表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
12章 覚悟と霊剣
493/854

ディオスの決断

 ディオスの突然の頼みに全員が呆気にとられた。

「それはまた急に。一体何故でしょうか?」

 クロスビーの探る様な目がディオスを見つめる。

 少し前までのディオスは自分の命を棄てることを躊躇しなかった。だから力を貸して欲しいと言われてもそれが命を捨てる賭けの様なものではないかと疑う。

「俺一人じゃどうしようもないからです。それに、ユリシアと母さんを悲しませるつもりはもうないです」

 明からな心情変化にリーヴィオとクロスビーが顔を合わせて目を見張る。他の皆もディオスに一体どんな心理の変化があったのか気になる。

「だから……」

 ディオスはここで一呼吸入れた。

 今から言うことはディオスが最も嫌ってきたことだ。そして、それを含め今までの決別も含まれている。

 それを言ってしまうと望んでいた普通ではいられないし戻ることも叶わない。けれどもこれでいいとささやかれ、そうであると受け入れる。

「俺を死神にしてください!ユリシアと母さんを救うだけじゃなくて俺も生きてて良かったと思いたい。だから、俺の家族を救う力が、皆さんの力が必要です。お願いします!」

 言ってしまった、とディオスは心の中で早口に言った。

 死神になるということは大変なことであると予想は出来る。そして、それが考えている以上に大変なことであると。

 しかし、ディオスは選んだ。誰も悲しませず自分も生きられる道を。


 だから、思っていなかったディオスの言葉に全員が茫然とした。

「驚いたな……」

「しかし、何故急に?」

 ディオスの心情変化による発言の意図が分からないとレオナルドが問いかける。

「言った通りです。俺が死ななくて良かったと思いたい。そして、俺もその場所にいて良かったと思いたいんです」

 初めて生への執着が感じられた。

「それが、何故死神に繋がるのですか?死神というものにならなくとも生きていて良かったと思えるはずです」

 しかし、レオナルドは死神になる必要がないと言う。

「それではダメなんです。俺が実父を助けたいからです」

 またしてもディオスの口から予想外の言葉が出た。

「助けたいとはどう言うことですか?ディオスさんの実父は悪魔になっています。そして、ユリシアさんを拐っただけでなく貴方にも危害を加えています。それでも助けると言うのですか?」

「はい。ですが、俺の知っている実父なら悪魔になった自分を許さないはずなんです。だから、俺が止めます。止める為に倒します!」

 その一言だけでディオスが何をやろうとしているのかが分かった。

 特にファズマに至っては今まで嫌だの否定的なことを言っていたディオスが進んで言ったことに驚愕している。

「けれど、俺一人では何も出来ないことが分かっています」

「だから手を貸してほしいか」

 ここに至ってディオスが言った手を貸して欲しい発言が分かったとマオクラフが漏らす。

「それに、実父には俺がいないと現れないと思うんです。誘き出す為にも俺が必要なはです」

 そう言われて死神達の表面が強張った。

 ディオスが言ったことはほぼその通りであり簡単に悪魔を誘き出せる。しかし、ディオスを囮として使うのはどうかと葛藤する。加えて弟子達もディオスがまた命を捨てる様な行為に走ってしまうのではと不安に思う。


「……確かにそうだな」

「レナード!?」

「認めるしかないだろう。悪魔はディオスでなければ誘い出すことは出来ない」

 レナードが認める姿勢を見せたが、そこに待てとリーヴィオが入る。

「レナード、ディオスを囮にしなくてもレナードなら領域で何とかなるだろう?」

 レナードなら領域でいくらでも方法はあるはずだと言う。

 しかし、レナードは渋い顔を浮かべて首を横に振った。

「今回は無理だ」

 予想外の言葉に全員が硬直する。

「レナード、私もリーヴィオの意見に賛成ですが、何故不可能と?」

 レオナルドに問われレナードは深く息を吐いた。

「一つはモルテからの頼みだ。鍵は送ると言っていたがどうもそれだけじゃ何ともならないらしい。下手をすれば数日そっちにかかりっきりになる」

「数日!?」

「後回しにすることは?」

「モルテが連絡をしてきたってことは向こうもこっちと同じ状況だってことだ。もちろん早く肩をつけたいこともだ。だからどちらか一方に集中するってことは出来ない」

 モルテの一件がレナードの手を借りなければどうしようもない自体であると知るが、その間動けなくなることはどうしても避けたい。それに、レナードもいなければこの事件が片付く気もしない。

