深みに嵌まって纏まらず……
レナードがディオスを見たことで全員は何を語るのかと注目する。
何かに気づいて尋ねたいことがあるのは何となく分かる。しかし、今のディオスがそれについて応えてくれるか疑問が浮かぶ。
それはレナードも思う所であったが聞かなければならないと口を開いた。
「ディオス、悪魔から呪を受けたか?」
「……呪ですか?」
少し間を空けてディオスは顔を上げた。しかし、表情は暗いままであったが、それでも応えてくれたことはありがたい。
「ああ。今のディオスになら分かると思うが何かを感じたはずだ。威圧感とは似ているが違う感じのものだ」
「威圧感……」
レナードに言われてディオスは呪を感じたかと思い、一つだけ心当たりが浮かんだ。
ユリシアを助けようとした時に押し潰されてしまいそうな、心が締め付けられてしまう感覚を。
それに気がついて表情が僅かに変わったのをレナードは見逃さなかった。
「……受けていたのか」
「待てレナード!それならディオスは……」
「いえ、呪がかけられている感覚が感じられません」
「クロスビー司祭、それは本当で?」
「はい」
「どういうこと?」
ディオスに呪がかけられていないということに驚く一同だが、クロスビーは店内に入った当初からディオスに違和感を感じていた。
その違和感は、本来ならクロスビーにしかないものであり、それ以上の力であったからだ。
「レナードさん、ディオスさんは加護を授けられていますね?それも護りの強い天族の加護が」
「ああ。エクレシア大聖堂にいた天族に気に入られてな」
「えぇぇぇぇぇぇ!!」
レナードとクロスビーの会話にアンナとエミリアが驚きのあまりに叫んだ。もちろん死神達も驚いているのだが完全に2人の叫び声で目立っていない。
「何で!?」
「言っただろ、気に入られたと」
「だから何でって聞いてるんです!」
「アンナ、落ち着きなさい!」
レオナルドに一喝されてようやく落ち着いたアンナは大人しく座った。
レナードはディオスに加護が与えられた理由をモルテから聞かされているが、そこに教皇や死神にも気に入られているとなれば収拾が収まらないとあえて言わず、そもそも言うつもりもない。
「ロード教の本拠地であることは知っていたが、まさか天族がいたとはな」
「逸話があるからいるかもしれないって思ったことはあるけど……」
天族が存在していることは死神にとって認知されているが、特定の場所にいることは予想していなかったとリーヴィオとロレッタが呟く。
「レナードマスター、ディオスの目は?」
「ああ。ランバンにいたときに覚醒したと聞いている」
「やっぱりか」
ファズマはこの際にとディオスの目についてレナードに尋ね、やはりと肩を落とした。
「ファズマ、気づいてたの!?」
「動きを見てれば分かるに決まってるだろ」
死神の目が覚醒していたことを隠していたのにファズマにバレていたと知ったディオスは呆然としてしまう。
「ちょっと、覚醒って……まさか!?」
「死神の目が覚醒している!?」
「いつの間に!?」
「その話は長くなるから後でにしてくれ」
驚く一同と無言で頷いて認めるしかないディオスにレナードはこの話を区切らせると予想が当たっていたことを伝えた。
「つまり、加護によってディオスに呪はかからなかったんだ。恐らく、呪がかからないディオスと呪にかかりにくいミクを狙うよりならディオスの妹を狙った方が簡単だったんだろう」
悪魔が狙ってユリシアを連れ去ったという見方をレナードがしたことで先程まで緩みかけていた空気が再び強張る。
そして、ディオスの表情が青ざめてしまったことに誰も気づかない。
「だがそれは加護があるからで殺せない理由ではない。何故しない?」
「しねぇ~って言うならよぉ、どぉしてぇ連れ去ったかも謎だなぁ」
ガイウスとアドルフが悪魔の行動がいまいち掴めないと頭を悩ませる。
「それに、話を掘り返す様で悪いが、ディオスが最も狙われていたはずだ。レナードの予想もあるが、あそこまで追い詰めてディオスを諦めるとは俺は思えない。普通ならディオスだけを狙うはずだ」
「だが、ディオスの妹に狙いを変えただろう?」
「それが分からないと言っているんだ!」
「やっぱり加護か?」
「いや、加護があっても同じだろう」
アドルフの疑問に色々と言うが、考えれば考えるほど分からないと深みに嵌まる。
その時、ディオスが椅子から立ち上がると駆け足で店から出て行ってしまった。
「……どうしたの?」
突然の行動にエミリアが呆然と呟く。その気持ちは他も同じであったがそれほど深く考えることはしない。
「なぁ~にっかにぃ触れたかぁ?」
「そうかもしれません。しかし、ディオスさんがあの様な行動を起こすのを初めて見ました」
のんきに言うガイウスに対して意外であるとオスローが言う。
ディオスの性格を一言で纏めるなら我慢強いのだ。例えどんな嫌なことやキツく諦めたい所であっても文句や弱音を吐かない。
そんなディオスが無言で突然出て行ってしまったのだから相当気持ちが追い詰められていることを感じられる。
「追いますか?」
「いい。展開して所在を把握しているから問題はない」
「……分かりました」
レナードが既に対処していたことで追いかける必要がなくなってしまった。
しかし、オスローは今のディオスには誰かが近くにいなければならないとも思っていた。だが、それはあくまでも感情論であり、ディオスに必要なのは一人になって考えることで、それを見守ることしか出来ないと矛盾する二つの感情を抱えながら黙った。
何事もないようにと願いながら。
その後も死神達は話を続けた。
「やっぱりディオスに加護があっても殺すか。加護があっても殺せないわけじゃないし」
「でも、ユリシアちゃんに狙いを変えたのはどうして?」
「分からないけれど、もしあの時に殺そうとしていたら私ごと殺しているはずよ」
「殺さないで奪い取る理由があったってこと?」
「どうしてか心当たりありますか?」
「分からないわ」
死神と弟子達が話すも纏まる気配を見せず、むしろ先程よりも深く、混沌と化していく。
このままでは結論が出ないと頭に浮かんだことや考えた末にと言うが、それが更に抜け出せない深みへと沈んで行っていることに気づかない。
それから十数分後。
「駄目だぁ……考えても分からない……」
マオクラフが限界を宣言したことで殆どが口を閉ざした。
ここでようやく自分達が同じことを繰返し論争していただけでなく悪魔の不可解な行動理由を考えすぎるあまりに抜け出せない深みに嵌まってしまっていたことに気がついたのだ。
「くっそ、頭が痛い……」
「余計なことを話しすぎましたね」
レオナルドとリーヴィオがその事に気づいたことで頭を抱えて呻いた。
頭を酷使したというよりは深みに嵌まっていたことがダメージとして重なる。
それでも頭を動かして考えなければならないと鈍った頭で気持ちを切り換えた。
そんな時だった。
「ん~……あの、もしかしたらこれって、そんなに深く考えなくてもいいんじゃないですか?」
論争に参加せずずっと唸って何かを考えていたアンナが片手を上げて聞こえるように言った。
最近病んでます。
病み病みです。
闇だけに……
今の話にストレスやフラストレーションを抱かせてしまって申し訳ございません。
出来るだけ今の展開を早く終わらせるのでもうしばらくお付き合いのほどお願いしますm(_ _)m




