを決めたディオスが今のままでは不安ですあるという理由もあって鍛え直したのだ。

 それが僅か3日。3日でどこまで鍛え直されたかは知らないが、頼んでいたものがなければ不安である。


「そう言えば、ディオスさんは下級悪魔から逃げられましたよね?」

「小細工使って何とかです……けど」

 オスローにランバンであったことを言われていると思ったディオスは素直に答えると、全員の視線が集中していることに気が付いた。

「……あの?」

「ロレッタ、皆、ディオスのフォローは任せるぞ」

「はい」

「マオクラフも頼むぞ」

「おう!」

 どうやらある程度問題はあるが可能であったと一斉に許可が降りた。

「それでは作戦通りに。頼むぞ!」

 レナードの言葉を合図に全員が動き出した。

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