「それでは、どれ程の時間動けませんか?」

「数日。早くて3日は付きっきりになるな」

 思っていたよりも長いことにレオナルドが驚く。領域の魔術師の異名を持つレナードが付きっきりにならなければならない自体はと疑問に思う。

「それともう一つ。悪魔を領域で捕まえることにどうも胸騒ぎがする」

「胸騒ぎかぁ?」

「ああ。手が開いたら俺はディオスの妹の奪還に加わろうと考えている」

「レナードが!?」

 普段は後方から動くはずのレナードが前に出ると言うだけで死神達は驚く。

「ああ。だから今回は領域で悪魔を捕まえることはしない。ディオスをモルテの弟子として悪魔を誘き寄せる!」

 レナードは既に己の中で決めていたことの一部を明した。

 そして、その突然の決定に他の死神はもとより弟子達にディオスとクロスビーが茫然とする。

「って、ディオスをモルテの弟子に!?」

「そうだ」

「待ってよ父さん!モルテにそんな許可とってないだろ!?それに……」

「既に頼んである。それが届けばディオスは実父を止められる」

「それでも相手は悪魔だから死神がやらないと……」

「問題ない。マオクラフ、お前を付けるつもりだ」

「……はぁ?」

 ただでさえディオスが死神の弟子になることが驚くことなのに次に言った言葉の意味は何かとマオクラフは戸惑う。


 しかし、レナードは気にせずさらに言う。

「もちろん弟子組もディオスと共に悪魔討伐に出てもらう!」

 ……

「はぁぁぁぁぁ!?」

「えぇぇぇぇぇ!?」

「はぃぃぃぃぃ!?」

 数秒後、弟子達から驚きの声が響いた。

「待てレナード!?何を考えている!?」

「悪魔が俺達から逃げる以上は弟子組で何とか引き付けるしかないと考えている」

「だが、ディオスを使うと……」

「俺達がいたら逃げるだろう。俺も乗り気じゃねえが悪魔は弟子組が引き付けるしかない」

 大胆とは言えない苦渋の決断をしたというレナードの言葉に否定をしようとしていたアドルフが口を閉ざした。

「作戦はこうだ。ディオスが悪魔を誘き出したら弟子組が悪魔を引き付ける。その隙に俺達死神がディオスの妹を助け出す。マオクラフは俺達と連絡をする為に弟子組と行動を共にする様に。そして、救出後に俺達が悪魔を刈る」

「俺達が裏で回るのか……」

「そうなる」

 レナードが打ち出した作戦は本来なら死神が二手に別れるか弟子達と役割が反対になるもの。しかし、悪魔の行動を考えてしまうとこれしかないことで反対であろうが受け入れるしかない。


 そうして、方針が決まったことで必要なものがないかと話し合う。

「地下水路の見取り図を手にいれなければなりませんね」

「ああ。あった方が便利なはずだ」

「さて、私は3日の内にディオスさんを鍛え直すとしましょう」

 そして、レオナルドの発言に場が凍り付いた。

「待て待てレオナルド!ディオスを殺す気か!?」

 数秒後にマオクラフが慌てて止めに入るがレオナルドは気合を入れる為か指を鳴らしている。

 こんな性格だったかとディオスが疑問に思うが、マオクラフが突っ込んだのを気に突っ込みがさらに飛ぶ。

「そうだぞレオナルド!ディオスは戦い方を知らないんだぞ!」

「3日って、レオナルドさんが鍛えたら死にますよ!」

「そうだ!それなのに鍛え直すって……鍛え直す?」

 アドルフがあることに気づいたことで全員が疑問符を浮かべた。

「鍛え直す?」

「知らないのですか?ディオスさんは元々戦えるのですよ」

 レオナルドの告白。

 数秒後、今回の集会において一番大きな叫び声が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