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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
12章 覚悟と霊剣
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現状打破に向けて

 その日の夜。

「着いたぞ」

「……うん」

 エノテカーナに着くと車を降りたファズマがディオスに声をかけるが、その声には覇気がない。

(……無理もねえか)

 病院を離れるまでにファズマは死神が追われていた現状を全て教えた。


 結論を言ってしまえば、死神にとって最悪の状況だ。

 悪魔を追いかけたアドルフだが、悪魔が突然姿を消したことで見失ってしまったのだ。さらに、領域でずっと感知していたマオクラフも悪魔の気配が突然消えてしまったことに戸惑ってしまい、2人は悪魔を見失ったばかりかユリシアを奪還することが出来なかったのだ。

 さらには、悪魔は日時や場所を問わずに、けれども人が多い場所を避けて眼球を奪っていたのだが、今回は人通りが多い場所で白昼堂々と力を振るったのだ。

 フランコとエミリアが遮ったことも原因の一つと考えられたのだが、それでも人の目が多い場所で行うということはこれまでなかったこと。

 つまり、悪魔はなりふり構っていないとも言え、こうなってしまうと死神は動きにくくなってしまった。

 いくら領域を展開出来るとしても範囲があり、例え内部で動けなくなったとしても巻き込まれてしまえば負傷する。しかも、悪魔が連れ去ったユリシアがどうなってしまったのかも分かっていない。

 もしかしたら既に死んでいることも考えられるのだが、仮に生きていたらそれは一筋の希望の光だ。だが、一筋の光を消してしまうように行動を取ってしまえばユリシアは間違いなく悪魔の餌食となる。

 助けられるかもしれない命をむざむざと見過ごすことは死神には出来ず、それが今までの様な動きを制限させてしまっている。


 ファズマはその事を伝えると、ディオスは非常に悔しそうな表情を浮かべてしまい、思い詰めるようにして顔を伏せってしまった。

 それでも現状を打破するためには悪魔と何かを話していたディオスの力が必要であった。

 過呼吸から立ち直ったディオスを病院から連れ出し、未だに気を失っているミクをディオスの母親であるシンシアに任せたのだ。


 はたして、ディオスの口から何が出るかと思いながらファズマはエノテカーナの扉を開けた。

「いらっしゃいませ」

 開けてすぐに驚いたのは声をかけてきたのがマオクラフでないことだ。

「レナードマスター!?」

 カウンターにはレナードとマオクラフがいた。

「どうして!?」

「マオクラフから連絡を受けて戻って来たからだ」

 先程の営業態度でない口調でレナードは腕を組むと当たり前の様に言った。


 と言うのも、レナードはアシュミストで起きている事件をマオクラフから渡りの伝達文箱(メールボックス)による手紙で知っていた。

 そして今日、いつも送られてくる時間以外で届いたことに不信感を抱いたレナードは手紙を見て、事態が深刻になったと悟ったことでエクレシア大聖堂で行っていることを一時中断させて戻って来たのだ。

 それだけアシュミストの死神の状況がとんでもないことが分かる。


「俺達もここに来てレナードが戻って来たからだ着たことを知ったからな」

 もちろん、レナードが突然戻って来たことは他の死神にも驚きであった。

「それじゃ店長も?」

「いや、モルテからは連絡は寄越すなと言われている」

 もちろんモルテもアシュミストで何が起きているかはエクレシア大聖堂滞在中にレナードを通じて知っている。しかし、現在モルテは別件で動いていることに加えて連絡をされては困るからと連絡を絶っている。

 その為、モルテはアシュミストがどうなっているのか知らない。

「……そうなるか」

 もしかしたら帰って来たのではと思ったファズマの期待は見事に砕けた。


 ディオスは店内を見回した。

 モルテとミクは来られないことを知っている。いないのはアドルフだけで他の死神と弟子は既に集合していた。

「あ……」

 その時、医学生組と目があってしまった。

 ユリシアが連れ去られた直後に取り乱して暴言を吐いてしまったことを思い出して顔を伏せてしまう。

 けれども、気まずいままにしたくないからとディオスは自ら歩み寄ると、頭を下げた。

「すみません。あの時、酷いことを言ってしまって……」

 ディオスの謝罪に医学生組は驚いて顔を見合わせるが、直ぐにディオスの顔を見合わせたがまっすぐに見た。

「ディオス君、私たちは怒っていないわ。むしろ私達が防ぐことが出来なかったのだから謝るのは私達の方」

「ですが……」

「あんなことがあったら責めてしまうことは仕方のないことよ。だから謝らないで」

 ロレッタの言葉にディオスは複雑となってしまう。

 ロレッタ達医学生組は懸命に守ってくれた。ただ力が及ばなかっただけ。

 しかし、その力不足を責めているわけでもなければ気持ちも否定している訳ではない。ディオスがあの時に抱いていた気持ちを踏みにじられたことによる八つ当りだったのだ。

 その八つ当りとして矛を向けたのが医学生組であったことをディオスは謝りたかったのだが、どうしてもその部分で二の足を踏んでしまい、本当の事を言えないことが胸の中でくすぶる。


 ディオスが自分の気持ちと葛藤していると、また、エノテカーナの扉が開いた。

「いらっしゃいませ」

「レナード!?」

 入って来たのはアドルフと……

「クロスビー司祭!?」

「これはディオスさん。お久し振りです」

 アシュミストにある聖ヴィターニリア教会の司祭で天眷者クロスビーがいた。

「どうしてここに……」

「ミクさんとユリシアさんの一件で呼ばれたのです」

 ディオスの質問にクロスビーはあっさり言ってしまうとレナードを見た。

「話はお聞きしております。それで、ミクさんは?」

「今のところは問題ない。モルテの保険が役に立ったというところだ」

「そうですか」

「保険?」

「ミクにも呪がかかっているんだ。だが、店長が持たせたお守りで軽くすんでいるんだ」

 ミクにも呪がかけられていたことにディオスは驚いた。

「その為に私も呼ばれたのです」

 クロスビーは空いている席に静かに座った。


「全員揃ったことだ。始めるぞ」

 レナードは死神集会の始まりを言うとディオスを見た。

「ディオス、あの悪魔と何を話してどれだけ知っている?全て話してもらえるか?」

 全員の視線がディオスへと集中する。

 この中で一連の事件を起こしている悪魔のことを詳しく知っているのはディオスだけ。

 当然ディオスもそんな死神達の考えを悟っており、医学生組とのやり取りもあったことで深く息を吸って、言った。

「あの悪魔は、俺の実の父親です」

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